スーパーコンピュータを駆使し、100年来の冶金学的疑問を解明
2020/12/14 10:30
ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)の研究チームが、最先端のスーパーコンピュータを駆使し、巨視的な結晶塑性を説明できる大規模シミュレーションを実施。金属の加工硬化現象を再現するとともに、単結晶で発生する階段状の加工硬化曲線のメカニズムについて解明した。冶金学において確立されてきた転位論を乗り越えて、もっと基礎的な単位である原子個々の運動に基づいて、加工硬化現象を直接的に再現することに成功したもので、研究成果が2020年10月9日の『Nature Materials』誌に公開されている。
何千年もの間、人類は、金属を機械的に変形することにより強靭な材料が得られるという、加工硬化現象とよばれる自然界の恩恵を受けてきた。古来より鍛冶屋や刀匠は、鋼をハンマーで鍛え、折り畳みを繰り返すことにより、強靭で鋭利な刀剣や包丁を造ってきた。近代では、長大橋や各種バネなどに使われる鋼線やピアノ線は、加工硬化による引張強度向上を利用し、また加工硬化を成形性向上に活用している自動車用高級薄鋼板もある。
金属の塑性変形は、1934年に英国のG.I.Taylor博士等により提案された、結晶格子の乱れで生成する「転位」の概念の導入によって見事に説明されるようになった。これ以降、電子顕微鏡による転位や転位網などの直接観察や、原子間の結合強度や転位構造に関する基礎理論の発展に伴い、材料科学の分野は加速度的に進歩した。加工硬化現象についても、変形に伴って転位が増殖し内部応力が高まるとともに、転位同士の交切などの相互作用で転位が動きにくくなるなどの定性的な説明が確立され、実際の工業的応用に関しても半定量的な理論が構築されてきた。唯一、単結晶金属においてのみ、屈曲した階段状の加工硬化曲線が生じる点は、未解明のまま残されてきた。
LLNLの研究チームは、スーパーコンピュータを最大限に活用し、結晶格子における原子結合に基づいて、加工硬化現象を直接的に再現し、単結晶の加工硬化曲線に関わる謎を解明することにチャレンジした。転位を基礎要素としてシミュレーションするのではなく、原子結合を基礎要素として基本的なレベルまで遡って加工硬化の起源を追求したのである。
アルゴンヌ国立研究所のMiraスーパーコンピュータおよびLLNLのVulcanおよびLassenスーパーコンピュータを駆使して、巨視的な現象を再現するのに充分な非常に多数の基礎要素を含んだ、大規模シミュレーションを実施した。その結果、アルミニウム単結晶における加工硬化現象を再現することに成功するとともに、加工硬化曲線の形態が単軸引張方向と結晶方向の相対的関係に依存して変動することを明らかにした。相対的方位関係によっては、加工硬化曲線が単調に増大するものと、屈曲した階段状に増大するものが発生し、後者は単軸引張変形のもとで生じる結晶回転によって発生することを示した。今後、巨視的かつ統計的な規模の大規模要素数を含んだシミュレーションが更に進展することで、材料科学の発展に貢献するものと期待される。
(fabcross for エンジニアより転載)