圧電ナイロン繊維の製造方法を発見——身体の動きで携帯電話を充電できるスマートウェア誕生の可能性も
2020/12/29 07:30
英バース大学は、2020年11月5日、緩やかな身体の動きで携帯電話を充電する程度の電気を発生させることができるナイロン繊維製造方法を発見したと発表した。研究成果は、学術誌『Advanced Functional Materials』において2020年10月23日付で発表されている。
圧電とは機械的エネルギーが電気エネルギーに変換される現象のことだ。ある種の結晶体に圧力を加えると圧力に比例した電荷が生じる現象が起きる。圧電ナイロンに回路を追加すれば、その電荷を取り出してコンデンサに蓄え、例えば、携帯電話の電源として利用することができると考えられる。シャツとして着用できるような圧電服であれば、腕を振るといった単純な動きでもシャツの繊維に歪みが生じるので、電気を発生させることができるという。
このようなウェアラブルスマート繊維の需要は高まっているが、衣服に利用できる安価で入手しやすい繊維はまだ開発されていない。また、既存の圧電材料は、体の動きなどの機械的振動からエネルギーを得ることはできるものの、材料のほとんどはセラミックであり、有害な鉛を含むため、ウェアラブル電子機器や衣服への組み込みには課題が残っている。
これまでにも研究者たちはナイロンの圧電特性に注目していた。生のポリマー状態のナイロン粉末を溶かし、急速に冷却してから伸ばすという作業を行い、ナイロンを特定の結晶に還元して圧電性を持たせることに成功。しかし、この処理方法ではナイロンは分厚い板のような状態で成形されてしまうという。ウェアラブル電子機器として利用するには、ナイロンを衣服として編めるような糸状に延ばすか、薄いフィルム状に伸ばす必要がある。このプロセス開発に困難が伴い、1990年代に研究はストップしてしまっていた。
今回、バース大学のKamal Asadi教授らは、圧電ナイロン薄膜製造に全く新しいアプローチを取り入れることを思い付き、ナイロン粉末を溶かすのではなく酸の溶媒で分解させた。しかし、完成した薄膜内部には溶媒分子が閉じ込められてしまい、圧電相の形成を溶媒分子が妨げていることが判明した。そこで、溶媒の酸を除去すればナイロンを圧電材料に変えられると考え、研究を続行。偶然、酸溶液とアセトンを混ぜたところ、ナイロンを溶かした後に酸を効率よく抽出し、ナイロン膜を圧電相にすることができることを発見した。
アセトンは酸分子と非常に強く結合しているので、ナイロン溶液からアセトンを蒸発させると酸も一緒に取り除かれる。その結果、圧電結晶相のナイロンを作製することに成功した。
Asadi教授は、次のステップとして、ナイロンを糸にして衣服に使える布地にするプロセス開発に取り組んでいくと述べている。
圧電繊維の開発は、ウェアラブル電子機器分野で応用できる電子繊維の生産に向けた大きな一歩であり、近い将来、健康状態をモニターしたり、外部電源がなくても歩きながらデバイスを充電できたりするようなスマートウェアが誕生することが期待される。
(fabcross for エンジニアより転載)