FabLab Japan発起人田中浩也インタビュー後編
街中の誰もがものづくりをする社会「ファブシティ」
FabLab Japan発起人で慶應義塾大学環境情報学部准教授の田中浩也さんへのインタビュー。後編では昨年の第9回世界ファブラボ代表者会議(FAB9)以降のファブラボを取り巻く環境の変化から、「ファブシティ」という新たなコンセプトについて聞いた。
前編はこちらから
今のファブラボは95年ごろのインターネットに似ている
「2013年8月に開催されたFAB9シンポジウムの中で『今のファブラボを取り巻く環境は1995年ごろの日本のインターネットに似ている』という話をしました。当時のインターネットは大学を中心とした草の根からのボトムアップで動いていた仕組みが国の政策になり、生活のインフラにしていったという歴史がありました」
この数年でファブラボは急速に国策化の波に乗っている。アメリカでは人口70万人以上の都市につき1カ所のファブラボを設立するという政策が進んでおり、2012年にロシアは全土に100カ所のファブラボを設立するという声明を発表した。
現在では世界50カ国、200拠点以上のファブラボがあり、世界中で新しいファブラボが産声を上げている。
日本では「地域の活性化」という形で化学反応を起こしている。
2014年1月にファブラボ大分がオープンし、広島、浜松、鳥取でもオープンが予定されていて、地方自治体の担当者が頻繁に各地のファブラボを見学に訪れているという。
「駅前がシャッター街になって勢いが感じられず、衰退の一途にあるという地方がたくさんあります。そういった地方自治体の人が『ファブラボは、地方に活力を取り戻すアイデアかもしれない』と思っているのはとても共感できるし、そうあるべきだと思います。都心から遠い場所の人ほど、実は最先端の技術を必要としているし、それで“問題解決型エンジニアリング”が生まれ、イノベーションが起こる可能性もあると思うのです」
ただファブラボを作るにはファブマスターと呼ばれる運営責任者が必要であり、ファブマスター人材の不足が大きな課題だという。
「やっぱりまだまだ時代は残念ながら、『箱モノ』だなぁと思います。日本にもいくつか市民工房やスペースができてきましたけど、運営者の顔が見えてこないものが多いんです。それだとあまり良質なコミュニティは生まれないと思います。家庭用3Dプリンタメーカーも、日本では制作者があまり表に出てこないし、思いを語らない。
つまり人がフィーチャーされていない。一方、海外では、やはり、どんなものづくりにも、どんな場所づくりにも、『顔』があり、個性があり、人柄というものがあります。私は、『パーソナルファブリケーション』というのは、単なるものづくりのことではなくて、『パーソナルであること』すなわち『個』というものがもっとクローズアップされることとセットだと思っているんです。一人一人の物語が大切なんです。やっぱり面白いのは「人」だから」