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年末特別企画

スタートアップをやるなら今しかないと思った——世界に羽ばたいたスマートシューズ「Orphe」の1年を振り返る

スタートアップはいばらの道。でも、今やらないほうがリスキー

イベントではスタートアップがスターのように扱われ、現地の若者たちから熱心な質問と固い握手を次々と求められて驚いた。

「台湾の参加者は若い人が中心。ゲストもクラウドファンディングで成功した人を欧米から呼んで、クラウドファンディングに対して熱意のある人たちが集まり、イベントを通じて意味のある議論をしようとしていたんです。
もし、日本で同じようなカンファレンスをやったら、『よくわかんないけど、クラウドファンディングが流行ってるんでしょ』みたいな感じで大企業からやってきたおじさんばかりがいっぱい集まってる図が想像できて、若い人たちが本気で世界を変えようという気持ちでクラウドファンディングのイベントに集まっているという状況に衝撃を受けました」

台湾でのカンファレンス後に開かれたレセプションでOrpheを履いてダンスを披露したダンサーとの1枚。(写真:桜庭康人) 台湾でのカンファレンス後に開かれたレセプションでOrpheを履いてダンスを披露したダンサーとの1枚。(写真:桜庭康人)

台湾では若者がハードウェアスタートアップを英雄視する一方で、日本ではリスキーで生活にも事欠くと思われているとも感じた。

「採用面接に来た人と話していると、ハードウェアスタートアップは休みもなくて、給料もすごく低い——まるでブラック企業だと思われていることがしばしばあって。ものすごい覚悟で面接に来る(笑)

確かに給料は下がるかもしれないけど、条件面を話すと『あ、それだったら、ちゃんと生活できる』っていう話になったりします。僕らも普通に暮らしていける程度には給料があって、それ以上に期待値はものすごくある。ハードウェアスタートアップをやるなら今しかないと思って僕たちは起業して、成功したら一気にスケールするだろうし、仮に失敗したとしても、他の人にはない経験を生かして別の事をすればいい。起業自体がリスキーに見られることがまだ多いと実感していますが、何もやらないでいることの方がリスキーだと僕は思う」

菊川さんの大学の後輩で2016年初めにnnfに入社した松葉さんは、テレビ業界からの転職だった。

「新卒の就職活動のハードルの高さを経験すると、『あんなに頑張ったんだから、ここでしばらく働くしかない』という思考にはなりやすいのかもしれない。僕は菊川から『来て』って言われて『じゃ行きます』みたいな口約束だけで勢いで飛び込んだし、普通の会社とはイメージが違って映る部分は多分にあるかもしれません」

nnfの松葉知洋さん(左)は最高デザイン責任者(CDO)として2016年に入社した。 nnfの松葉知洋さん(左)は最高デザイン責任者(CDO)として2016年に入社した。

台湾のように、スタートアップに若者が夢を持ってもらうためには、自分たちも含めて成功事例を増やしていくしかないと考えるようになった。

「いろいろな成功モデルが出てきて、初めて認められるんじゃないかなと思います。起業段階ひとつとっても、フリーランスの人たちが集まって起業するケースもあれば、GROOVE Xのようにメーカー出身のエリートが起業しているケースもある。あとはどれだけ今いる人たちがちゃんと結果を残すか」

スタートアップを増やすには大企業の力も必要

大手企業によるCVCや行政によるスタートアップ支援、試作や量産を支援する仕組みなど、日本のスタートアップの環境は変わりつつある。菊川さんは自身の経験も後進に生かされる仕組み作りが重要だと語る。

「(ABBALab代表取締役の)小笠原(治)さんは僕らが苦労した部分を見て、シャープとのIoTブートキャンプに反映していくでしょうし、僕たちの経験をいい形で利用してもらっていいと思います。搾取ではなく、大企業とスタートアップが共存共栄していくための使い方として」

Orpheは海外での販売も予定しており、今後は海外市場にあわせた開発やマーケティングなど、新しいチャレンジが待っている。

「国ごとのルールや慣習など、ぶち当たる壁が非常に多くて、自分たちの製品をスケールさせていくために必要なノウハウが想像以上に多いと感じています。

僕らの場合はハードウェアとアプリケーションに加え、靴といういままでなかった組み合わせなので、それぞれの領域のエキスパートとも組んでいかないと、大きな成功は得られません。だから、いろんな人たちが歩み寄れて大きな成功を生み出すような仕組みが生まれればいいなと思います。そこにはスタートアップや工場だけじゃなく、大企業にも関わってほしいし、そういう意味でいろんな人たちと共栄していくモデルが必要だなと思います」

DIYで作った棚にOrpheの在庫の一部が並ぶnnfのオフィス。現在は新しいメンバーを迎えるべく、一回り広いオフィスに移転している。 DIYで作った棚にOrpheの在庫の一部が並ぶnnfのオフィス。現在は新しいメンバーを迎えるべく、一回り広いオフィスに移転している。

※CVC……コーポレートベンチャーキャピタル。投資自体が主体的な事業ではない企業による投資。

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