smartDIYs 新製品レビュー&インタビュー
レーザーカッターにイノベーションを起こしたsmartDIYs 、新製品に込めたMakerスタートアップとしての矜持
smartDIYsは、それまで限られた世界でしか知られていなかったレーザーカッターの意義を大きく変えた。
2015年に組み立て式レーザーカッター「Smart Laser Mini」と、CO2レーザーを採用した大型のレーザーカッター「Smart Laser CO2」を発表。製造コストを抑え、ユーザー自身が組み立てるキット形式を採用し、オープンソースを活用することによって、前者は5万円台、後者は20万円台と、個人でも導入できる価格のレーザーカッターを日本で初めて製品化した。それまで業務用の工作機械としてのイメージが強かったが、機能やコストをミニマムに抑えることで、プロスペックの性能を必要としないユーザーの注目を集めた。
決定打は翌年に訪れる。2016年にクラウドファンデングで先行発売した「FABOOL Laser Mini」では約1000人から約6000万円を調達。それまでレーザーカッターになじみがなかった人たちにも認知が広がり、以降個人やスモールビジネス向けのレーザーカッターを開発する企業が相次いだ。電子部品メーカーの同僚だった有井佳也氏と塩島宏孝氏で創業し、親戚から借りた家屋で開発したレーザーカッターは多種多様なユーザーに支持される存在になった。
「もともと自分たちが欲しいと思ったものを作った」という創業から4年が経ち、現在も山梨県アルプス市を拠点にレーザーカッターの開発を続けているsmartDIYs。欲しいものを具現化しビジネスとして軌道に乗せるという、数少ないMakersムーブメントの成功例である彼らが、2020年12月に販売開始する最新機種「Etcher Laser Pro」のレビューと共に、有井氏へのインタビューをお届けする。(撮影:宮本七生)
集塵機を内蔵する本格的なレーザーカッター「Etcher Laser Pro」
smartDIYsが2020年12月に販売開始する「Etcher Laser Pro」は、販売中の「Etcher Laser」の上位版という位置づけになる。
本体の大きさは786×600×325mm(突起物含まず)、重さ約50kg。加工エリアは450×300mm、加工エリアの深さは25mm(ハニカムテーブルを取り外すと35mm)、連続使用時間は30分以下。集塵機や水冷装置、消炎装置も内蔵されているため本体のみで使える。設置スペースさえ確保できれば、個人宅や小規模な店舗でも利用できる点は大きなメリットと言えるだろう。
fabcrossで3Dプリンターやレーザーカッターのレビューを担当するライターひとしんしは 、これまでのハードウェア面の安定性と使いやすさを評価した。
「30万円台とレーザーカッターとしてはリーズナブルな価格帯でありながら、動作の安定性が高いリニアガイドを採用している点や、1ショットで加工エリアを撮影・モニタリングできるカメラの取り付け位置など、これまでのレーザーカッター開発の知見が反映された仕様になっている点はポジティブに評価できます。奥から加工した際に塵やヤニが加工物に付着しないよう、集塵口の位置も工夫されているのも良いですね」
メンテナンス面でも、三層のフィルターが一体になったフィルターボックスや水冷装置が本体下部にまとまって収納されている点、寿命が来た際には交換が必要なレーザー発振管は第一ミラーを含むユニットごとユーザー自身で交換できる。交換時の光軸調整が不要な点や、メーカーに交換を依頼する必要がない点はヘビーユーザーにとってはありがたい仕様だ 。
「加工物の厚さはハニカムテーブル有りで25mmまでと制限がありますが、それを除けば不満は全く無いですね。また内部の設計も極めてシンプルな分、機械内部の汚れがどの程度リニアガイドのベルトや発振管周辺に付着するかは気になるところですが、定期的に内部清掃すれば問題ないと思われます」
また、ソフト面では初心者でも扱いやすいUIを評価した。
「シンプルなメニューでスマートフォンからでも操作でき、カメラを使った位置合わせも同価格帯のレーザーカッターの中では使いやすい印象があります。両面加工や厳密に位置を合わせたいときには治具などを使う必要がありますが、30万円台でここまでの使いやすさと、コストパフォーマンスの良さは注目に値します」
またレーザー彫刻する際の向きも縦、横、縦横交互と設定できる機能に注目。「FFF方式の3Dプリンターで造形した際に積層痕ができるように、レーザーカッターも彫刻痕ができます。この彫刻痕の向きを全てのパーツで統一させたいといった、デザイン上の細かなこだわりにも対応できる気の利いた機能」と評価した。
総評として「目新しい機能は無いが、使いやすさと安定感に対する強いこだわりを感じる。30万円前後の価格帯のレーザーカッターの中では、初心者でもヘビーユーザーでも安心して使える一台」と評した。
想定外の反響だったDIYレーザーカッター
smartDIYsの創業から最初の製品に至るまでの経緯は4年前のインタビュー記事に譲りたい。冒頭で紹介した通り、同社は組み立て式レーザーカッターの第2弾「FABOOL Laser Mini」で6000万円もの先行注文を集めた。反響は全くの想定外だったと有井氏は当時を振り返る。
「500万円ぐらい行けばいいかなと思っていましたが、初日だけで2000万円を超え驚きました。後に一般販売に移行しましたが、月日を重ねるに従ってユーザー層が着実に広がっていくのを強く感じました」
発売当初は電子工作を嗜むユーザーやレーザーカッターの使用経験のある層など、いわゆる玄人筋がユーザーの中心だったという。しかし、発売から時間がたつにつれて、それまでレーザーカッターを使用したことのない層——女性や主婦、副業で作品を制作するクリエイターの購入が目立つようになったという。
一方でその逆方向の産業用にも広がった。レーザーでマーキングだけをしたいといった目的で、工場などの製造ラインにまとまった数を注文する企業のオーダーも受けるようになった。どちらも発売当初は想定していなかった使われ方だった。
「当初はDIYやカスタマイズに抵抗感のないユーザーが中心でしたが、完成品で提供してほしいといった声や、より高出力なモデルが欲しいという声が寄せられるようになり、『Etcher Laser』のような組立済みのものや『FABOOL Laser DS』のような家具や工業製品の生産に対応した製品へとラインアップが広がりました。現在ではホビーユースで利用しているユーザーは全体の3分の1程度だと思います」
コロナ禍で立ち止まったからこそ生まれた新製品
新型コロナウイルス感染が拡大するまで、有井氏は本社のある山梨、生産拠点である中国・東莞市、そしてDIYの本場である北米の営業拠点の3カ所を回りながら製造と販売に力を入れていたという。しかし、日本で2020年5月に緊急事態宣言が発令され、海外への渡航が難しくなり、物流も滞るようになった。このことで、当初に立ち返り、本当に欲しいものは何かを再度考え直す時間が生まれたという。
「レーザーカッターを製品化したのも、当初自分たちが3Dプリンターを製造・販売しようと考えていて、3Dプリンターの部品を加工・製造する際に必要なレーザーカッターが高額だったことに疑問を感じたのがきっかけでした。それ以降も『自分たちが欲しいものを作る』というのが中心にありましたが、コロナ禍で出張できなくなったこともあり、『いま自分たちが欲しい機械』の開発に専念していました」
4年前、共同創業者である塩島氏と二人きりで開発していたように、有井氏は新しい製品の開発に没頭したという。金属もカットできるようなプラズマを使った高出力モデルや、消耗部品であるレーザー発振管をユーザー自身で交換できるような新製品の開発に着手。Maker Faire Tokyoなど国内で開催された数少ない展示会に出展して、ユーザーの反応を見ながら次の一手に向けた準備を進めていた。
「4年前と比べると、早く安くプロトタイピングしたい、内製化したいという需要をひしひしと感じています。それはスタートアップや工場などの法人だけでなく、デザイナーやジュエリーの職人といった個人にも広がっています。根本にあるのは開発や製造の課題解決なので、コロナをきっかけにして再び原点に立ち返った感じですね」
そのニーズに全面的に応えた「Etcher Laser Pro」は先行予約開始初日に予定数を完売した。
作りたいものを作って生きるには
smartDIYsに限らず、レーザーカッターを開発する中小企業やスタートアップは国内外に多数存在している。特に昨今は卓上サイズのモデルを中心に、新たに参入する企業も増えている。
有井氏はレーザーカッターのユーザーが広がり続けている状況の背景には、より早く、安く作りたいという需要が高まっているからだと分析する。
「ユーザーの声を聞いていても、スピードやコスト面から内製化の需要を感じています。それは製造業だけでなく、個人で作品を販売するクリエイターやデザイナーなど、広い意味でのものづくりに携わる人に広がっている印象があります。minneやEtsyのようなCtoCで販売できるサイトや、Fusion 360のような高性能かつ無料のソフトなど制作する環境面の充実が後押ししているのではないでしょうか」
有井氏が自分で欲しいものを作ったという動機は現在も変わっていないという。自ら抱えていた課題を解決する製品が無いなら、自分たちで作ればいいという発想はMakersムーブメントにも通じる思想であり、創業者自身がユーザーであることは製品開発において優位に働く。一方で自分たちが欲しいもので、事業を軌道に乗せるのはたやすいことではない。しかも量産や調達で先行投資を必要とするハードウェアスタートアップは市場と製品とのギャップが埋められないまま、事業化に失敗するケースも少なくない。smartDIYsはどのように事業化の壁を乗り越えたのか。
「早く開発して、世の中に出すことが重要です。それも最初は低コストで製造し、早くユーザーに届けることがポイントではないでしょうか。私たちも初期の製品は組み立てキットにしたり、金型を使わず板金加工を活用したり、規格品を活用したり自分たちで加工、製造、組み立てをしたりしていました。ユーザーからフィードバックを受けて、改善してというサイクルを繰り返すことで、知見と売上を蓄積していきながら、ここぞというタイミングで金型を使った完成品の製造に切り替えて現在に至ります。最初の製品が出来上がる前の2014年は、会社としても一番停滞していた時期でしたが、毎日アリババで業者にコンタクトして、サンプル部品を送ってもらって評価することを繰り返していたし、ほとんどのことを家族にも手伝ってもらいながら、役割に関係なく全てやっていました」
アメリカに営業拠点を構えたことによって、海外と日本の文化の違いにも気付いたという。
「日本でハードウェアというと、初期投資がかかるというイメージがありますが、アメリカにはそういった固定概念を感じません。低コストに製造する方法を常に考えているし、製造の内製化も当たり前にやっている。資金面でもプロモーションビデオを作ってプレオーダーで資金を集めたり、Tシャツとかノベルティグッズを作って販売していたりして、投資や融資以外の資金調達にチャレンジしているし、ビジネスに対する発想が柔軟だなと思います」
特に事業面や資金面の支援では、日本は地の利を生かしきれていないと指摘する。
「レーザーカッターを開発する前はLEDの検査装置を製造していたので、深センにも足繁く通っていましたが、HAX※のようにアメリカのベンチャーキャピタルが投資したスタートアップを深センに呼び寄せて、合宿形式で集中して製品開発させていることに衝撃を受けました。なぜ、こんなことが中国に一番近い日本にできないんだろうかと。ものづくりを支援するアクセラレーターは日本にもっとたくさんあっていいと思いますね」
※HAX…アメリカのベンチャーキャピタルSOSVが運用するハードウェアスタートアップに特化したアクセラレーションプログラム。小規模な投資と併せて、深センの開発拠点と事業支援のプロによるメンタリングでスタートアップの事業化を無償で支援している。
DIYの本場で売れる製品を作りたい
現在は新型コロナの影響もあり、営業やマーケティングではなく製品開発へのコミットを高めているという。目指しているのは、アメリカのクラフトユーザーにも支持される本格的なDIY向け製品の開発だ。
「2021年に発売を予定しているプラズマを使ったプラズマカッターは、金属も加工できるパワーがあるので、本格的な加工を志向するアメリカ人にも使ってもらいたいと思います。創業時は外部との交流も断って、プロダクトに全集中していましたが、その頃に戻ったような気持ちで再び開発しています。日本初の新しいもの、自分たちが欲しいものを作りたいという気持ちは今も変わっていません」
塩島氏と二人で創業し、家族のサポートも得ながらスタートしたsmartDIYsは、地元採用した若い社員らと夢を形にしようとしている。有井氏の言葉には4年前のインタビュー以上に、力強さと迷いの無さを感じた。
※記事初出時、文中に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。