exiiiインタビュー
誰もが関われる次世代の義手を目指して——handiiiの開発と起業への道のり
実用化に向けたhandiiiの課題
義手は、腕の切断部位によって必要なパーツが変わってくる。義肢制作と操作のためには、腕に障害のある人たちとのやりとりだけでなく、医師や義肢装具士、作業療法士などさまざまなプレイヤーと関わりながらものづくりをしていく必要がある。handiiiのコンセプトに対して実用化に足りうるだけの精密な動きにはなっておらず、一日でも早く生活の中で使えるレベルにまで完成度を上げていく必要があると語る。
「一般の人にも手が届く安価な義手を目指すというコンセプトをもとに、いかに安くて実用的なものを目指していくか、という条件で作らないといけません。モーターも日々進化していますが、どんなに小型で技術が良くても実用性に欠けていれば意味がありません。すべてが100点である必要性はなく、諸条件をクリアしたものの中から全体最適化を図った義手の設計をいくことを心がけています」(山浦氏)
ソフトウェアや設計を担当している近藤氏は、「身体のコンディションなどによって変化する筋電という生体信号に対して、安定した動きを出力できるための機械学習の精度をどう上げていくか」が重要だと指摘する。デザインを担当している小西氏も、実用化のためには女性用や子供用など、さまざまな人に合わせた手のサイズやパーツを作らなければいけないという。
「さまざまな選択肢を提供して、好きなパーツを組み合わせた義手を提供していきたい。また、どの部位から腕がなくなっているかによって接合部分も変わってくるため、腕を3Dスキャンして骨や筋肉のバランスなどを考慮した義手づくりも必要です。デザインの視点から、実用化に向けた設計をしていきたいです」(小西氏)
すぐに実用化ができなくても訓練用や練習用などの用途の可能性もあるとし、さまざまな場面を想定した義手の活用方法を模索していくという。2016年には、障害を義体でサポートしたサイボーグ選手が競う国際競技大会「Cybathlon 2016」がスイスのチューリッヒで開催される。「まだ出場するか決めていない」とするも一つの目標にできればとし、世界のさまざまな技術者と一緒にものづくりができるようになりたいと語る。2020年の東京オリンピックでは、handiiiを装着した人がオリンピックの聖火ランナーとして走るような世の中になってほしいという。
義手を通じて誰もがものづくりに関われる環境を目指して
企業として持続させるためには、事業性も考慮しなければいけない。現在、腕に障害のある人は国内で1万人程度と言われており、その規模だけではビジネスとして成り立たせるのは難しい。障害がある人以外にもサービスを提供するための仕掛けが必要だという。そこで、handiiiの機構や外装などのデータを公開し、誰もが自由にダウンロードして3Dプリンタで出力できる仕組みや、オープン化したデータをもとに開発者が新しいものづくりに取り組むなど、義手をテーマにさまざまなクリエーターが関われる場作りをしていきたいと考えている。さまざまなクリエーターが関わる場を通して、技術研究を通じてハイレベルのものから一般の人向けの義手作りや、義手以外の製品開発のヒントを見出してhandiii以外のものづくりにも挑戦してきたいと近藤氏は語る。
義手というものが、障害のある一部の人だけのものではなく、誰もが関わりながら人の多様性を実感できる「参加型ものづくり」の実現を目指していきたいと語る。
「腕のない人がもっと世の中で活躍できて、日々の生活が豊かになる社会を目指し、handiiiを含めたさまざまなものづくりで新しい価値を提供していきたい」(近藤氏)
(取材協力:factory)