大学から始まるものづくりの今
デジタルとアナログを横断できる人材を——東海大学のものづくりデザイン思考
デザイナーとエンジニアが互いに歩み寄ること
デザイナーとエンジニアとの関係も、今後ものづくりにおいて求められる要素となる、と平瀬氏は言う。
「最近は、エンジニア教育の中にデザイン思考が入ってくるようになってきた。デザイン思考を多くの人たちが理解するようになることで、どういったプロダクトを作るべきか、サービスはどうあるべきか、という本質的な議論ができる。目的を明確にし、ユーザーや使うことのことを考えたものづくりをしていくことが、ものづくりに携わる人すべてに関わることだと考えてもらいたい」(平瀬氏)
デザイン思考をもとにしたものづくりが、いままさに求められていると戸谷氏。同時に、工学系などエンジニアの人たちがデザインについて学ぼうという姿勢を取り始めているという。
「工学系の学生たちが、美術系の講義を受講するようになってきた。こうした動きが加速すれば、文系や理系という言葉自体もなくなり、デザインとエンジニアリングの両方が分かる人材が生まれてくるようになる。エンジニアがデザインに視野を広げ始めているように、デザイナーもこれからもっとエンジニアのことを理解し互いに学び合うようなことが、これから必要になってくるだろう」(戸谷氏)
デザイナーとエンジニアが互いにもっと歩み寄り、乖離をなくしていくことが、いま教育現場にも求められている。エンジニアとデザイナーの双方の関係が変化する、まさに過渡期にいるのかもしれない。
これから求められるデザイナーとは
時代の変化のなかにおいて、デザイナー自身のあり方も問われ始めている。誰もが作り手になれる、誰もがデザインに携われる時代のなかで、プロとしてのデザイナーがどう振る舞い行動していけばいいかを考えなければならない。
「例えばグラフィックの世界だと、Illustratorを使えば誰でもなんとなく作品が作れてしまうと考えがちだが、作られたものの深さや中身、クオリティなど、どれだけいいものができているかを改めて問い直さなければいけない。“きれいにみえるもの”ではなく、本質的に使い手にとってより良いものを提供しているか、クオリティの高いものをどう作っていくかを日々考えることが求められている」(戸谷氏)
誰もがものづくりできる時代だからこそ、なんのためのものづくりか、誰のためのデザインかを考えることが必要だ。
「ものづくりの設計の規範になる部分をしっかりと作れるのがデザイナーであり、プロの仕事。何が良いもので、何が悪いものかを見極め、ユーザーや使い手によってより良いものを提供するための根本的に設計をデザイナーが担わないといけない。ものづくりのあり方が変化しているいま、デザイナーとしてのあるべき姿や矜恃も問われているのかもしれない」(戸谷氏)