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足立区の町工場発「端材」に命を吹き込む「チョコ・ザイ」がハンドメイド作家たちと出会った

メーカーが製品や部品を製造する過程で必ず出る「端材」。寸法が余ったものや、作業の残りかす、規格に合わなかったものなどさまざまな端材がある。ものによっては製品となる部分より多いこともあるが、基本的にはすべて廃棄される。そんな端材に新たな価値を与え、蘇らせようとするのが「チョコ・ザイ」プロジェクトだ。(撮影:淺野義弘)

東京・足立区のものづくり企業らが集まって始めたプロジェクト

このプロジェクトに取り組んでいるのは「未来DESIGN」というグループ。TOKYO町工場HUB代表の古川拓氏が事務局長としてまとめ役をしつつ、東京・足立区の町工場の経営者、プロダクトデザイナーらと共に進めている。

未来DESIGNは、プロダクトデザイナーである田口英紀氏が2014年に足立区でものづくりをしている人たちにデザインを教える「デザイン講座」を立ち上げたことから始まった。現在、メンバーは工場の経営者が6〜7割ほど、その他にも作家、デザイナーなどが集まってさまざまな試みを行っている。ちなみに、以前fabcrossで取材した「ミユキアクリル」こと有限会社三幸の小沢頼孝会長もメンバーの1人だ。

その中の実験的な取り組みとして「チョコ・ザイ」がスタートしたのは2022年11月のこと。キックオフイベント「チョコ・ザイ祭り」を、足立区にある未来DESIGNメンバー所有の空き倉庫で開催し、チョコ・ザイの販売とワークショップを行った。その後2023年4月には、足立区の舎人公園で開催された「千本桜まつり」に出展し、チョコ・ザイを100円均一で販売した。

「ちょこっと」の端材を「ちょこっと」だけ加工

ここであらためて「チョコ・ザイ」とは何かを説明しておこう。端的に言うなら、「工場の製造過程で出る端材を、少しだけ加工した材料」のことである。「少しだけ加工」とは、その端材を使う人が怪我をしないようにバリを取ったり、扱いやすい大きさにカットしたりする程度の加工だ。

工場で作るものは規格品であり、ものによっては0.01mmレベルの公差精度が求められる世界である。それに対して端材は“規格はずれ”であり、似たものはあっても厳密な意味で同じ端材はないと言っていい。「そのことを面白味と捉えて、何かに使えないかと考えたのがチョコ・ザイの始まり」だと古川氏は話す。

TOKYO町工場HUB代表で未来DESIGN事務局長を務める古川拓氏。 TOKYO町工場HUB代表で未来DESIGN事務局長を務める古川拓氏。

また、工場で出る端材は基本的に長期間保存するものではない。ある程度たまれば、廃棄ないしリサイクルのために回収されていくし、出る端材を全て加工できるわけでもない。「ちょこっと」の端材を「ちょこっと」だけ加工した材料が「チョコ・ザイ」というわけだ。

一期一会の出会いを面白がってもらいたい

そしてもう1つ、チョコ・ザイの特徴として「賞味期限」がある。本来は回収に出すはずの端材を在庫として抱えるとなると、「それは少し違う」というのが未来DESIGNとしての考え方だ。だから、1日〜数日程度のイベントで販売するか、インターネットで販売するにしても1週間の期間限定販売としている。

「これが、例えば『ハンズに行けばいつでも棚に置いてある』ではちょっとつまらないんですよね。縁日の出店のような感じで捉えてもらえれば」と古川氏は話す。

「今日ここで出会った端材には、もう出会えないかもしれない」、そんな一期一会の出会いを面白がってほしい、面白がれる人に提案したいという思いが、チョコ・ザイのコンセプトには込められている。

クリエイターとの出会いを求めて西へ

2023年8月の終わり、プロジェクトの次なる展開として、東京・世田谷区にあるファブスペース「シモキタFABコーサク室」で、チョコ・ザイをお披露目するイベントが催された。

不定期に催されている「夜のコーサク室」の一環として「『チョコ・ザイ』に出会う会」が開かれ、シモキタFABコーサク室と関わりのあるハンドメイド作家の人たち10人と、未来DESIGNのメンバーが一堂に会した。

実はこのイベントも、偶然の出会いから生まれたものだ。古川氏がたまたまシモキタFABコーサク室を利用しに訪れた際、同施設を運営する一般社団法人CO-SAKU谷の代表・高橋明子氏にチョコ・ザイについて話したことがきっかけだった。

一般社団法人CO-SAKU谷 代表理事 高橋明子氏。 一般社団法人CO-SAKU谷 代表理事 高橋明子氏。

「私自身の本業はマーケティングなので、ものづくりに関しては素人です。この場所をどう使っていくか、試行錯誤しながらここまでやってきました」と高橋氏は話す。クリエイターをはじめものづくりの担い手である人たちの声や要望に耳を傾け、機材やスペースを提供することだけにとどまらず、コーサク室というスペースのポテンシャルを利用者と共に拡げていくことを目指しているという。この「夜のコーサク室」企画やクリエイターと共に開催しているポップアップイベントなどは、まさにそれが形になったものだ。

「ハンドメイド作家さんは、面白い素材を見つけ、それをものづくりに生かすプロフェッショナル。チョコ・ザイの話を聞いて、いい出会いの場を作れるのではないかと思い今回のイベントの形になりました」と高橋氏は開催の経緯を説明した。

チョコ・ザイいろいろ

イベントの冒頭、古川氏はチョコ・ザイのコンセプトを説明し、「私たちにはこれを使って何を作るかというアイデアが特段あるわけではありません。皆さんのような作家さんに、これを見ていただいて、インスパイアされることがあればどんどん使っていただきたいと思っています」と話した。「よかったら見ていってください」の一声の後、めいめいが興味のある材料を手に取りながら、未来DESIGNのメンバーの話に聞き入っていた。

一口に端材と言っても、素材の種類はさまざまだ。金属や樹脂・アクリル、木材、皮革、紙、布、ガラス、陶器のほか、畳の材料であるイグサや縁(へり)の端材もある。どれも“規格はずれ”だが、元は規格品と同じで技術者・職人が厳選した素材だ。

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これは、金属加工品の端材。小さな穴の開いた部品をつくるためにプレス機械によってくり抜かれた部分だ。ビンに入っていると星の砂のようできれいだが、くり抜かれた直後は油まみれでバリがある状態なのだそう。繰り返し洗浄して油を取り、バリを取る作業をしてようやくこの形になる。だから、出た端材を全部チョコ・ザイにすることはできない。工場の従業員の方が本業の合間に作業できる範囲内で「ちょこっと」つくるのだ。

イベントに来ていた野村畳店の端材。同店は2007年の全国技能グランプリで優勝し、畳製造技術で内閣総理大臣賞を受賞したこともある。端材も一流の職人が厳選するものだ。 イベントに来ていた野村畳店の端材。同店は2007年の全国技能グランプリで優勝し、畳製造技術で内閣総理大臣賞を受賞したこともある。端材も一流の職人が厳選するものだ。
建材店から出る木材の端材。 建材店から出る木材の端材。
ワニ、ゾウなどの皮革の端材。 ワニ、ゾウなどの皮革の端材。
ある程度デザイン・加工されたものもある。 ある程度デザイン・加工されたものもある。

この日シモキタFABコーサク室を訪れた未来DESIGNメンバーのうち、町工場から参加したのは、金属プレス加工の株式会社トミテック代表取締役・尾頭美恵子氏、金網フィルターメーカーであるジャパンフィルター株式会社代表取締役・木村真有子氏、野村畳店の野村祐一氏の3人。

それに対し、ハンドメイド作家は、帽子、革靴、刺繍、アクセサリー、金属工芸、置物など、多方面のジャンルで扱う素材もさまざま。それぞれが興味のあるチョコ・ザイを手に取りながら、何を製造する過程で生まれ、どのような「少しの加工」が施されたものなのか、未来DESIGNのメンバーの説明を真剣な眼差しで聞き入っていた。

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作家の1人は、「自分の作品で使っている材料とは全然違う材料を見て、『どんなものが作れるかな』と刺激になりました。これがごみになってしまうのは本当にもったいない。私もそうですが、今日参加した皆さんは何かしらヒントを得たんじゃないかと思います」と話していた。

端材も元は規格品と同じ材料なのに

「今日ここに来ているような方たちにプレゼンテーションしていけば、皆さんのアイデアで端材が息を吹き返すかもしれない。そう思ってやっています」。そう話すのは、未来DESIGNのメンバー・田口氏だ。

プロダクトデザイナーである田口氏は、大手電機メーカーから時計メーカーへ転職し、約20年にわたって時計のデザインをしてきた。香港の事務所に赴任して海外向けの製品をデザインしていたため、在籍期間の半分くらいは海外だったそうだ。

プロダクトデザイナーの田口英紀氏。未来DESIGNメンバーからは「田口先生」と呼ばれている。 プロダクトデザイナーの田口英紀氏。未来DESIGNメンバーからは「田口先生」と呼ばれている。

そうした経歴のある田口氏には、「とにかく材料に出会ってもらいたい。ものを作る時にこういうものが出るんだということを知ってほしい」という思いがある。

しかし、だからといって無償で端材を配ってしまうと、簡単に捨てられてしまう可能性もある。そのため過去に実施した「チョコ・ザイ祭り」や千本桜まつりでは、1セット100円や150円という低価格で販売した。今回のイベントは、クリエイターにチョコ・ザイを知ってもらうことが目的だったため販売はしなかったが、思いは変わらない。

「やっぱり『買った』という意識を持っていただきたいので。材料として価値はあるんです。例えばこの端材は国産高級車に使われている材料。製品は高価なのに、端材はごみでしかない。でも同じ素材なんです」(田口氏)

チョコ・ザイの今後の展開の1つとして、デザイン専門学校や美大に提供し、教材として置いてもらうことを考えているそうだ。

「実はそういう芸術系の学校で、材料工学を教えているところはあまりないんです。理工系に分類されますし、先生も材料についてはそれほど詳しくない。芸術系以外でも、例えば工業高校でもいいと思う。そういうところに教材として置いてもらうと、一つの手がかりになるかもしれない」(田口氏)

地域の外に踏み出し社会との対話を求める姿勢が広がりを生む

チョコ・ザイの取り組みについて古川氏は、「サステイナブルだとか、社会をよくしようとか、地球環境を守ろうとか、そういうことを大々的に掲げるつもりはない」と話す。その理由は、「工場は本来的に大量生産・大量消費の一端を担っていますから、それを言い出すと空々しく聞こえてしまう」ということだそうだ。「だから、せめて何か面白い角度から取り組むことができないかと、チョコ・ザイを始めました」。

古川氏はこの日も「対話」という言葉を何度も口にしていた。それは未来DESIGNというグループが、会員企業や特定の業界、地域の発展を目指す商工会的な組織ではなく、「対話」と「学び」を目的とするソーシャルラボと定義されていることに基づく。

「私たち未来DESIGNは、『これからの豊かさとは何か』をテーマに据えています。明確に何をしようという目的はありませんが、人と会って話したり、考えたり、社会とコミュニケーションしていくソーシャルラボとして少しずつ活動しています」

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その「対話」には、未来DESIGNのメンバー間の対話だけでなく、地域や社会との対話も含まれる。その意味で、シモキタFABコーサク室と実現したイベントは、チョコ・ザイにとって足立区という地域の「外」に踏み出して対話する重要な機会だった。

「私たちにとって、実はこのイベントのような機会が大事なんです。足立区から下北沢へ来て、いろいろな方にお目にかかって話ができるなんて幸せです。たぶん他ではあまり行われていないのではないでしょうか。やはりどうしても身内で固まりがちで、広がりがなくなってしまうので」と古川氏は話す。

その思いはシモキタFABコーサク室の高橋氏も同じようだった。古川氏をはじめとする未来DESIGNに「外向き」な印象を受けたからこそ、「一緒に何かやろう」という考えになったのだと語っていた。

古川氏は、「作家さんたちにチョコ・ザイを見ていただき、いろいろと発見や再確認がありました。1つは、チョコ・ザイのようなアイデアが東京の西側でも受け入れられるということ。もう1つは、チョコ・ザイはあのイベントのような交流の呼び水ともなりうることです」と語る。一方で「次の段階に進むには何かが足りない」とも話し、これからの展開について高橋氏とさらなる取り組みを企画しているそうだ。

今度はいつ、どこで、どんな形で個性豊かなチョコ・ザイたちと出会えるのか、次の展開を期待したい。

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