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MIT、温度変化で作動する人工筋肉繊維を開発——繊維1本で自重の650倍を牽引

Credit: Felice Frankel, edited by MIT News

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、植物の巻きひげにヒントを得て、コイルのような形状で伸び縮みし、耐久性の高い人工繊維を開発した。軽量で応答性も高く、複数本束ねれば「人工筋肉」として、産業用/医療用ロボットや義肢にも応用できる。研究結果は2019年7月12日付けの『Science』に掲載されている。

人工筋肉として、これまでに油圧式や空圧式、形状記憶合金、刺激応答性ポリマーなど様々な方法や素材のものがあるが、重量や応答性に課題がある場合が多い。

そこで研究チームは、軽量で応答性の高いシステムを開発するため、伸縮性の高い環状共重合体エラストマーと非常に硬い熱可塑性ポリエチレンを組み合わせた繊維を作製した。この2つの素材は熱膨張係数に差があり、加熱すると一方は膨張し、もう一方はそれを抑制するように働く。結果として、繊維は低膨張材料の側へとコイル状にカールしていく。

この繊維はわずか1℃の温度変化にも反応し、大きさにもよるが「その起動時間は数十ミリ秒から数秒だ」とPolina Anikeeva教授は語る。加熱するとコイル状繊維は収縮して物を持ち上げる力を発揮し、冷めると元の長さに戻る。耐久性も高く、弛緩と収縮を1万回繰り返した後も強度を保っていた。実験では、1本の繊維で自重の650倍の物を持ち上げることができた。

特性の異なる2種類の材料から繊維を作製するため、延伸法を利用。プリフォームと呼ばれる特大サイズの材料をある温度まで加熱して柔らかくした後、引き伸ばして繊維にする。繊維の幅は、数マイクロメートルから数ミリメートルまで調整でき、バッチ製造による大量生産も可能だ。

繊維を加熱したときに発生する力の度合は、繊維に与える初期の伸び量を決めることで「プログラム」できる。これによって必要な力の量と必要な温度変化の量を正確に調整できる。さらに繊維を束にすれば、より重いものを持ち上げることも可能で、研究チームは繊維を100本束ねたテストにも成功している。

将来的には、光ファイバーや電極といった熱源素子を組み込んで外部熱源に頼らない人工筋肉としての利用も可能だという。軽量アクチュエーターとして義肢に組み込んだり、動脈内で活動する小型医療ロボットに組み込んだりと、軽さと速さをいかしたシステムに用途を見出すことができる。さらに、繊維を導電性ナノワイヤーのメッシュで覆い、フィードバック可能なひずみゲージとすれば、自動で正確な制御が求められるロボティックシステムにおいても利用可能だ。研究チームは、この素材の可能性は無限大、と期待を込めて語っている。

fabcross for エンジニアより転載)

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