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形状記憶セラミックス開発に向け、材料設計指針を検討

Zr系酸化物セラミックスにおいて、高温からの冷却過程で正方晶⇒単斜晶の相変態が生じるが、格子定数の適合性の違いによって、(a) 材料がバラバラになって粉化する場合、(b)形状が維持されたまま可逆的な相変態が実現する場合、のあることが確認された。(b)において点線は、相変態の境界を示す。/© Jascha Rohmer

ドイツのキール大学とアメリカのミネソタ大学の共同研究チームが、将来的に形状記憶セラミックスの開発に繋がる可能性のある、「可逆的なマルテンサイト変態」を発現する材料設計指針について基礎的な知見を明らかにした。Zr系酸化物セラミックスにおいて、成分系を調整することにより格子定数を制御し、正方晶⇔単斜晶の相変態の可逆性に対する影響を調べ、形状記憶性能発現に不可欠な可逆的なマルテンサイト変態を実現する条件を発見したものだ。基礎的な研究成果を、2021年11月17日に『Nature』誌に論文公開している。

Ti-Ni合金を中心とした形状記憶合金は、変形後に一定温度以上に加熱することによって、元の形状に回復する特性を持つ。これまで温度制御用アクチュエーターやパイプの継手、各種締め付け具などに幅広く活用されている。例えば医療用ステントは、血流が詰まった血管を非侵襲的に拡張するデバイスとして、活発な医療機器産業の先端的な商品になっている。

またセラミックス材料についても、形状記憶性能または形状回復性能を実現する研究も進められている。例えばガラスセラミックスにおけるガラス相や焼結セラミックスにおける粒界のように、高温域で他の部分よりも先に軟化する領域がある材料で、その軟質相の粘性変化により硬質相の弾性変形を拘束または開放することを通じて、ある程度の形状回復機能を発現することが知られている。

さらに、Ti-Ni合金の形状記憶性能発現の基本メカニズムである可逆的なマルテンサイト変態を、セラミックスにおいて利用する検討もなされているが、本質的にセラミックスは脆性材料であり、マルテンサイト変態による小さな歪みや数回の形状回復サイクルで容易に破壊してしまい、可逆的なマルテンサイト変態が実現しないという問題がある。

そこで研究チームは、Zr系酸化物セラミックス(Zr/Hf)O2(YNb)O4における正方晶⇔単斜晶の相変態について、成分系を調整して両方の相における格子定数の適合性を高めることにより、歪みヒステリシスを生じない可逆的なマルテンサイト変態を実現できないか、基礎的な検討を行った。

その結果、最も適合性(kinematic compatibility)が高くなると考えられていた条件では、可逆的なマルテンサイト変態が実現せず、逆に材料がバラバラになって粉化するか、場合によっては爆発的に破壊する現象が生じた。

一方で、等距離条件(equidistance condition)と称する格子定数条件の場合には、正方晶⇔単斜晶の相変態が容易に生じる可逆的な変態を確認した。この条件は普遍的に実現できるので、将来的に形状記憶セラミックスを創成する指針になると考えられる。「高温や高腐食性環境で作動する形状記憶アクチュエーターや、小さな温度差から発電することが可能な強誘電体セラミックスが開発できる」と、研究チームは期待する。

fabcross for エンジニアより転載)

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