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実食! 3Dプリンターで飴細工を出力してみた——砂糖が素材のフードプリンターが生まれるまで

「フードプリンターが登場!」「未来の食事は3Dプリントされる」なんてニュースを目にしたことがあるでしょうか。食品の3Dプリントは定期的に話題となり、商品化されている機種もあるようですが、実用的なものを目にすることはなかなかありません。ぜひ一度は味わってみたいものだと思っていた折、国内で「飴を出力する3Dプリンター」の開発に成功したといううわさを耳にしました。これは実食させてもらうほかありません!

まずは実食!3Dプリント飴細工

やってきたのは東京タワー近くにあるビルの一室。改造中の3Dプリンターや電子パーツがひしめく室内で、飴プリンターの開発が進められているようです。

そんな部屋の一角にたたずむ、こちらのマシンがうわさの飴プリンター。見た目はよくある開放型の3Dプリンターと似ていますが、出力部分の大きさが特徴的です。

このマシンを使って出力されたのが、こちらの白いネコ。ちょっと粉っぽいかも? ということ以外、普通の3Dプリンターで出したものとの差は感じられません。いろいろ気になることはありますが、とにかくまずは味わってみましょう!

お尻の方から失礼します……。 お尻の方から失礼します……。
甘い! 甘いけどささやかすぎるよ! 甘い! 甘いけどささやかすぎるよ!

おそるおそるなめてみると、口の中にとってもうっすらした甘みが広がります。甘いか甘くないかで言えば確実に甘いのですが、川の向こうから呼びかけられているような主張の薄さに思わず笑ってしまいました。

甘さのタイプとしては、ケーキの上に乗っているサンタクロースのような砂糖菓子が近いでしょうか。「プリントされた飴であること」は事実なのですが、これがおやつとして出され続けたら子どもはグレてしまうかもしれません。

fabcross編集部の林田さんもこの表情。控えめな甘さを前にすると人は笑うらしい。 fabcross編集部の林田さんもこの表情。控えめな甘さを前にすると人は笑うらしい。
試食後のネコ。お尻の方がすこし溶けているのがお分かりいただけるだろうか。外側だけでなく、中も格子状に造形されている。 試食後のネコ。お尻の方がすこし溶けているのがお分かりいただけるだろうか。外側だけでなく、中も格子状に造形されている。

甘さの加減はさておき、形も崩れず食べられるレベルで出力されていることが分かりました。ここに至るまでにはかなりの苦労があったはず。開発者の方にお話を聞いてみましょう。

砂糖と3Dプリントは相性が良い?

こちらの、笑顔で茶こしを持っている青年が飴プリンターの開発者である井口拳太さん。大学院で工学を学ながら、国産3DプリンターメーカーであるMagnaRectaのインターンとして活動し、FFF方式の3Dプリンターの開発に携わっています。聞くところによれば、学部1年のころから3Dプリンターを個人で購入して使っているという、根っからの3Dプリントっ子とも呼べる人物です。

井口さんはオープンソースの3DプリンターであるRep Rap※の日本コミュニティ(Rep Rap Japan Community)でも活動をしています。そこでは毎年Maker Faireに自作の3Dプリンターを出展するのが恒例となっており、ある年のテーマが「フードプリンター」になったことから飴プリンターの開発がスタートしました。

※RepRap…パース大学のエイドリアン・ボイヤー教授によって開発された3Dプリンターの名称と、そこから派生した3Dプリンター群を示すカテゴリ名。設計データが全て公開されていることから、愛好家たちによって大量の派生形が開発されている。

井口さん「3Dプリンターで使えそうな食材を考えたときに、砂糖を溶かして飴にするアイデアを思いつきました。FFF方式の3Dプリンターは固いひも状の樹脂(フィラメント)を熱で溶かして積層していくのですが、砂糖も熱で溶けるし冷えたらすぐに固まる性質があるので、同じような方式でプリントできるはずだ、と思ったんです」

食品を3Dプリントするための方法はいくつかありますが、液体やペーストになった食材をシリンジ(注射器)に入れて押し出していく方式が主流だそう。しかし、井口さんはFFF方式プリンター開発の経験を活かし、固体の食材を熱で溶かして出力する方式にチャレンジしました。

出力方式の模式図。シリンジ式ではペースト状の食材を用い、加熱を行わないことが多い。(図は筆者作成) 出力方式の模式図。シリンジ式ではペースト状の食材を用い、加熱を行わないことが多い。(図は筆者作成)

既存のFFFプリンターのほとんどはフィラメントをギアで挟んで送り出す機構ですが、砂糖はひも状になっていないので、そのままではうまく出力できません。そこで、砂糖と同じように粒の形をした樹脂(ペレット)を出力するプリンターを参考に開発が進められました。

井口さん「じょうごのような部分にためた砂糖の粒をスクリューで押し込みながら、下の方で加熱して液状にしています。粒の状態からだんだん下の方に送られ、途中から溶け始めていくのが重要です。飴プリンターの開発では、このペレット状の素材を造形できる射出器の開発が最優先で、残りの部分はそこに合わせるような作り方をしました。普段は筐体を設計してから射出器を取り付けているので、逆の順番ですね」

粒状の砂糖を溜めておく部分。 粒状の砂糖を溜めておく部分。
上部のモーターが回ることで砂糖が下に送られ、下部で熱せられることで溶けた状態で出力される。 上部のモーターが回ることで砂糖が下に送られ、下部で熱せられることで溶けた状態で出力される。
試作機が砂糖を溶かして出力する様子。(提供:井口拳太)

砂糖の制御は「甘くない」

ペレット式の射出器が完成すると、次は砂糖との闘いが待ち構えていました。

井口さん「樹脂素材に比べると、砂糖は温度に対してすごく敏感なんです。加熱する温度が5度変わるだけでも、硬くボソボソした状態から一気にドロドロになったりする。固体と液体の中間のような状態にするための温度管理も難しく、何度も実験を繰り返しました」

また、砂糖とひとことで言ってもその種類はさまざま。粒の大きさや溶ける温度、焦げ付きやすさなど、3Dプリントするために検討すべき事項がたくさんありました。検証の結果たどり着いたのは、一般的なものよりも粒が大きい砂糖。それでも利用前には茶こしを使ってサイズの選別をする必要があるそうです。

検討を重ねて最終的にたどり着いた砂糖がこちら。企業秘密(?)のためモザイクをかけています。 検討を重ねて最終的にたどり着いた砂糖がこちら。企業秘密(?)のためモザイクをかけています。

井口さん「現状では課題もあって、砂糖が空気中の水分を吸ってしまうと、一度成功した設定でもうまく出力できなくなってしまいます。砂糖を入れる部分を完全密封するなどして、温度や湿度の影響をできるだけ減らさないといけません。筐体としてバランスの悪い部分もあるので、調整していきたいですね」

「飴プリンター」というかわいらしい響きの裏には、素材の選定や環境との闘いがひそんでいました。それでも、RepRapコミュニティの作例を参考にしたり、MagnaRectaのメンバーの力を借りたりと、多くの試行錯誤を楽しそうに語る井口さんの姿はとても印象的でした。思いがけず、自作3Dプリンターの奥深い世界をのぞき見ることができました。

取材協力:MagnaRecta

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