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FabLab Japan発起人田中浩也インタビュー後編

街中の誰もがものづくりをする社会「ファブシティ」

ファブシティ構想においては、子供も参加できることも重要だという。

「さきほど、“家電の時代は終わる、コミュニティに一台でいい”と言いましたが、一方、子供には、一人に一台3Dプリンタがある時代にすべきだと思います。

なぜかというと、思う存分失敗できるから。みんなで一台だと、みんな見ている中でやるのって、小学生だと恥ずかしいじゃないですか。僕は小学校の時はみんなの前で勉強するのとか恥ずかしかったんですよ。人知れず家でこつこつ勉強してて、そういう意味でも一人一台持っていないと、特に子供は自由にものを作れないと思いますね。

そして、それはたとえ1年とかで使われなくなってもいい。それであっても無駄にはならない。私は1年くらいしかTK-85というマイコンをいじらなかったですけど、一生忘れないと思います。玩具をつくる玩具、いわば『メタ知育玩具』としての3Dプリンタというのがもうひとつの方向性です」 

ファブシティ構想の先にあるもの

ファブシティが実現すると、どういった社会になるのだろうか。

「ファブラボバルセロナのトーマス・ディエズさんが言っていることなのですが、基本的にファブラボでは自分の必要なものは自分たちで作っていきます。これが広がると、経済のかたちそのものが変わる可能性があります。これまでは、自分たちの地域で設計したものを設計図に書いて、外国に送り、工場で作られたものを再輸入して、国内に販売して購入して、1年ぐらいで動かなくなったら、大量に破棄をするサイクルでした。これは“Product In, Trash Out”(製品を輸入して、ゴミを身近に残す)」といわれるモデルです。

このやり方には2つ大きな弱点があります。ひとつはものを作るためのノウハウや知識が外国の工場にどんどん流出すること。流出どころか、先進国では技術離れや理科離れが進んで、ものの作り方を知っている人自体が減っています。もうひとつは、作っている現場が遠すぎるうえにブラックボックス化されていることで、ものに対して愛着がわかずに、結果的に大量に捨てていくことを加速させているということです。 

これに対して、ファブラボは次のようなモデルを提案します。まず、なるべく地元で必要なものを作って、愛着を持って長く使っていくことで地域全体で顔が見えるよいコミュニティが出来上がることを目指します。これは、DIYとかDIWO(DoItWithOthers)ですね。

じゃあ何が産業になるのかという問いがよく言われます。それは、その過程で生まれる、データとか、アイデアや、ノウハウなんです。このモデルは“DIDO (DigiFab In, Data Out)”と言われています。従来のモデルの逆なんです。

総じて、ファブ産業は「ものを売る社会」だけではないと思います。

自分たち自身のために作っていったノウハウを、最終的には外向きにひっくり返してシステム化して、それが他の街や他の国に売れる時代が最終的に来ると感じています。よい『生活』や『まち』を先行して実践していくことが長い目で見て価値になるんですよ。みんな、よい『生活』やよい『まち』が欲しいのですから。なので、まずは自分たちの身近から始めることが一番大切です」

インターネットがそれまでの情報インフラの概念を革新的に変えていったように、ファブラボも、社会の中でものづくりの地産地消を進めることで大量生産大量廃棄から脱却すると同時に、ものづくりを通じて市民と自治体と企業が密接にかかわる社会を実現させ、ノウハウや知識の伝承が新たな産業として輸出され、ファブシティが世界中に広がる時代を目指している。

田中さんは横浜をファブシティにすることで、アジアの文化拠点になることに貢献したいと夢見ている。

「最後に一番大切なのは、国際交流。“グローバル”というと、統計や経済やマクドナルドのことかと思われますけど、そういう意味の“グローバル”ではなくて、顔の見える国境を越えた人と人とのつながり、それが最終的には一番大切になる。その意味でも横浜にはポテンシャルがあります。5月2日からフィリピンのボホール島で開催される『第1回アジアファブラボ会議』ではそんな話題も議論される予定です。

慶應義塾大ソーシャル・ファブリケーション・ラボ横浜拠点に集まった学生と田中さん。 慶應義塾大ソーシャル・ファブリケーション・ラボ横浜拠点に集まった学生と田中さん。

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