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アジアのMakers by 高須正和

また英国がコンピューターの歴史を作るときが来た——「英国のMakerムーブメントは世界一」Raspberry Pi財団代表エベン・アプトンが語る

産業革命の国イギリスで、Maker向けの企業がとても元気だ。Raspberry PiがなければMakerムーブメントは成り立たないし、micro:bitはここ数年の大きなニュースのひとつといえる。Raspberry Pi財団のエベン・アプトン(写真中央)にインタビューしたところ、彼はイギリスのMakerムーブメントについてアツく語ってくれた。

ガレージのアメリカ、知識階級のイギリス

忙しいエベンとの短いインタビューが予想外に盛り上がったのは、僕がRaspberry Pi財団を訪れる前に、コンピューター歴史博物館(The Center of Computing History:ケンブリッジ)やロンドンサイエンスセンターのコンピューター展示を見てきた話をしたからだ。

インタビューの前に、コンピューターの歴史におけるイギリスの役割について説明しておきたい。日本でコンピューターといえばAppleほかシリコンバレーの企業群が育んできたのが想起されるが、イギリスとコンピューターの歴史はさらに深く長い。

「コンピューターの父」と言われ、1800年代前半に、世界で最初のプログラム可能なコンピューターである階差機関(Difference Engine)を考案したチャールズ・バベッジはケンブリッジ大学で学んだイギリスの研究者だ。第2次世界大戦でドイツのエニグマ暗号を解くマシンを作っていたアラン・チューリングは人工知能の父と呼ばれ、今も「チューリングテスト」に名前を残している。彼もケンブリッジ大学で学んだイギリスの科学者だ。

ロンドンのサイエンスミュージアムに展示してある、バベッジの階差機関。 ロンドンのサイエンスミュージアムに展示してある、バベッジの階差機関。

1980年代にはARMを生んだAcorn Computersや、さらにその母体となったSinclairといったコンピューター会社がケンブリッジから生まれた。ARMの命令セットはほとんどのスマートフォン、そしてRaspberry Piで使われている。1990年代にはオックスフォード大学のティム・バーナーズ=リーが世界最初のWorld Wide Webを稼働させている。近年もAlphaGoを生んだDeepMindは社長のデミス・ハサビスほか中核メンバーはケンブリッジ大学の出身者で占められ、Googleに買収された今もケンブリッジに本社を置いている。そしてRaspberry Pi財団の代表エベンもケンブリッジ大学のコンピューターラボの出身だ。

スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグといったアメリカのコンピューター文化の担い手が、大学の研究とは別のところでガレージからビジネスを展開してきたのに対し、イギリスのコンピューター史はケンブリッジ大学の数学や計算機科学を中心に、研究の延長として発展してきた。(もちろんどちらの国にも、例外は多くいるが)

ケンブリッジのコンピューター歴史博物館の展示は、1960年代から続いている。ここで展示されているものは、シリコンバレーにあるコンピューター歴史博物館よりもスタートが早い。 ケンブリッジのコンピューター歴史博物館の展示は、1960年代から続いている。ここで展示されているものは、シリコンバレーにあるコンピューター歴史博物館よりもスタートが早い。

次に世界を変えるのは君だ!

ケンブリッジのコンピューター歴史博物館に展示されている「コンピューティングのパイオニアたち」パネル。一つだけ鏡がはめ込まれている。 ケンブリッジのコンピューター歴史博物館に展示されている「コンピューティングのパイオニアたち」パネル。一つだけ鏡がはめ込まれている。

コンピューター歴史博物館の「コンピューティングのパイオニア達」パネルには、バベッジやチューリングといったイギリス人達のほか、Linuxのリーナス・トーバルズ、Appleのスティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアックなど世界中の開拓者達が展示されている。その中に一つだけ鏡がはめ込まれ、

「君かも? 安いコンピューターと、プログラミングを理解することが、世界を変えることを知ってるかい? 本当にそうなんだ! 君は僕たちになにをもたらしてくれる?」
というメッセージが掲示されているのが最高にクールだ。

このコンピューター歴史博物館では、コンピューター教育について今もワークショップが行われている。

コンピューター教育「BBC Micro」と「micro:bit」

イギリスはコンピューター教育に早期から取り組んでいて、1980年代に国営放送のBBCが「コンピュータリテラシープロジェクト」という教育プロジェクトを始める。コンピューター教育のための番組が放送され、そこに合わせて開発されたコンピューターがBBC Microだ。続いてイギリスの教育技能省が、公立学校にマイクロエレクトロニクス教育プログラムを開始し、各学校がコンピューターを購入するための補助金を出した。ここで一番購入されたのがBBC Microシリーズだった。ちょうどmicro:bitをBBCがイギリスの学校に無償配布したのと同じような試みが、1980年代にはすでに行われていたのだ。今もイギリスの学習指導要領にはコンピューターリテラシーがあり、アルゴリズムなどが指導要領に組み込まれている。

ケンブリッジのコンピューター歴史博物館には今もBBC Microが稼働中で、BBC Microを使ったワークショップが現役で行われているほか、Acon ComputerやSinclairの名機たちが展示されている。

今も現役でワークショップを行っているBBC Micro。 今も現役でワークショップを行っているBBC Micro。

僕がそうした名機を見てきたことを聞いたエベンは、Acorn ComputerやSinclairといった会社の名前を僕が出すなり、機関銃のように話し出した。

イギリスのMakerムーブメントは世界一だ

高須

高須

「ロンドンのサイエンスセンターに行ったら、販売コーナーにものすごい数のMaker向け製品、教育用ツール、おもちゃが並んでいて、どれもイギリスの会社達だ。イギリスのMakerムーブメントは盛り上がっている。このムーブメントをどう思う? なぜいま急に盛り上がったのだろう?」

Eben

エベン・アプトン

「イギリスのMakerムーブメントはすばらしい、世界一と言ってもいいんじゃないか。micro:bitを使ったロボットキットなどを作っているKitronik、Raspberry Piの面白いケースや周辺機器を作っているPimoroni、導電性インクのBare Conductive、知育キットのTech Will save usなど、みんな素晴らしいMaker会社だ。

10年前に僕らがRaspberry Pi財団を始めたとき、ムーブメントは何もなかった。でも、それからエレクトロニクスのブーム、Makerムーブメントが起きて、あらゆる動きができた。僕らイギリスには誇らしい歴史がある。金属加工、産業革命、そしてこのケンブリッジでバベッジやチューリングといった計算機の父達が活躍した。もちろん、その歴史を僕らはしばしば忘れる。バベッジやチューリングを誇っても、その後の数十年はイギリスからあまりビッグニュースがなかった(笑)。でも、この10年は違うよ! イギリスからまた世界を牽引する動きが生まれている。」

高須

高須

「最近のイギリスMakerシーンで、一番ポジティブなトピックは何だろう?」

Eben

エベン・アプトン

「それは興味深い質問だ! ものすごくたくさんあるけど……。FINTECHはその一つだ。イギリスは今も世界の金融センターで、そことテクノロジーがつながることには途方もない可能性がある。今現在はまだ大きい流れではないが、将来的に、多くのイギリス企業がそこに加わろうとしていることは楽しみでたまらない。FINTECHという言葉が出てきた数年前、ケンブリッジで、テクノロジーで何ができるかのブレインストーミングをした。とてもエキサイティングなブレインストーミングだったけど、現実はさらに拡大している。」

高須

高須

「なるほど。僕は教育向けやDIYが目立つと感じだけど、Raspberry Pi財団のFounder(であるエベン)はよりハイエンドを見ているのは興味深い。もちろん、ハイエンドといっても限られた人のためのスーパーコンピューターじゃなくて、安価でオープンなプラットフォームを。もちろん、僕もハイパワーな世界は大好きだ。」

Eben

エベン・アプトン

「オープンなコミュニティはハイパワーな世界でも力を発揮する。Raspberry Piとそのコミュニティは驚くべきものだ。Raspberry Piは何よりもLinux PCで、コンピューターにできることならなんでもできる。これを初めてのコンピューターにする人もいるし、エンタープライズ用途でも使える。今後のRaspberry Piはマルチコア化が進み、よりパワフルになっていくだろう。」

高須

高須

「多くの人たちがRaspberry Piを使っていて、教育目的での使用も多い。Raspberry Pi財団がCoderDojoに力を入れているのは知っている。僕は何人か日本のCoderDojoに友達がいるよ。」

Eben

エベン・アプトン

「CoderDojoはすごい勢いで広がっている。去年は多くのCoderDojoをやったが、月ごとにどんどん大きくなってきた! Raspberry PiのAnnual Reportにも数が伸びていく様子が見られるだろう。日本でもRaspberry Piが盛り上がっているのはうれしいね。

2013年に初めて日本に行って秋葉原を回ったが、その時はあまりRaspberry Piを見ることができなかった。去年の2017年に日本に行ったら、どこにでもRaspberry Piが見つかった。すばらしい! 日本はCodoerDojoのようなビギナーと、秋葉原に見られるような熟練エンジニアの両方でRaspberry Piを使ってもらっている。使うだけじゃなくて、IchigoJamみたいな素晴らしいハードウェアのきっかけになったのはすごく嬉しいことだ。あれは素晴らしい。

僕たちはよい関係を築けているといえるだろう。これからもぜひよろしくね!」

インタビュー後も、僕がその次にダックスフォード帝国戦争博物館に行って飛行機を見ると聞いたエベンは、その博物館で展示されているコンコルドの試作モデルの素晴らしさについて語り出した。ニューヨークのイントレピッド海上航空宇宙博物館に置いてあるコンコルド(量産機)と試作機の違い、サンタクララに展示してある米空母ホーネットなど、飛行機談義に花が咲く様子は典型的なギークそのものだった。

ケンブリッジ近郊にあるダックスフォード帝国戦争博物館には、テスト機器などを満載したコンコルドの試作モデルが展示されている ケンブリッジ近郊にあるダックスフォード帝国戦争博物館には、テスト機器などを満載したコンコルドの試作モデルが展示されている

Raspberry Pi財団は彼らが発行している2つの雑誌、PiMagとHackspaceが日本でも発刊されることを強く望んでいる。プリントメディアは有料、デジタル版を無料で配布することにしてくれれば、コンテンツの料金などはどうとでもするとのことだ。僕もこれが日本語版になれば読みたい。この記事を読んだ出版社で興味ある人は僕まで連絡いただけるとありがたい。

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