スピントロニクスによる低消費電力トランジスタの開発——集積回路の高密度化に対応
2022/07/01 07:00
米ニューヨーク州立大学バッファロー校とネブラスカ大学リンカーン校の研究チームが、世界初の磁気電気トランジスタを完成させた。本トランジスタは、電力消費量を最大5%まで削減し、世界で増大し続けるデジタルメモリへの需要を満たすという。
本研究成果は2022年1月5日、「Advanced Materials」誌に掲載された。
集積回路は現在、シリコン原子25個程度の幅に近づいており、さらなる小型化になると動作時に発生する熱を十分に除去できなくなる。しかし、社会のスマート化により、デジタルメモリを構成する集積回路のさらなる高密度化への需要はますます高まっている。
そこで、スピントロニクスという、電子のスピンの上向き/下向きをデジタル情報に用いることで、省エネルギーで高速な電子デバイス技術が期待されている。また、炭素原子1個分の厚みのシート状物質であるグラフェンは、長距離にわたってスピンの向きを維持して伝えることができる材料として知られ、スピントロニクスのトランジスタへの応用が試みられている。しかし、グラフェン内の電子スピンの向きを制御することが非常に困難な課題であり、応用は進んでいなかった。
ネブラスカ大の研究チームは以前から、グラフェンの電子スピンを制御する下地となる酸化クロムを研究していた。酸化クロムは、一時的にわずかな電圧をかけるだけで、表面にある原子のスピンを上下反転させることができる。
正負の電圧により制御した酸化クロムのスピンの向きに対応し、グラフェンの電流の向きが異なる信号を得ることで、デジタル情報処理が可能となる。ニューヨーク州立大の研究チームは、ナノ半導体デバイスに関する研究で実績があり、両チームが共同研究することで、本研究成果が実現した。
グラフェンと同じく1原子厚からなり、磁気電気トランジスタに適した特性を持つ代替材料候補は数多く存在するという。さらなる特性の改良による実用化を目指し、酸化クロムの上にかぶせる代替材料の開発競争がすでに始まっている。
(fabcross for エンジニアより転載)