超高速高効率次世代磁気メモリー技術——フェムト秒レーザーでデータを書き込む
2019/02/08 08:30
アイントホーフェン工科大学の研究チームが、光ディスクと磁気ディスクの両方の長所を併せ持つ、ハイブリッドなメモリー技術を開発した。フェムト秒レーザーの単パルスにより、高速かつ高いエネルギー効率でデータを磁気メモリーに書き込むことができる。加えて、記録されたデータを高速で移送して保存場所を移しかえる、レーストラック・メモリー技術と組み合わせることに成功した。研究成果は、2019年1月10日に『Nature Communication』誌に公開されている。
光は、最もエネルギー効率の高い情報伝達手段だ。しかし、光には大きな限界があり、記録したデータをスイッチングするのが難しく、データセンター等におけるデータの記録保存の主体は、磁性を利用して書き込むハードディスクに依存している。しかし、今日、ハードディスクにおけるデータのスイッチングに必要なエネルギー量が急増している。
一方およそ10年前に、10-15秒レベルの極めて短時間にエネルギーを集中できるフェムト秒レーザーを用いて、磁気メモリーデバイスの磁化をスイッチングする技術が提案され、この分野における研究が活発に行われている。しかし、磁気メモリー用の代表的材料である強磁性体のスイッチングでは複数のレーザーパルスが必要で、データ書き込み時間が長くなるという問題がある。研究チームは、Pt/Co/Gd系合成フェリ磁性体を用いることで、フェムト秒レーザーの単パルスでスイッチングを行うことに成功した。磁化のスイッチングは10-12秒オーダーであり、現在の技術レベルより100倍から1000倍速い。
更に、研究チームは、このスイッチング技術を、磁気ワイヤー中を電流パルスにより磁区を高速で移動させ、磁性ビット形式のデータを効率的に移送できるレーストラック・メモリー技術と組み合わせた。レーストラック・メモリーは、2008年にIBMによって提案された、高速かつ低消費電力の大容量メモリー技術である。統合システムでは、光によって書き込まれた磁性ビットが、直ちにナノワイヤーに沿って移送されて保存場所を移し替えられ、新たなデータ書き込みのための磁気ビットが空き、次々と高速データ書き込みが可能になる。「電子的な中間デバイスを必要としない、光スイッチングとレーストラック・メモリーの統合システムにおけるデータ移送は、移動する高速鉄道から他の高速鉄道に飛び移るようなもの。著しい高速化と消費エネルギー削減が実現する」と、研究チームは語る。
開発された技術は、将来の光集積回路における、データ記録プロセスを革新できると期待される。この研究ではミクロンサイズのワイヤーが使われたが、将来的なチップ化のためには、ナノサイズの微小ワイヤーを使ったデバイスを設計する必要がある。加えて、研究チームは、データの読み出しを光のみで実施する研究も進めている。
(fabcross for エンジニアより転載)