トラックの荷台に収まる新しい小型原子炉を開発——メルトダウンなど事故のリスクを低減、高価な元素の再利用も視野に
2022/12/20 07:00
米ブリガム・ヤング大学は、メルトダウンなどの事故のリスクを低減し、より安全にエネルギーを生産する新しい小型原子炉を設計した。
原子力発電所は、化石燃料を使用する発電所の8000倍もの電力を生み出し、環境にも優しいとされている。しかし、1986年のチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所事故などのように、事故が起きると深刻な悪影響を及ぼす。
アメリカなど世界で使われている標準的な原子炉は軽水炉だ。ウラン原子を分裂させて熱エネルギーを発生させた後に残る核分裂生成物のうち、放射性物質は崩壊して熱を放出する。核分裂生成物は燃料棒内に保持され、全体を十分に冷やすため、燃料棒がある原子炉圧力容器内に水を流すが、冷却水の流れが十分でなければ燃料棒は過熱し、原子炉全体がメルトダウンの危険にさらされる。
そこで研究者らは、より安全に原子力エネルギーを生産するための新しい小型溶融塩原子炉を設計した。この原子炉では、核分裂反応が起こる間と反応後に生成される放射性物質を全て溶融塩の中で溶解し貯蔵する。
放射能レベルが高い放射性廃棄物が非常に危険である理由は、廃棄物に含まれる放射性物質の中には、放射能レベルが十分に減衰するまでに極めて長い時間がかかる物質があるからだ。そして、それが放射性廃棄物の最終処分地を見つけることが困難な理由でもある。
しかし、塩は融点が550℃と非常に高く、塩の中で放射性元素の温度が塩の融点以下になるまでに長い時間はかからない。いったん塩が結晶化すれば、放出された熱は塩に吸収され、塩が再溶解することはない。つまり、発電所でメルトダウンが起きる危険性がなくなるのだ。
また、反応により生成される物質を塩の中に安全に封じ込められるため、他の場所に保管する必要もない。さらに、多くの生成物は高価な元素であり、塩から取り出して売却することもできる。例えば、モリブデン-99(Mo-99)は、核医学検査やスキャンに使われる非常に高価な元素だ。その他にも、コバルト60、金、プラチナ、ネオジムなど多くの元素を塩から取り出すことができ、結果として放射性廃棄物がなくなる可能性があるうえ、酸素と水素も取り出せることが分かっている。このようなプロセスを経て、塩を完全に放射性物質を含まない状態にして再利用することができる。
この溶融塩原子炉は小型という利点もある。典型的な原子力発電所は、放射線リスクを減らすために、約2.6平方キロメートルの面積の土地に建設される。炉心自体に必要な面積は約9.1×9.1mだ。それに対し、新しい溶融塩原子炉に必要な面積は約1.2×約2.1mで、メルトダウンの危険性がないため原子炉の周囲を取り囲む必要がない。
この原子炉は、アメリカの家庭1000軒分が必要とする電力を発電できる。さらに、原子炉を動かすために必要なものは長さ約12mのトラック荷台に全て収まるように設計されている。この原子炉があれば、非常に辺ぴな場所でも電気を使えるようにすることができるのだ。
原子力エネルギーは、正しい方法で扱えば極めて安全かつ安価なエネルギーとなり得る。溶融塩原子炉により安全、安価で小型化した原子炉を持つことができ、大きくて危険で悪いものだというイメージがある現在の原子炉の問題を解決できると、研究チームを率いたMatthew Memmott准教授は述べた。
(fabcross for エンジニアより転載)