光を背負って夜に駆ける! 令和のデコトラ「電飾Uber Eats」が照らすモノ
「Uber Eats」に「出前館」「menu」「Chompy」「DiDi Food」……。スマホひとつで食事が届くフードデリバリーサービスは、コロナ禍の需要にも後押しされ、私たちの生活に身近なものとなりました。大きな四角いカバンを背負い、自転車やバイクで走る配達員の姿を見ない日はありません。
かくいう僕もUber Eatsのユーザーです。忙しい日や、やる気の出ない日に何度も利用するうちに興味が湧き、最近では配達員としても活動するようになりました。自転車とカバンを調達し、新米配達員として悪戦苦闘するなか、とある動画にたどり着きました。
ネオン看板のように輝くロゴ、そして絵柄の変わる電光掲示板。僕の知っている配達バッグとは、あまりにかけ離れています。だけどもデコトラを彷彿させるその姿は、かなり魅力的。なにより、配達員と電飾という異色の組み合わせが気になりすぎる!
気付いたときには、光に誘われる虫のように、動画投稿者に取材を申し込んでいました。電子工作を愛するfabcrossライターとして、そして一人の新米配達員として。一見怪しげな、だけど魅力たっぷりな「ウーバーイーツ電飾部(以下、Uber電飾部)」の活動を伺いました。
登場人物
淺野義弘
fabcrossライター。運動不足の解消と、小遣い稼ぎのために配達員を始めた。配達員歴は2カ月ほど。
大橋敦史さん(以下、オオハシ)
大阪在住のYouTuber/配達員。UberEats大好きYouTuber「オオハシーズ」として、フードデリバリーに関する動画を投稿している。配達員歴は2年以上。
「同時多発的に光り始めた」
(マイクとカメラの調整中)
淺野「(なんか頭についてるな……)」
オオハシ「お待たせしました、よろしくお願いします!」
淺野「よろしくお願いします! さっそくですが、Uber電飾部の活動はどのように始まったんですか?」
オオハシ「光り始めたのは私が最初じゃないんですよ。配達員仲間とはよくTwitterでやり取りしているのですが、あるとき『京都で光っている人がいるらしい』とうわさになり、興味を持っていました。
その後、京都でUber主催のイベントに参加したとき、うわさの『光っている人』と直接お会いできたんです。ユニークでおおらかなとっても良い人で、その場で意気投合して、勢いのままに電飾部を結成しました」
淺野「配達員向けのイベントなんてあるんですね! 京都でお会いした方は、どうして電飾を始めたんでしょうか」
オオハシ「彼の言葉をそのまま使うと、『光りたいと思った時が電飾部です』。どんな光であっても構わない、光りたいと思ったら光れば良いと。僕らはそんな彼に敬意を込めて“家元”と呼んでいます」
淺野「(精神的な話なんだ……)この動画以外にもたくさんの電飾アイテムが出てきますが、情報はどのように集めているんですか?」
オオハシ「電飾部の動画をアップしたら、全国の光っている人たちが同時多発的に自慢を始めたんですよ。デコトラ運転手が自分の車をアピールするようなノリだと思います。その情報を集めて仲間と動画にして、という繰り返しですね」
リアライト付けました。
— ロン・マシマシ略称ロン@UE🐼名古屋🚲 (@uerider_lp_ngy) August 7, 2019
コレでお尻も安全
(*´ェ`*) pic.twitter.com/bfbCD22KS5
オオハシ「基本的にはAliExpressで売っているような製品をカスタムして、配達バッグに合わせてDIYすることが多いです。本当はソニーのMESHみたいなツールも使って、もう少しインタラクティブにしたいんですけど、着手しては挫折しています(笑)」
電飾から始まるコミュニケーション
淺野「MESHという単語が出てきましたが、オオハシさんは電飾以外のガジェットにも興味があるんですか?」
オオハシ「私自身エンジニアではないのですが、昔からテクノロジー全般に関心がありました。いろいろな技術を使って競技を作る『未来の運動会』にもスタッフとして関わっていて、競技のために準備した8足のORPHE ONE※を電飾部の活動でも使っています(笑)」
ORPHE ONE:fabcrossでも度々取材しているno new folk studioが開発した、ソールが光るスマートシューズ
淺野「ORPHE ONEを8足持っている人なんて、滅多にいないですよ! エンジニアじゃないのが不思議なくらいです」
オオハシ「もともと広告代理店で働いていたんですけど、2018年に事業所がなくなってしまったんです。自分で仕事を作らなければいけないタイミングで、Uber Eatsのサービスが始まったので、これをやってみようと。
配車サービスのUberを使ったことはあったのですが、Uber Eatsのことはあまり知りませんでした。でも、街で普通のお兄ちゃんが『Uber Eatsの営業が来た』と話しているのを聞いて、技術に興味がある人もそうでない人も、同じように興味を持てるトピックになる予感がしました」
淺野「たしかに、フードデリバリーは多くの人が関わるサービスですよね。普通はアプリを通じてお店や注文者とやりとりしますが、電飾を着けていると直接声をかけられることもありそうです」
オオハシ「そうですね。たとえば私が頭に着けている『Cyber_Scouter』は特に機能もないファッションアイテムなんですけど、飲食店で届ける商品を受け取る際に、あえて手をかざしながら注文番号を言ったりします。そうすると、個人経営のお店の方から『コナン君みたいやね』とツッコまれたり、『なんやねんお前それ!』と爆笑されたりするんですよ」
オオハシ「繁華街だとホストのお兄さんやキャバクラのお姉さんが一目散にやってきて、『これ(電飾)カッコいいじゃないっすか!』『なにこれー?』みたいなコメントをもらえる。そこで仲良くなった女性とご飯を食べに行ったこともありますよ(笑)」
淺野「令和のナンパ術だ」
オオハシ「実用的な面で言うと、電光掲示板にはなじみの店の宣伝やUber Eatsのクーポン情報などを流しています。2018年にはUber Eatsが今ほど普及していなかったので、利用者の認知度アップにつながったかもしれません」
淺野「電飾はとにかく目立つから、宣伝にはもってこいですね」
電飾と安全、テクノロジーと配達員
淺野「最近はUber Eats 関連のネガティブなニュースも目にします。交通ルールを守らない配達員や事故などが報じられていますが、どう思われますか?」
オオハシ「少なくとも電飾部の仲間は、自信を持って交通ルールを守っている人ばかりです。やってみて気づいたんですけど、電飾は良くも悪くも目立ちすぎるので、ルールを破ったらすぐに分かるし、人数も少ないから簡単に特定されて、悪い評判が広がってしまいます。本当にマナーの良い人じゃないと、電飾は背負えないかもしれません」
淺野「目立つがゆえに、いっそう交通ルールに気を遣うようになるんですね」
オオハシ「電飾部の活動って、お店の人やお客さんは楽しんでくれるんですけど、なぜか一部の同業者からの目が厳しいんです。ストイックな配達員から『お前らチャラチャラ光って遊んでるんじゃないぞ』『それで配達効率が上がるのか?』と指摘されたりする。そういう反応に対しては、『光っていた方が見やすくて安全』といった機能面でのメリットも伝えていきたい」
淺野「楽しみから始まった電飾部の活動が、実用的な方向に発展していくのは面白いですね」
オオハシ「今はフードデリバリーの会社が増えていて、複数のサービスを兼任する配達員もいます。無地の配達バッグにパネルを付けて、サービスごとにロゴを切り替えられたら、配達員も楽だし、お客さんにとっても分かりやすいですよね」
オオハシ「スマホを持ちながらの運転も問題視されていますけど、もしARグラスで配達指示が見えるようになったら、物理的にスマホを持つ必要がなくなります。配達員が全員ORPHE TRACKを履いたら、結構な量の運動データが集まって、何かのデータビジネスに繋がるかもしれない。チャレンジしてみたいことがたくさんあるんです」
淺野「配達員はテクノロジーの最前線にいるように思えてきました」
オオハシ「YouTubeとの相性も良いんですよ。タブレットを貼り付けて自分の動画を流したり、配達の合間に映像を編集したりするので、私に待ち時間という概念はありません(笑)。
Uber電飾部はいつでも仲間を募集しています。『光りたいな』と思っちゃった人は、ぜひハッシュタグ #電飾部 をつけてツイートしてください。『光りたいと思った時が電飾部です』から!」
オオハシさんの話からは、とにかく電飾部の活動を楽しんでいる様子が伝わってきました。電飾をきっかけにコミュニケーションや実用性を生み出す姿勢は、ただアプリの指示に従うだけではない、新たな職業配達員のあり方なのかもしれません。街で彼らを見かけたら、声をかけてみてくださいね。それでは、僕も光るアイテムを探しに行ってきます!