「アリエナイ工作事典」著者インタビュー
「アリエナイ工作事典」の著者たちに聞く——マッドサイエンティストたちのぶっ飛んだ工作がMakerの魂をゆさぶる!
「強烈な爆音と衝撃波を放つスーパー空気砲エグゾーストキャノン」「エンジンをモーターに変え、公道デビューをめざす電動ポケバイ」……など、通常では考えられない工作の数々を紹介する本「アリエナイ工作事典」(三才ブックス)が刊行された。どんな発想のもとに工作されたのか、どんな技術が使われているのか、著者グループの2人に話を聞いた。
工作に歴史あり……「エグゾーストキャノン」とは!?
「アリエナイ工作事典」は、「アリエナイ理科ノ大事典」「アリエナイ医学事典」に続くアリエナイ理科シリーズの1冊。同シリーズは、2004年発刊の「図解 アリエナイ理科ノ教科書」から続く人気単行本企画だ。著者はいずれも「ヘルドクターくられ」が率いる、マッドサイエンティスト集団を標榜する謎の組織「薬理凶室」。薬理凶室の構成員らは「怪人」としてキャラクター化され、写真で登場するときでさえ被り物をしてその正体を明かさない。
アニメのような背景設定から、空想の作品を作っているかと思いきや、現実世界の科学的な根拠に基づくものばかり。その博学多才ぶり、高い工作技術は専門家も舌を巻く。そのギャップがこのシリーズの魅力にもなっている。今回は新刊のメイン著者である、薬理凶室メンバーの「yasu」さんと「デゴチ」さんがインタビューに応じてくれた。
(※編集部注:今回のインタビューはオンラインで実施しました)
——本の中では小学生でも作れそうな簡単なものから大学研究室レベルの複雑怪奇なものまで40以上の工作が紹介されていますが、お二人の“推し”工作はどれになりますか?
yasu:私は、空気を圧縮して瞬間的に排気する超高速空気砲「エグゾーストキャノン」を、2008年から作り続けています。作り続けていたらいつの間にか怪人として召喚されていたので、やはりエグゾーストキャノンの記事がイチ推しですね(笑)。
圧縮空気砲といってもどんなものかイメージしにくいと思うので、基本構造を簡単に説明しましょう。シリンダー状のチャンバーにノズル、ピストンユニット、トリガーバルブが内蔵された形になります。初期作品では、これら主要部品は金属を切削加工して一から切り出していました。メインチャンバーを圧縮空気で満たし、トリガーバルブでノズルを一気に解放して、高速で発射させる仕組みです。いかにリーク(漏れ)が無いようにシール(密閉)するか、メインピストンの駆動速度をどれだけ上げられるか、といったところが主なポイントになります。試行錯誤の末、私は超高速自動連射にもたどり着きました(下記画像)。この本では、そういった開発の歴史を振り返りながら、新技術についても紹介しています。
yasu:流体を扱う構造物って機能を突き詰めていくと形がどんどん洗練され、「機能美」が生まれてくる。そこが魅力なんです。
電動ポケバイ、公道デビュー!
デゴチ:私が特に読んでいただきたいのは、「ポケバイ電動化Project」という改造工作記事です。市販のポケバイからエンジンを外してモーターを取り付け、さらに前照灯・番号灯・警報器・方向指示器などの電装系保安部品を追加して、道路交通法と進路運送車両法をクリア。実際にナンバーを取得して公道を走ろうという、バカなことをマジメに取り組んだ記事になります。自作バイクとして必要書類を役所に提出し、無事にナンバーを取得できたので、自賠責保険に加入して合法的に公道走行が可能になりました。
デゴチ:また、「電動ライトセーバー」も思い入れのある記事です。なんせ2011年に開発を始めてますので(笑)。私がこだわったのは、自動で伸縮する機構をどう再現するかです。ホームセンターなどで買える身近な材料や、3Dプリンターを駆使して面白いものが出来上がりました。これらの記事はハードルが高めなのですが、私は100円ショップの素材などで気軽にチャレンジできる初心者向け工作も担当しているので、「キラキラ宝箱」もオススメしたいです。箱のフタを開けると、効果音が鳴りキラキラと光るという平和的な工作になります。実際に作ってくれた方がTwitterで報告してくれて、うれしかったですね。
大人の夏休みの自由工作……水鉄砲を極める!
——2020年夏にお二人で工作コンテストを催した話が本の中に出てきますね。
デゴチ:きっかけはyasuさんの2020年7月末のツイート、「夏休みないけど夏休みの工作したいですね」です。これに対して「水鉄砲作りコンテストとかやりたいですね」と返答し、勝手に開催を宣言しました。すると腕に覚えがあるMakerたちが反応してくれたんです。自由な発想で自作した水鉄砲の作品を、Twitterにツイートするというオンラインイベントです。提出期限は1カ月後の8月31日深夜。リツイートやいいねの数で優勝者を決め、その結果を2021年1月号の「ラジオライフ」(三才ブックス)にてリポートしました。
——お二人が作った水鉄砲も本に掲載されていますよね。
デゴチ:私が作ったのは、圧縮空気で水を「塊」の状態で射出することを目指した「水塊射出水鉄砲」です。水を一時的に溜めておく射出水タンクを使って、サイホン*の原理を利用した給水機構を実現しました。撃ってみると一定量のまとまった水がジョバッと飛び出します。
yasu:私は、あえてエグゾーストキャノンのメカを封印し、新しい機構で作りました。名付けて「携行型超高圧ウォータージェットガン」。ともかく高圧で水を射出することを目指しました。ポイントは圧力変換です。圧縮空気で大ピストンを押し込み、小ピストンに充填した水を超加圧して一気に射出する構造にしました。「パスカルの原理*」を応用しています。キュウリが切れるほどの威力です。
デゴチ:軽いノリでスタートしたコンテストですが、多くの人を巻き込めたのが面白かったです。今年の夏もまた何かやりたいですね。
サイホン*:サイホンとは大気圧を利用し、管を使って液体を移動させるメカニズム。始点と終点における液面の高さの差が位置エネルギーの差となり、液体が管内を移動する。
パスカルの原理*:流体が密閉容器の中に入れられていて、各分子が静止している場合、あらゆる地点の圧力は等しくなる。
「アリエナイ工作」の新たな扉を開いた3Dプリンター
——3Dプリンターについては1章を割いてフィーチャーしていますね。アリエナイ工作の道具として、お二人は3Dプリンターをどう使っていますか?
デゴチ:使いこなせるようになるとイッキに工作の幅が広がる、非常に便利な道具ですね。市販されていないサイズや形のパーツを自作できたり、同じものを量産できたりするのは助かります。ただ、高さが20cmを超えるようなある程度大きなものを作るときは時間がかかるので、失敗しないかドキドキしますけど(笑)。
yasu:エグゾーストキャノンは、かつては削り出した金属やプラスチックに、Oリングなどを組み合わせていました。しかし、ここ数年の間に3Dプリンターが進化し、家庭用のFDM(熱融解積層)方式のものでも設定条件によって耐圧部品が作れることが分かったのです。耐圧部品を試作してテストしたところ、なんと3MPa(30気圧)にも耐えられることが判明しました。これは驚異的な数値です。こういった知識と技術を応用し、3Dプリンター工作の締めとして「エクゾーストキャノンMk.19」を製作しました。シャフトやネジなどを除くとほとんどはプラスチックのパーツです。筐体は塩ビのクリアパイプ、ピストンやノズル、尾栓などの耐圧部品は3Dプリンターで出力しました。組み上げて試射したところ、十分な威力を発揮できました。耐圧部品が3Dプリンターで作れるとなると、流体を扱ったものづくりの世界がグッと広がると思います。
アリエナイ工作によって工作の楽しさを追求する
——お二人はどんなところに工作の楽しさを感じますか?
デゴチ:逆説的ですが、「失敗」にあるんじゃないかと思ってます。もちろん、考えたアイデアが1発目の試作で動作したらうれしいですが、一度失敗して原因を特定して改善して動作するようになると「どんなもんだ!」とさらに大きなうれしさを感じるんですよね。できなかったことができるようになる。それが工作の楽しさだと思っています。
yasu:この本で紹介している工作は規格外のものばかりです。その工作によって、アリエナイ物理現象を自分の手で生み出せるようになります。つまり現実世界をハックできる、支配できるようになるんです。そんなワクワク感が、私にとっての工作の面白さですね。
——最後にfabcrossの読者にメッセージをお願いします。
デゴチ:薬理凶室は「アリエナイ理科」という枠組みで、面白おかしく科学に親しんでもらえるような活動をしています。なので、われわれが工作をすると、ちょっと変な工作物ができてしまうのです。そんな科学とギリギリ首の皮一枚でつながっている工作が多く載っている「アリエナイ工作事典」、ぜひご一読ください。
yasu:パワフルな工作ってほんとに面白いんです。この本で紹介されている工作を何か一つでも作って、その魅力を体験してもらいたいと思います。するともっと新しい工作がやりたくなる、そうすればもっと科学を勉強したくなるハズです!
インタビュー後、版元・三才ブックスの担当者・小野浩章氏(ラジオライフ編集長)からもメッセージをもらった。
小野:「ラジオライフ」では毎月、薬理凶室の皆さんに「新課程ア理科」という連載をしていただいています。その連載から物理・工作系の記事をまとめたのが、今回の新刊「アリエナイ工作事典」です。各工作記事に工作レベルを表記しているので、実際に作ってみたいと思う方の参考になるかと思います。また、著者陣はもちろんのこと、イラストレーターさんやデザイナーさんも「アリエナイ理科」シリーズのファンという点もユニークなところ。この本に関わる方みんなの思い入れがあるだけに、非常に熱量の高い1冊に仕上がりました。読者の皆さんにも、「アリエナイ工作事典」の誌面からその“熱”を感じてもらえたらうれしいです。
本を読めば「アリエナイ工作」がもたらす衝撃の数々が読者を襲う。Makerとしてのアナタの魂がきっと揺さぶられることだろう。