マイナス263℃で凍らない水——脂肪分子により極低温での水の結晶化を防止
2019/05/22 10:30
スイス連邦工科大学チューリッヒ校とチューリッヒ大学の研究者たちが、水が氷に結晶化するのを防ぐ技術を開発し、極低温でも凍らないようにすることに成功した。実験では、水を液体のまま-263℃に至らせることができたという。研究成果は『Nature Nanotechnology』に掲載されている。
水の氷結を阻止するために研究者らが開発したのは、脂肪分子を合成して作った脂質中間相という物質である。この材料では、脂肪分子が自己集合し、凝集し、膜を形成。その膜において、直径1nm未満の幅のチャネルが発生し、それぞれのチャネルが接続されてネットワークを構築する。
水の分子は組織化されていないが、それが規則的な3次元格子構造に配列されると、氷の結晶が形成される。一方、脂質中間相においては、チャネルがあまりに狭いので、水が氷の結晶となるスペースがない。そのため、極低温でも水の分子は乱れたままで、脂質も凍らない。
実験では、研究者らは液体ヘリウムを使用して、水を閉じ込めた脂質中間相を-263℃という絶対零度(-273℃)より10℃高い温度まで冷却したが、氷の結晶は形成されなかったという。発表によると、水はこの温度に液体のまま達すると、ガラスのようになるという。
チューリッヒ大学のEhud Landau教授によると、脂質中間相を構成する脂肪分子には、疎水性の部分と親水性の部分がある。そのため脂質中間相では、水と疎水性の部分との接触が最小限に抑えられているのに対して、親水性の部分との接触が最大化されている。
「私たちが開発した脂質の新規性は、分子の疎水性部分内の特定部分に非常に歪んだ3員環を導入したことだ」とLandau教授。「そのような3員環は、小さなチャネルを作り出すのに必要な曲率を可能にし、脂質が結晶化するのを防ぐ」と説明する。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校のRaffaele Mezzenga教授は、脂質中間相の幾何学的形状が変化する温度を決めるのは含水量だという。例えば、12体積パーセントの水を含有する場合、脂質中間相の構造は約-15℃でラメラ構造へと遷移する。
(fabcross for エンジニアより転載)