FAB機器で作るアウトドアギヤ
3Dプリンターと大判プリンターでオリジナルのテントをつくる
キャンプしたいですねぇ。私は大阪に住んでおり、普段は月に一度四国の川に出向き、一日中潜ったり魚を突いたりして休日を過ごしています。しかし新型コロナウイルスによる不要不急の外出自粛を続けていく中、そういった遊びができずアウトドア欲が発散できず悶々としております。
ということで、心置きなく外遊びができる日を見据えて、FAB機器を駆使してアウトドアギヤを作っておこうと思います。
せっかく作るなら理想のテントを作りたい。
私の外遊びは、基本的に川遊びと河原でのキャンプ。欲しいものといえば何よりもまずテントです。よし。オリジナルデザインのテントを作ってみましょう。では、私にとっての理想のテントはどんなものか。
・河原ではあらゆる方向から風が吹くので、全方向の風に強い構造。
・荷物が多いので、私1人と大量の荷物がゆったり入るサイズ。
・みんな似たり寄ったりの形なので、特徴的な形状にしたい。
河原では、午前と午後で川沿いに吹く風の向きが180度かわるため、テントを張る向きを間違えたり、ヤワなテントを使ったりするとひどい時には中で人が寝ていてもテントごと吹き飛ばされます。寝る時はコット*を使っているので床面は無しにしましょう。あと、いつも思っていたんですけど、テントってどれもこれも似たり寄ったりの形が多いので、せっかくなので「お!これは?!」というような形にしてみたい。
以上の条件を踏まえて設計を始めてみましょう。構造として以前から気になっていた構造体を採用してみましょう。
※コットとは、キャンプなどのアウトドアシーンで使用する簡易ベッドのことです。ベンチや荷物置きとしても利用されます。マットとは違い寝床が地面から離れているため、ゴツゴツした地面や雨水の影響を受けないのがメリットです。
「Fusion360」 でスケッチを描いてみましたが、これは「ジオデシック半球」。2種類の三角形で構成された多面体を半分に割ったもので、非常に頑強な構造です。この形状を元にテントを作っていくことにしましょう。
はい、出来ました。吊り下げ型のジオデシックテントです。直径約3m、高さ約1.5mです。そしてなんとフレーム60本、ジョイントパーツ25個。パーツが多い!
作り甲斐と使い甲斐があるテントになりますね。楽しみになってきました。
3Dプリンターでジョイントパーツを印刷する。
テントのポールの太さやジョイント方法の検証のために、ジョイントパーツを何種類かデザインしてみました。捻ったり曲げたりへし折ったりしてみましたが、結果結構シンプルなデザインのジョイントパーツに仕上がりました。
このテントはジョイントパーツが7種類必要です。印刷するにあたっては、テントを組み立てる際の効率を考慮してパーツを5色に色分けすることにしました。スライスソフトに「Simplify 3D」を使ったのですが、サポート材を簡単に取り除けるのが本当に素晴らしいですね。強度もジョイント構造も満足なものになりました。
ほい
ほい
はい全部印刷しました。色分けしながらなので三日三晩かかりました。
フレームはヒノキの棒でいいや。
このテントのフレームはヒノキの棒でいきましょう。なんせフレームが多いので個々の強度はそんなにいらないはず・・・。そしてなにより1本あたり税込108円!安い!折れたら焚き木にでもしてしまいましょう。
デザインしたテントのフレームに必要な長さは910mmと801mmの2種類。ホームセンターで販売されている直径10mmのヒノキの丸棒の標準長さが910mmのため、それに合わせました。なんとか短い方に合わせて必要本数を切り揃え、棒の端から50mmのところにボール盤で穴を開けます。最後に長さ別に色付き耐水ニスを塗り、ジョイント用のコードを取り付けました。
本体生地は大判プリンターで一気に印刷する。
市販のテントはほとんどが単色かツートンカラーなんですよね。せっかく自前でテキスタイルをデザインするので、後の貼り合わせ時の位置決めがしやすく、かつ見る方向によって少しずつ差し色の配置が違って見えるようにしてみました。
テントを作ろうと思えたのも、大阪のコワーキングスペース「The DECK」さんに協力いただき、大判プリンターが使えるからです。私は個人的に海外テントDIY勢御用達である透湿耐水不織布「Tyvek(タイベック)」を大量に持っているので、テント生地を一気に印刷させていただきました。
1m幅のタイベック生地に大判プリンターで約20m分を一気に印刷した後、枠線沿いにカットし、糊代に専用接着剤をつけた後にアイロンで圧着させて一気に生地を作りました。ミシン縫いはしません。大変なんで。
さあ設営だ。
全ての要素が揃いました!テントのスペックは床面積6㎡、室内高さ1.4m テント生地1.3kg、ジョイントパーツ0.7kg、フレーム2.0kg、合計ジャスト4.0kg。一人用としては重いですが、おそらくもっと多い人数が寝れそうですね。特にフレームについては、数量と構築する容積に対してかなり軽いんじゃないでしょうか。
ということで「いざ河原へ!」と言いたいところですが、不要不急の外出になるよな・・・。ということでこれまた「The DECK」にて代表の森澤さんと一緒に、閉店後の施設内でオリジナルテントの「試し張り」をさせていただくことになりました。
設営時間は実測でどれぐらいかかるもんなんでしょうね。やっていきましょう!
途中フレームが組み上がった時点で強度と軽さが面白くてぐるぐる回して遊んでしまいましたが、ジョイントパーツやフレームをちゃんと色分けした甲斐もあり二人がかりで約20分で設営することができました。まあ早い方ではないでしょうか?
3Dデータから考えたものが、現実世界にそのまま出来上がるとなんだか笑ってしまいますね。出入り口はテント本体の2重フラップの内側の各角に隠しているゴムフックを五角形のシートの各角のハトメに引っ掛けることで取り外し可能にしています。開放感と雨風対策としましたがどうでしょうか。
サイズ感が特に気になっていたので、試しにコットとチェア、ランタンを置いてみました。
はい。ということで完成したので、コンセプトと実物を照らし合わせてみましょう。
・河原ではあらゆる方向から風が吹くので、全方向の風に強い構造。
→構造は十分に強度がありそう。もたれかかれるほど。しかしジョイントパーツに紐をかける箇所にヒビが入ったものがあり、これについては後に射出量を105パーセント、充填率を30%から80%に上げたところ問題は解消されたが、パーツを全て出力するのに74時間必要になった。ヒノキの棒の防水加工をしっかりする必要あり。タイベックは面白いけどバリバリとうるさいので洗濯機で回してシワクチャにしてみよう。あとは野外で試すのみ。
・荷物が多いので、私1人と大量の荷物がゆったり入るサイズ。
→めちゃくちゃ広い。パーツが多すぎると感じていたが、1人ではなく3人用と考えれば許容できる。おそらく5人ぐらい寝ることができるが広々使いたい。合計4kgというのは結構いい数字なのでは。タイベックの内側が白いため、ランタンの光が反射してとても明るくて良い。テント内でほぼ直立できるので川遊びでの着替えが楽そう。
・みんな似たり寄ったりの形なので、特徴的な形状にしたい。
→これは十分達成できたと感じる。今回は生地一層のテント構造であったが、フライシートを追加しても良いかもしれない。大判プリンターによるテキスタイルプリントは面白いが、半球形状へのデザインの落とし込みが大変。
こんな感じですね。本当はオリジナルテントをアウトドアで設営してこそというところなのですが、のんびり出番を待ちたいと思います。良い河原で自分の思い通りに作ったテントを張り、できたら風雨の夜を越えたいですね。
FAB機器を組み合わせて、自分仕様のテントを作ってみましたが、3Dプリント素材のジョイントパーツは強度も十分ですし、デザイン次第でどんな形状のテントも作ることができそうです。そして大判プリンターでテントのテキスタイルを自由にデザインできるというのはあまりに魅力的です。これは今後ももっと深掘りしてプロダクトにしてみたいなぁ。
ものづくりマインドをもつアウトドア派の皆様、ぜひ一度、オリジナルテント作りに挑戦してみてください。次は何作ってみましょうか。是非ご意見ください。