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アジアのMakers by 高須正和

エンジニアにだって権利がある 社会制度はイノベーションを加速させる

MITの「深センの男」であり、ハードウェアスタートアップアクセラレータHAXのメンターでもある“バニー”ファンが自らの体験を語りつくした「ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険」(技術評論社)が2018年10月19日に発売された。fabcross読者の興味に合うテーマだと思われるので、書籍と連動した記事を3本連続で掲載する。

ハードウェアの設計開発が特許でがんじがらめになったのはつい最近の話だ。Apple最初の大ヒット商品「Apple II」は、製品に詳細な回路図が付いていた。今は権利についての考え方がまったく違い、特にアメリカではデジタルミレニアム著作権法(DMCA)により、家電製品の分解やリバースエンジニアリングはしづらくなったことに対して、多くの議論や法律の修正が続いている。一方で中国ではアメリカと違った知財の考え方が大量の新製品開発につながっている。ハードウェアハッカーの第一人者バニー・ファンが考える、イノベーションを加速させるためのエンジニアの権利とは。

ハードウェアのオープンソースを巡る難しさ

ハードウェアのオープンソースについて語るときにはいつも難しさと若干の混乱がつきまとう。ソフトウェアではソースコードが開示されればオープンソースで、それを動かすためのOSやコンパイラ、開発するためのエディタ類もオープンなものがそろっている。それに比べて、Open Source Hardware Associationなどでは回路図、部品リスト、外装のCADデータを公開すると「オープン」とする見方をしているが、ソフトウェアと違い、データの公開だけでオープンとして扱えるかについては、いろいろな問題がある。たとえば、より厳密に「オープンソース」を求め、ハードウェアの設計を行う開発ソフトもオープンソースであることを要求する人たちもいる。これはハードウェアエンジニアに対して出来の悪いツールを押しつけることはいびつさがある。

設計した回路図を実装する過程、つまり工場で行われていることを誰でも利用できる形にするのはさらに困難がある。部品リストに載っているプロセッサやLEDは特定の会社しか作っていない。回路図やCADデータを指定どおりに作るには特定の工場へのアクセスが必要で、工場ごとに製造設備に応じた工夫をするので、完全にイコールにならない上、工場に依存したファイルをオープンにしてもあまりオープンの意味がない。結果としてオープンソースのハードウェアが存在感を出しているのはArduinoなどの開発ボードや3Dプリンターで作れるようなものに限られ、ソフトウェアのオープンソースに比べると存在感は薄い。僕の勤めるスイッチサイエンスをはじめ、世界には多くのオープンソースハードウェアの製造や販売でビジネスしている企業があるが、ソフトウェアのオープンソースに比べると存在感は小さい。

MITで開かれたオープンソースハードウェアサミット2018にて、オープンソースハードウェア業界を代表するSparkFun ElectronicsのCEOネイサン。 MITで開かれたオープンソースハードウェアサミット2018にて、オープンソースハードウェア業界を代表するSparkFun ElectronicsのCEOネイサン。
Apple IIには回路図が付属していた。 Apple IIには回路図が付属していた。

違った考え:中国の知的財産について

多くのハードウェア製品を成功させている発明家であり起業家でエンジニアでもあるバニー・ファンはアメリカ人で、中国でのハードウェア製造にこの上なく詳しい。彼の著書「ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険」(技術評論社)の第2部は「違った考え:中国の知的財産について」というそのものズバリのタイトルで、イノベーションに報いる仕組みについて紹介している。

深センで中国人エンジニアたちと問題解決に取り組むバニー・ファン(写真提供:Bunnie Huang) 深センで中国人エンジニアたちと問題解決に取り組むバニー・ファン(写真提供:Bunnie Huang)

彼は前述したような西洋の「オープンソースハードウェア」についてもこの上なく詳しく、多くの実践をしている。彼はその目で中国のハードウェア開発を「中国のガラパゴス的に進化したオープンソースは、遺伝子や祖先が違うものが似通って見えるようになったように、背景になった文化や経緯は西洋と全く違うが、結果としてイノベーションに報いる仕組みができている」と語る。

西洋の知財処理モデルではモノとは別に知財という存在を認め、それが蓄積されたり対価が支払われたりしている。知財でビジネスをしている人はハードウェア製造から遠い法律の専門職だ。一方、中国でハードウェアビジネスをしている人はほとんどが自分の工場があるか工場を持つ企業とパートナーシップを結んでいる。そのため、他人が思いついていないアイデアを自分で製造して、ありふれたものより高く売ることができる。結果として知財そのものにあたる設計図やデータシートは無料で流通するが、それぞれが製造物をやりとりすることで特に誰も損をしていない。また、最初から商売として市場で流通することで、「あるものは作らずに買ってくる」ことが可能になり、Webサービスの開発で見られるマッシュアップのようなハードウェア開発が見られる。

知財がモノと一緒に流通する中国のIPモデル(「ハードウェアハッカー」161ページ) 知財がモノと一緒に流通する中国のIPモデル(「ハードウェアハッカー」161ページ)

西洋モデルでは、法律によりIPが長期間にわたって蓄積できるようになり、不可侵な独占的な地位を作りやすい。これは、てっぺんにいる連中にとっては結構だけれど、駆け出しには厳しいので、現代の西側の携帯電話マーケットのような状況ができあがってしまう。すばらしいクオリティの驚異的な電話がAppleやGoogleから生まれ、スタートアップはそれら大企業のエコシステムのためのアプリやアクセサリーを作らせてもらえるだけだ。
(「ハードウェアハッカー」P161)

とバニーは語る。確かに中国では驚くほど多様な携帯電話が、中小企業によって開発/販売されている。

深センの市場で見られる多様な携帯電話 深センの市場で見られる多様な携帯電話

もちろん僕も、中国の知財管理がどんな場合でもいいと思っているわけではない。例えば中国の大手スマートフォン企業VIVOが「最新型のスマホはカーネルを書き直して高速化した」と語っているが、Android(Linux)のカーネルはGPLライセンスなので改変したらソースコードを開示しなければならないのに応じておらず問題になっていて、こういった件がどう片付くのか注目している。(僕のゲスの勘ぐりでは、実はたいしてカスタマイズしていないのをマーケティング的に吹いて、その露見を恐れて公開できないんじゃないかと思っているんだが……)

ほかにも「中国独自のブラウザ!」とプレスリリースを打ったものが、Googleが中心になって開発しているオープンソースブラウザChroniumを基にしていたのが露見して謝罪とか、そういった、しょうもない例が中国まわりでは今も多く見られる。

エンジニアにだって権利がある

バニーが大声で語るもう一つのテーマが、ハードウェアを解析し、開発し、いじくりまわすためのエンジニアの権利だ。本書のいたるところに「開発する、いじる権利を自覚的に確保しよう」というメッセージが見られる。

権利を得るには、それを行使しないとダメだ。議論が分かれるからというだけで、女性が投票せずに黒人がバスの後部座席にすわり続けていたら、アメリカではいまだに人種分離が続き、女性選挙権もなかっただろう。人種平等や普通選挙に比べるとリバースエンジニアリングの権利はたいしたものではないけれど、前例ははっきりしている。権利を獲得するためには、立ち上がってそれを主張するだけの大胆さがいるんだ。
(「ハードウェアハッカー」P165)

 公开にせよオープンソースにせよ、オープンハードウェアは利用者が自分の技術を自分で支配するよう力を与えるという話であって、何か特定の法的な仕組みを指すものではない。危険を気にせず、フルスピードで進め!
(同 P208)

僕はまた、僕たちの自由を縮小しようとする法制度の動きにも反対する。
僕はデジタルミレニアム著作権法(DMCA)のない時代に生まれた。自分が死ぬときも、だれでも自分のモノを理解し、修理し、よりよくしていく権利があることを樹立する形で、同じような世界を遺していきたい。ますますテクノロジーに依存した社会になるにつれ、これはますます重要になる。もしテクノロジーがブラックボックス化するのを受け入れたら、それはそうしたものを作り、規制する会社や政府に主体性を譲り渡すことになる。
(同 P209)

ハードウェアハッカーに出てくる知財の枠組みはアメリカと中国を対象にしたものだが、日本の法制度や人々のメンタリティは新しいことをとりあえず試せる、イノベーションが起きやすい形になっているだろうか。僕は一年のほとんどをいろいろな国を旅していて、たまにドローンを飛ばすのを趣味にしている。この半年で中国、スペイン、アイルランド、イギリス、チェコ、アメリカ、日本などで飛ばしてきた。それぞれの国で認証を取ったりルールを調べたりしているし飛ばす前は場所の管理者に断って管理者の目の前で飛ばすようにしているが、圧倒的に許可が取りづらいのは日本で、また管理者とぜんぜん関係ないところで「許可取りましたか?」と注意してくるのはそれぞれの国の日本人観光客だ。(現地の人から注意されたことはほぼない。あっても、「今日は人が多すぎるからダメ」などの本当にマズいときだった)

ドローンに関しては完全に私事の逆恨みだが、「それまでなかったものを扱う」のが及び腰になっているように思えてならないし、自分で触ったことがない人が適当に規制を作っているようにしか思えない。過去にも連載で、シンガポールの技適が簡単で良いシステムになっていることについて触れた。できる範囲でオープンハードウェアがらみの活動に寄付をしたりもしている。ハードウェア好きにも権利がある。いろいろなハードウェアがいじりやすい社会であってほしいし、そのためにできることをしていきたい。

告知:

11/30日、東京秋葉原の書泉ブックセンターで「ハードウェアハッカー」のトークイベントが行われます。詳細はこちら。

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