MIT、材料の内部構造画像から応力とひずみを計算するAIツールを開発
2021/06/29 07:30
MITの研究チームが、材料の内部構造の幾何形状画像を用いて、材料中に発生する応力とひずみを推定するAIツールを開発した。敵対的生成ニューラルネットワーク(GAN:Generative Adversarial Neural Network)と呼ばれるマシンラーニング技術を活用して、材料の内部ミクロ構造とFEMによって計算される応力ひずみ場に関する、何千ものペア画像情報を学習させることによって、新たな幾何形状の内部構造を有する材料に外力を負荷したときの応力とひずみを予測させている。このツールを使うことで、建築家や技術者は物理理論に基づいた複雑な計算を行うことなく、迅速に設計プロセスを進めることが可能になる。研究成果は、2021年4月9日の『Science Advances』誌に論文公開されている。
自動車や航空機、橋梁や高層ビルにおいて、力学的負荷のもと材料の変形や破壊を招く応力やひずみなどは、ニュートン以来の物理理論に基づいた複雑な計算によって求められてきた。近年ではコンピュータの発達によって、例えば橋梁が激しい交通量や強風に耐えるかどうか、高精度に予測できるようになっている。だが、コンピュータによるシミュレーションを実行するにしても、何日も何週間も、場合によっては何カ月もかかることがあり、結果として膨大なコストがかかる。
研究チームは、このような課題をAIツールで解決することにチャレンジした。敵対的生成ニューラルネットワーク(GAN)を構築し、外力が負荷される材料の内部ミクロ構造および別途FEMで計算される実際の応力ひずみ場に関する、何千ものペア画像を反復学習させた。GANは、内部ミクロ構造から応力ひずみ場を予測する生成要素Generatorと、この予測結果を評価する識別要素Discriminatorの両方から構成され、最終的に両要素間にゲーム理論手法を適用することにより、高精度の予測モデルを構築した。
開発されたGANモデルを用いて様々な試行を行ったところ、優れた予測結果を得ることができ、特に様々な複合材料における軟質部分と硬質部分に関する内部ミクロ構造のクローズアップ画像から、高精度の応力値とひずみ値を得るのに成功した。更に、応力ひずみ場が微小な距離間で急激に変化する現象から、材料中に生成する亀裂のような“特異点”を捉えることもできた。
研究チームは、End to Endで応力値とひずみ値を予測できる開発GANモデルによって、専門技術者による試作品設計および材料試験に関する時間と費用を節約するだけでなく、「専門家以外の建築家や製品設計者が、自らのアイデアの実現可能性について、公式提案する前に検証することを可能にする」と考えている。更に、自動車や航空機産業で用いられる複合材料だけでなく、「マイクロ/ナノエレクトロニクス、天然や人工のバイオ材料、更には細胞の移動や分化まで、最先端の技術分野にも幅広く展開できる」と期待している。
(fabcross for エンジニアより転載)