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農研機構 平藤雅之インタビュー

農業を変えるオープンソースハードウェアとファブ

太陽電池で給電できることには大きな意味がある。それは電線を埋めることが難しい農地でも導入可能になる点だ。

「電線を農地にひく際、農業機械が電線を切断しないよう地中深くに埋める必要があります。例えば以前設置したハワイのような火山島だとすぐ下が溶岩なので、岩を砕いて電線をひかなくてはなりませんでした。しかも、苦労して電線を地中に埋めたら、夜中にミミズを食べるために野ブタが土を掘り起こしてしまい、電線が地上に出ていました。電線が高く売れるということで、中国では電線泥棒に盗まれたこともありました。」

国外でも検証を進める中、国内で平藤さんの研究に興味を持つ農家は少なくないという。

「大規模農家の人は経営者としてのセンスを問われる要素があるので、新しい技術に興味がある人も少なくありません。10年ほど前、フィールドサーバ開発初期に知り合ったある農家は拾ってきた電柱のてっぺんにフィールドサーバと風力発電機を付け、自分で工夫して運用していました。4年前に十勝に赴任したときに再会したらまだありました。

そのとき、いきなり『今度はどんなことをするの? また面白いことをしようよ』って言っていました。これには驚きました」

オープンソースハードウェアへの方向転換以降、技術的な負の要因で開発がつまずくことなく、むしろデバイスやハードの進化と低価格化によって、大規模利用やキット化も見えてきたオープンソース版フィールドサーバ。既に今後のビジョンもあるという。 

「ものを作って売るというモデルから、ものを使ったサービスを売るほうへシフトする可能性もあると思います。具体的に言うとフィールドサーバで取得したデータを売買するモデルです。『収集したデータは買い取るのでおたくの畑にこれを置かせて下さい』って言って、フィールドサーバを置いてもらって、必要な人にデータを売るというビジネスも十分に可能性としてあります。

フィールドサーバのような製品は、大手メーカーがしっかりした品質保証の中で量産化していくにはマーケットが小さすぎるんです。そうであれば、誰もが自分で組み立てからデータ売買までできるような仕組みを作り、事業者はデータの流通やコンサルティングに注力するモデルのほうがいいんじゃないかなと思います。

そうなるといかに簡単に作るかっていう問題になるので、そこでファブの発想が生きてくるわけです。」

自身もファブラボつくばのオーナーである平藤さんはビジネスとしてのファブの可能性に期待している。

「ファブは大きく2つに分かれています。ひとつはMaker Faireのような個人が趣味で作ったものを見せ合ったり共有する世界。もうひとつは世の中の需要に対してハイエンドなものを作ってビジネス化していく世界。今は後者がまだまだ弱い状況です。

フィールドサーバで例えれば、入口は趣味で作って自分の畑に設置してみた、みたいな形でもいいのですが、それをいろんな畑に設置してデータがたくさん収集できるようになると、サービスとしての価値を持ち始めますよね。趣味で始めた事がお金になればすごくハッピーじゃないですか。労働としての苦痛を感じずに楽しく過ごせる手段を一つでも提供し、それが大きな輪になっていくと、その仕組みで生活できる人も増え、結果的にファブ自体が生活を維持するための手段にもなりえる。そういうモデルをファブラボも活用しながら作っていかなければと思います」 

 

取材協力:ファブラボつくば(FPGA-CAFE)

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