有機薄膜太陽電池の光電変換効率を向上する手法——インクジェット印刷可能な太陽電池も
2019/08/29 10:00
カンザス大学の研究チームが、有機半導体と2次元 MoS2単原子層のハイブリッド接合を利用した太陽電池デバイスにおいて、光電変換効率を向上する手法を考案した。接合界面近傍のエネルギー地形を制御して、フリー電子を発生させるための指針を得たもので、研究成果は、2019年6月21日に『Journal of American Chemical Society』誌に公開されている。
20世紀半ば以降、ポリアセチレンなど有機ポリマー材料にも半導体特性を示すものがあることが明らかになった。デバイス特性についてはシリコンなど無機材料に比べて一般的に劣るものの、軽量、大面積、フレキシブル、印刷が可能といった特徴を持つことから、電子ペーパーやフレキシブルディスプレイなど、新たな用途向けとして期待されている。特に光を吸収して電流に変換できるデバイスにおいては、有機薄膜太陽電池への展開も注目されている。
有機半導体を利用した太陽電池では、光吸収により電子と正孔の対から成る励起子が生成され、他の半導体との界面でフリー電子を放出することで、光エネルギーを電流に変換する。これについて、研究チームを指導する物理天文学科のWai-Lun Chan助教授は「材料中を自由に動き回るフリーな電子の生成が容易でなく、太陽電池としての充分な特性が得られていない構成もある」と語る。
研究チームは、正孔からの束縛が強い励起子からフリー電子を生成できるかどうかは、界面近傍のエネルギーバンドの状態(エネルギー地形)に強く依存していると考え、有機半導体の亜鉛フタロシアニンZnPcと、遷移金属ジカルコゲナイド半導体の硫化モリブデンMoS2とを接合したハイブリッドデバイスを作成し、接合界面のエネルギー地形と、フリー電子の生成挙動の関係を調べた。この研究では、時間分解光電子分光装置などにより、1000兆分の1秒間しか存在しない超高速レーザーパルスを照射して励起子を生成させた。2回目の照射で、励起された電子を材料外に放出させ、そのエネルギーを測定することで、接合界面近傍でのエネルギー地形を、時間的および空間的に解析した。
その結果、MoS2としてバルク結晶を用いた場合、界面近傍のエネルギーバンドの変形が大きく、電子と正孔の再結合が進行し、フリーな電子の生成が阻害されることがわかった。その一方でMoS2として2D単原子層を用いた場合では、エネルギーバンドの変形が小さく、フリー電子が生成されることを見出した。この発見により、励起子からフリー電子を発生させるためのハイブリッドデバイスのエネルギー地形に関する指針が得られ、有機半導体を利用した太陽電池設計に必要な一般原理が構築されるといえる。研究チームは、「将来的に、インクジェットプリンターでフレキシブルな有機薄膜太陽電池を安価に印刷し、建物の壁に張り付けることが可能になるだろう」と、期待している。
(fabcross for エンジニアより転載)