デジタル工作機メーカー訪問
低価格、オープンソース、ユーザーコミュニティ——個人で買えるデジタル工作機で市場を切り拓くsmartDIYs
甲府盆地の南西、南アルプスのふもと山梨県南アルプス市のごく普通の日本家屋で、国内では珍しいレーザーカッター組み立てキットの開発から販売まで手がけているのがsmartDIYs(スマートディーアイワイズ)だ。オープンソースハードウェア/ソフトウェアを利用し、ほとんどの設計情報を公開、他社製品に比べ圧倒的に低価格という同社のものづくりと今後のビジョンなどを、共同創業者であるCEOの有井佳也氏と専務取締役兼CTOの塩島宏孝氏、最近同社に加わったCOO兼CMOの有井誠氏に伺った。(撮影:加藤甫)
3Dプリンタ部品製造装置だったレーザーカッターが主役に
smartDIYsは、2015年3月に5万4800円(税別、以下同)という、これまでにない低価格のレーザーカッター組み立てキット「Smart Laser Mini」を発売した。10月には大型で強力なCO2レーザー発信器を備え、加工能力を向上した「Smart Laser CO2」(*24万8000円)をラインアップに加え、レーザーカッターが欲しいと思いながらその価格の高さにためらっていた多くのデザイナーやクリエイターの注目を集めている。
*Smart Laser CO2の価格は10月の発売時には19万8000円だったが、2016年1月に24万8000円に改定した。
smartDIYsという社名にはいかにもデジタル工作機メーカーらしい響きがあるが、実はこの社名は昨年12月に変更したばかり。それまでの社名はASシステムといい、山梨県内の電子部品メーカーに勤めていた有井佳也氏と塩島宏孝氏の二人のエンジニアが2012年3月に設立したベンチャーだった。創業からしばらくは、法人向けのLED検査装置を中国メーカーなどに販売する事業を展開していた。
残念ながらその事業はあまりうまくいかず、新しい事業を模索する中で、出張先の中国深センで仕入れた商品を輸入しインターネット上で販売していた。その商品のひとつとして3Dプリンタの部品を扱うようになったが、どうせなら3Dプリンタを作って売り出すことにしたのだという。3Dプリンタの製品を買ってきて売るのではなく、新しい製品を作って売ろうというところに、エンジニアが興した会社らしさを感じるが、これが現在のsmartDIYsへの第一歩となった。
試作した3Dプリンタでは、アクリル板をレーザーカッターでカットした部品を使っていた。ただ、アクリル板のカットを外部に依頼すると1回5000円や1万円と結構高く、近くにレーザーカッターを安く使えるファブ施設はない。かといってアクリル板を加工できるレーザーカッターごと買おうとすると100万円以上もする。そこで、「いっそのことレーザーカッターを作ってしまおうと」(有井佳也氏)考え、2014年6月にレーザーカッターの開発が始まったという。つまり、smartDIYsのレーザーカッターは3Dプリンタ製造のための工作機械として開発したものだったのだ。
ところが、3Dプリンタ製造のためのレーザーカッターを開発しているうちに「3Dプリンタはライバルプレーヤーが多く、できたものがユーザーに受け入れられるか不安になりました。その点レーザーカッターはいままでオープンソースベースで作った低価格の製品がなく、私たちと同じように困っている人も多いのではないかと思って」(有井佳也氏)レーザーカッターを販売することに方向転換した。「渋谷のFabCafeまで、車で部品をカットしに行ったりしたのですが、そこでもレーザーカッターに一番予約が入っているのを見て、需要が多いことに気づきました」(塩島氏)。
開発していたレーザーカッターは、アクリル板を切断するためハイパワーのレーザー発信器を備えたタイプで、Smart Laser CO2にあたる。ただ、かなり大型であることと、レーザーカッターの組み立てキットという、これまでにないスタイルの製品が市場に受け入れられるかどうかを心配し、まずはもっとコンパクトでレーザー発信器のパワーを抑えたものを出してみることにした。2014年12月ころに設計開発を始め、2015年3月にSmart Laser miniとして発売した。