いろいろなヘボさと戦う! 社会人4人の合体ロボでヘボコンに参加してみた
「技術力の低い人限定ロボコン」。通称ヘボコンをご存じでしょうか?
ロボコンは皆さんも一度は見聞きしたことがあるかと思います。持てる知識やアイデア、時間をかけ作り上げられたロボットに心躍らせてテレビを見ていたことを思い出します。単純にヘボコンを説明すると、そのロボコンを目標に技術力の低い人なりに考え作ったロボットで戦うイベントです。
存在自体は知ってはいましたが、自分に参加資格があるのか、ロボットを作れるのか悩んでいました。とりあえず参加できることになってから考えようと思い、ヘボコン2024年の公式大会に申し込んだところ、出場できることになりました。
速攻でヘボコン界の武器商人タミヤのもとへ
ヘボコン出場が決定した後、喜びよりも「どうしよう……」という気持ちが強く、過去の大会動画を見返した結果、ヘボコン界の武器商人といわれるタミヤに頼ることにしました。ヘボコンのルールには市販のおもちゃをそのまま使用するのであればOKというものがあり、過去出場者の多くがタミヤの製品を使用しています。
ヘボコンで使えるタミヤの製品はどれか、どこまでカスタマイズをすることが可能なのか相談しながら購入できると良さそうです。そこで、東京 新橋にあるTAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYOに行ってみました。
タミヤのプラモデルに意識を持っていかれそうなところを自制して、スタッフの方にヘボコンの画像を見せながら相談したところ、「ミニ四駆」か「工作シリーズ」をベースに作られているのではないかとの意見をもらいました。
ミニ四駆は1000〜2000円程度と安くコントローラーがないため、細かい制御ができませんが工作シリーズよりも速度が速く、またチューンアップのパーツが多く出ており細かい調整が可能だそうです。
工作シリーズは2000円〜5000円程度で付属のコントローラーがあり制御ができますが、ミニ四駆よりもチューンアップパーツが少ないそうです。
今回は、大人の力(財力)で「工作シリーズ リモコンロボット製作セット」と強化パーツを購入しました。
モーターのギア比を変えることで、スピードやパワーを調整することができますと、構造についてスタッフから車を例に取って丁寧に説明いただきました。
最後にタミヤのスタッフから「ぼく車の免許持ってないので運転したことないんですけどね。へへっ」と言われて、さすがタミヤの社員は車を運転できなくても構造はしっかり理解しているのだなぁと感激しました。
ヘボコン出場に影を落とす、大人の忙しさ
ヘボコン出場にあたり、通信会社勤務の直井さん、メーカーでソフトウェアエンジニアをしている矢代さん、IoT機器開発を行っている美谷さんに声をかけ、普段からさまざまな開発プロジェクトに携わる4名で参加することにしました。直井さんはロボットに関する知識が豊富で「そういえば、東洋初のロボットって學天則(がくてんそく)というんですよ」という話をきっかけに、學天則を現代によみがえらせるというコンセプトが決まりました。
コンセプトは決まったものの、全員が日中は仕事で、土日もメンバー全員スケジュールがほぼ埋まっている状態でした。集まれるタイミングも、イベント当日とイベント3日前のみ。そこで、學天則の各パーツ(頭、腕、胴体、足)をそれぞれお互いどのサイズで作るのか、また學天則がどのようなものかを想像で作り、最後に結合させて完成するという、炎上案件確定のスケジュールで動き始めました。
私は普段仕事で制作の現場にいますが、そこではスクラム開発という手法を使うことが多く、スプリントと呼ばれる短期ゴールに向かって全速力で走るため、毎日メンバーとコミュニケーションを密に取り進めています。その考えからすると真逆なことをあえてしてみようというのが、今回の2つ目のチャレンジでした。
言い出しっぺの私はタミヤで購入したリモコンロボット製作セットを組み立て始めたのですが、これが予想以上に困難でした。
ガンダムのプラモデルは何体か組み立てたことがあり、少しは自信があったのですが、難航しました。ギア部分にグリスを塗るのですが、塗り方がわからず1つのギアに全てのグリスを使ってしまったのです。その影響かグリスを塗らなかった2つのモーターは、奇怪な音を出して止まりました。またコントローラーカバーのネジ部分が固く、コントローラーのカバーが閉まらないという状況になりました。組み立て開始当日は、思った通りにいかない現実にショックを受け、いったん目をそらすことにしました。
ベースのロボがガタガタの状態ですが、メンバーから頭部分の進捗や、腕部分の進捗など次々に動画で送られてきます。直井さんは學天則の頭部を担当してくれたのですが、オリジナルの學天則を再現しようと、鳥(告暁鳥)を頭部に配置し、空気圧で鳥が動くように試行錯誤してくれていました。機構が完成したという連絡を受けた数日後、直井さんが留守の間に、元小学校の先生のお父さんがこっそり作り直してしまうという大ハプニングが勃発。
子どもを思うお父さんの優しさを感じながらも、全然ヘボくなくなってしまうのでお父さんの出番はここで終了していただきました。いろいろなトラブルはありつつも順調に進んでいきました。ただ一点、胴体部分を除いては……。
ヘボコン大会開始1時間前の奇跡の完成
ヘボコン公式大会3日前に、初めて各自作製したものを持ち寄りました。それぞれが想像の學天則を作った割には、統一感のある箱型となりました。しかし、この時点で胴体部分は、全く作製されていないことが判明!
急ぎ100円ショップで使えそうな段ボール箱とおわんを購入して、ヘボコン大会当日に各自完成したものを取り付ける約束をして解散しました。
ヘボコン大会当日、会場では続々と参加者が自慢のマシンを持って集まっていました。
ヘボコン大会が始まる1時間前にガムテープとセメダインスーパーXGを使って部品を合体させ、やっつけ感がありますが、とりあえず完成! チーム西村(學天則の開発者名を借用)として参加登録しました。
頭部にある鳥(告暁鳥)が動くと學天則が瞑想(めいそう=迷走?)し、右手の羽ペンで始末書を書き始めると同時に走り出します。前の「學天則」のネームプレート部分が回転し、プロダクト開発に必要なヒントを表示してくれます。
負けても楽しいアットホームなヘボコン大会
ヘボコンではそれぞれロボットの特徴とヘボいところを熱く語った後に1対1のロボット対決が始まります。どのロボットも個性豊かで、戦い方がコミカルで笑いを誘います。おなかがよじれるほど笑いました。
作製した學天則は、走る部分はタミヤを利用しましたが、その他の部分はメンバー各自に渡したゴムチューブで息を吹き込んで動きます。
会場で気づいたのは、動力が空気というチームはたくさんいましたが、人力という原始的なチームは私たちだけでした。ヘボさにもランクがあるようで、全く手を加えない市販ロボットを持ってきてもヘボい、手をかけて作っても動かない、あるいは自滅してもヘボい、操縦者のマインドが低いのもヘボいなど、いろいろな種類のヘボさがありました。
初戦敗退を想定していたので、1回戦からメンバーの人力空気圧はMAX! 私は無限軌道の足(タミヤのリモコンロボット)の操作に慣れておらず、まっすぐ進めることができなかったのですが、対戦相手のロボットのタイヤが取れるというハプニングが起き、まさかの勝利! 勝利理由もヘボい!
4体のバトルロイヤル方式の2回戦では、重心の甘さから横から押し倒されてあっけなく敗退。しかし、腕の機構に仕組んだ風船を人力空気圧担当の美谷さんが想像以上に膨らませ、割れるかもしれないという面白さに盛り上がり、少しも悔しくはありませんでした。
奇跡の受賞
ロボを完成できるかが大きなポイントだったので、出場できたことに達成感を覚えていましたが、大会審査員であるセメダインの担当者が選ぶ「セメダイン賞」をまさかの受賞。
「4人の造作物をつなぎ合わせたロボットなので、きっとセメダインを使っているのだろう」という受賞理由に「見てたんじゃないんですか!」とツッコミを入れたかったほど。安心してください、ロボット製作にセメダイン使ってますよ。
初めてヘボコンに参加させていただきましたが、それぞれが作ったものをたたえ合う文化がすごいと感じました。普段の生活で相手に対して「ヘボいですね〜」とは言えませんが、この大会中であれば最高の褒め言葉として使えます。
また、「いかに強く」という視点になってしまうと、だんだんアイデアは似てきますが、強さにこだわらない、製作者独自の視点が多様な面白いロボットを生み出しているのだと感じました。ヘボコンの魅力にハマってしまいました。