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GW特別企画

【動画あり】子どもの日なので高度30000mまで鯉のぼりを揚げてみた

無事機体回収に成功した後、帯広に移動し名物の豚丼を食べながら、岩谷さんにお話を伺った。

岩谷さんは福島で生まれ、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に出てくる風変わりな発明家ドクに憧れて、将来は自分も発明家として好きなものづくりに熱中できる大人になりたいと思っていた。

しかし、中学生のとき発明家になるためにはどうしたらいいか調べてみると、企業に就職して研究開発することも、大学に進み研究をしながら教鞭をとることも、自分が子供のころに思い描いた発明家の道とは違うことに気づき、自分はどうしたら発明家になれるのか、先が見えなくなったという。

「進路はだいぶ悩みましたが、ものを作って発明をするなら、大学の機械科に入れば自分のやりたい事の先が見つかるかもしれないと思って、北海道大学の工学部に入りました」(岩谷さん)

そうして4年生になったある日、たまたまネットで米国の大学生が風船で写真撮影したというニュースを見つけたのが運命だった。 

「『これだ!』と思って、そのニュースを開いているウインドウの隣ですぐに調べ始めたんです。カメラの重さから必要なヘリウムの量と風船のサイズを計算し、容量の多いヘリウムガスボンベと風船を扱っている業者を調べて発注して、1カ月経たないうちに第1号ができました。それが2011年の11月です。

最初はどこに飛ぶかわからなかったので、ひもとリールをつけて釣りのように地上から操作しましたが、リールは普通に買うと10万円以上もして、とても大学生では買えるものではなかったので、家にあるコロコロ(粘着テープが巻かれたローラー型掃除機)を段ボールとガムテープで改造して、倍の直径にして回転機構もつけました。300円ぐらいでできましたね(笑)」

4回目の打ち上げで大きな壁に

そうして3回ほどひも付きで打ち上げた後、いよいよひも無しの機体を打ち上げる。1号機を作ってから1カ月目だった。しかし初めから成功とはいかなかった。

「札幌から東に20~30kmぐらい離れた農地が多いエリアあたりに落ちると思ったら、真南に100km以上離れた室蘭の沖に落ちたんです。GPS発信機もつけていましたが、どんどん反応が弱くなって、ついには消えてしまって回収もできませんでした。

がっかりしながら大学に通っていたら、10日ぐらいして苫小牧で拾った人が機体に貼ってあった連絡先を見て連絡してくれました。戻ってきた機体を見ていたら『もうちょっとがんばってみなよ』って言われた気がして、そこから何度も試作を重ねて16号機でようやく狙ったところに落ちるようになったんです。

失敗をばねに落下地点の予測精度の向上や設計、素材選定に至るまで試行錯誤を繰り返して、ようやく成功した岩谷さんを地元メディアやWebメディアも注目するようになり、活動が紹介されるようになった結果、TV CMに起用されるなど、風船撮影の第一人者として広く知られるようになった。

エベレストを撮って、普段見上げているものを見下ろしてみたい

風船撮影という形で子供のころに思い描いた「発明家」としての人生を歩み始めた岩谷さんは、風船撮影を普及させるべくさまざまな計画を立てている。そのひとつがワークショップを絡めたコンテストだ。

「宿題を出して審査を通れば、ワークショップに出席できるような形だったり、僕が全員分の飛行申請の手続きをしたり必要な風船を提供したりすれば、参加する人の負担も小さくて手軽にできるようになるし、安全な場所でやればだれでも安心してできますよね。何か事故が起きると、一気に規制される方向に向かってしまうので、安全性や法令順守のもとでていねいに広げていきたいと思います」

また今回のように人力で回収するのではなく、無人飛行機が自動的に回収するような仕組みの実用化も進めているという。

「これを実現して『世界の屋根』と呼ばれているエベレストも撮りたいですね。常に見上げているものを上から見下ろすというのもなかなか面白いと思います」 

また地球のてっぺんからの空中撮影と並行して、地球の底である海底撮影も次の目標だ。今年中には1号機を完成させる目標だと教えてくれた。

「宇宙も海底も個人では絶対に行けないって言われている場所でした。でも、政府主導だった宇宙開発が、宇宙利用というフェーズに変わってきて、民間企業でも宇宙を目指せるようになった中で、個人で成層圏まで風船を飛ばせるようになった。

それと同じことが海底でもできると思っていて、まだ個人で成功した人はいないけど、僕はアイデアの勝利を見たいんですよ」

発明家として歩む岩谷さんは世の中にとってどういう存在でありたいのか、最後に聞いてみた。

「僕の活動を札幌市も応援してくれて、学校や地域の施設に何度か講演に招いていただきました。僕も中学生のときに夢が行方不明になってしまって迷った人間なので、子供たちに夢って偏差値で決まるものじゃないっていうのが伝わればいいなと思います。それと同時に風船撮影を通じて、宇宙は誰のものでもあることを伝えたいし、僕の活動を見た誰かの背中をそっと押せるような存在になれたらと思います」

風船が破裂した瞬間。この時点で風船の大きさは70倍にまで膨張する。 風船が破裂した瞬間。この時点で風船の大きさは70倍にまで膨張する。

自分の将来に不安を感じていた日々の中で見つけた風船撮影、そこから1カ月で打ち上げ、たった2年で自分の道を切り開いた岩谷さん。その陰には自分のやりたいことを徹底的に突き詰めて、夢を形にするエンジニア魂に満ちた強い意志があった。

そんな話を聞いた矢先に「次は深海に鯉のぼりを泳がせましょう!」と言ったらあきれられそうな予感がしたので言わなかったけれど、世界一高い山エベレストの空撮と、世界一深い海溝であるマリアナ海溝の海底撮影に岩谷さんが成功する日も、そう遠くないように感じた。 

ヘリウムボンベを業者さんに返却するまでが打ち上げです。 ヘリウムボンベを業者さんに返却するまでが打ち上げです。

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