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フロー電池用のイオン交換膜を開発——再生可能エネルギーによるサステナブルな電力網構築に向けた技術

Credit: Marilyn Sargent/Berkeley Lab

アメリカエネルギー省ローレンスバークレー国立研究所(以下、バークレー研究所)は、フロー電池用にコスト効果の高いAquaPIMを利用する技術を開発したと発表した。太陽光発電や風力発電といった不安定な再生可能エネルギーを蓄えることで、電力網として普及を促進する可能性がある。バークレー研究所のスタッフサイエンティストであるBrett Helms氏らが、カリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学、イタリア技術研究所(IIT)と共同で行ったもので、成果は2019年10月9日に『Joule』誌に掲載された。

フロー電池は、イオンの酸化還元反応を溶液のポンプ循環によって進行させて、充電と放電を行う二次電池だ。充放電による劣化が少なく長寿命、また大型化が容易なことから、太陽光や風力など不安定な再生可能エネルギーを電力網用に安定化させるための蓄電設備などに向けた研究が進んでいる。しかし、数千の家庭に確実に電力を供給するためには、いまだコスト面で課題がある。

コスト高になる主な要因は、フロー電池の発電セルに、燃料電池に用いられるのと同じ、フッ素系イオン交換膜が使われているためだ。フッ素系ポリマー膜は高価で、フロー電池のコストの15〜20%を占めている。また、こうした最新のイオン交換膜は主として(水素イオン濃度の高い)酸性システム用のもので、(pH14~15程度の水素イオン濃度の低い)アルカリシステム用ではない。

今回研究グループは、水溶液ベースのアルカリ電池システム用に、AquaPIMとして知られるポリマーに着目した。このAquaPIM膜を、アルカリ電解液でどのように機能するかを試験したところ、アルカリ条件下でも重合体結合したアミドキシムが安定であることが分かった。一般的に、有機材料は高pHでは安定ではなく、一般的なフッ素ポリマー膜の中にみられる細孔が時間とともに崩壊してしまう。ところが、AquaPIM膜ではそのポリマーの構造によって強塩基性でも細孔は崩壊せず、伝導性を維持できることが明らかになった。これは、AquaPIM膜の構造をシミュレートする理論的研究によっても、裏付けられたという。

研究グループは今後、AquaPIM膜を、金属や無機系、有機系など、より広い範囲のフロー電池に応用していく予定だ。将来的には、陽極に亜鉛を、陰極として鉄ベースの化合物を使用し、簡単に入手できる材料のみで構成できる、長寿命で低コストの電力網向けフロー電池の開発を目指している。

研究グループは、フロー電池のコストを削減する1つの方法は、フッ素系ポリマー膜の代替品として、AquaPIMのような安価なものの提案が有効だとし、これにより1キロワットあたり約300ドル程度のコストで実現できるとしている。

fabcross for エンジニアより転載)

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