年末特別企画
スタートアップをやるなら今しかないと思った——世界に羽ばたいたスマートシューズ「Orphe」の1年を振り返る
2016年、ハードウェアスタートアップにはどのように映った一年だったのか。
9軸センサや100以上のフルカラーLEDを搭載し、動きに合わせて光を制御できるスマートシューズを2015年に開発したno new folk studio(以下nnf) は、クラウドファンディングでの資金調達に成功後、2016年に一般販売を開始した。
代表の菊川裕也さんは製品化に向けた開発と並行して国内外の展示会でのデモ、量産工場との折衝、加えて量産するための資金集めに奔走と休む間もなく走り抜けた。
一般販売開始後も企業とのコラボレーションやアプリケーションの改善など多忙を極める中、海外のスタートアップやアクセラレータとの交流を経て、日本のハードウェアスタートアップについて考える機会も増えたという。激動の1年となった2016年を振り返っていただいた。
(聞き手・撮影:越智岳人、桜庭康人、文:越智岳人)
nnfの2016年はCES※からスタートした。
クラウドファンディングの成功を受けて量産化は決定し、企業からの問い合わせも来ていたが、具体的な販売先は決まっていなかった。菊川さんはどのように製品を流通させるかを決める上で、世界中からバイヤーが集まるCESこそが格好の場と考えていた。
CESでは米国内外の企業担当者がOrpheを手に取り、現地の大手メディアでも紹介されるなど、予想以上の反響が得られた。
結果的にはIoT製品に注目していた伊勢丹との商談をまとめ、6月には伊勢丹新宿本店で予約販売を始めることになった。
実際に店舗で製品を手に取る人たちを見て、菊川さんはテクノロジーに関心が高い人以外にも評価されていることを実感したという。
「思ったよりも好評だったというのが正直な感想です。ここまで突拍子がないものを、普通に伊勢丹に来た人が手に取って、欲しいと思ってもらえたことに手ごたえを感じました」
※CES……毎年1月初旬にラスベガスで開催される、コンシューマーエレクトロニクス分野では世界最大規模の見本市。
出稼ぎで稼いだ資金で量産
量産と販売先が決まった一方で、スタートアップにとって避けて通れないのは量産のための資金調達だ。量産に必要な金型の製造だけでもスタートアップにとっては莫大な費用がかかる。菊川さんは「出稼ぎ」と称して、さまざまな企業とのコラボレーションやタイアップを受けることで量産に必要な資金を集めた。
菊川さんにとって最も印象的だったプロジェクトは20台を超えるドローンを使ったインスタレーションだ。1台につき660個のLEDを取り付けたドローンが無線で編隊飛行をするパフォーマンスで、光の操作はOrpheで開発したプログラムを活用している。
Orpheで培った技術を水平展開できたことで、それまでOrphe単体での「点」での評価から、プログラムで制御したLEDをパフォーマンスに効果的に活用できる企業という「面」での評価を得られたのは大きな収穫だったと菊川さんは振り返る。
この他にもOrphe開発で培った技術を活用した受託案件をこなすことで、経営に必要な資金を集めていったが、さまざまな場面で関わったプロジェクトが露出することで、自社のプロモーションにもつながり、Orphe以外の可能性をアピールすることにもなった。