スーパーエンジニアが自分のために作ったハードが世界へ——深セン発スタートアップM5Stack
2000年代中頃にArduinoが登場してからオープンソースハードウェアや開発用のマイコンボードは一つの市場として成立する規模になり、マイコンを搭載して自由にプログラミングできるハードウェアを作るスタートアップが生まれた。2017年に誕生した「M5Stack」は日本でもファンの多い液晶モニタ付きモジュールだ。
開発したのはジミー・ライ(Jimmy Lai)。電力会社でエンジニアとして働いたのちに起業した。M5Stackはスイッチサイエンスを通じて国内でも販売され、発売早々に日本のユーザーコミュニティは100人を超え、日々さまざまな「作ってみた」ツイートが投稿されるなどMakerたちに強烈な支持を受けている。M5Stack誕生までの経緯と日本でのヒットの理由、そして今後について中国・深センにある彼らのオフィスで伺った。
M5Stackは54×54×17mmの小型モジュールだ。本体にはバッテリーとカラー液晶パネル、BluetoothとWi-Fiによる無線通信をサポートするESP32、USB Type-Cポート、Groveコネクタ、microSDカードスロット、電源/リセットボタンなどが搭載されている。Webベースでの開発環境に加え、Arduino IDEやMicroPythonなどでプログラミングでき、IoT製品向けの試作開発キットという位置付けの商品だが、自由度が高くMakerからの支持も熱い。fabcrossでも石川大樹さんによるM5Stack愛のこもった記事を掲載しているので、併せて読んでみてほしい。
起業のきっかけは一人っ子政策
1982年生まれのジミーは天津理工大学で電気工学を学んだ後に、中国の国営電力会社の一つである中国南方電網にエンジニアとして就職した。もともと高い技術力を持っていたジミーにはたくさんの仕事が舞い込んだ。基板設計、外装設計といったハードウェアから組み込みソフトやシステム開発に至るまでカバーしていたという。
まさにfull-stackなエンジニアとして着実なキャリアを積んでいたジミーだったが、転機が訪れたのは2015年、二人目の子どもができたことで退職することを決意した。
ご存知の通り、中国では増えすぎた人口を抑制するために1979年から2015年まで「一人っ子政策(独生子女政策)」が導入されていた。政策が廃止される2015年ごろは形骸化していたが、国営企業に勤める社員は政策を守らなければいけないという文化が根強く残っていた。しかし、ジミーにとっては決して不本意な退職ではなかったという。
毎日、開発に明け暮れるうちに、自身の開発を効率化するデバイスやツールも開発していた。外装や基板の設計からソフトのコーディングまで一人でカバーしているので、スタートアップとしての走り出しの早さには問題ない。ここにあるものを製品化すれば、どれか一つは売れるんじゃないだろうか。そんな考えが起業を後押しした。
「M5Stackの原型は3Dプリントした外装に基板と小さなモニターを乗せただけのもので、自分自身の開発をサポートするスマートメーターのようなツールでした。他にも作りたいものがあったので、一式まとめて持っていき深センに住む友人たちに見せたんです」
ジミーはいくつかの試作品を持って深センに住む友人たちのもとを回った。ハードウェアビジネスの一大集積地である深センで働く友人たちが最も評価したのがM5Stackのプロトタイプだったという。