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スキルミオンを利用し、従来の1000分の1の消費電力で動作するマイクロデバイス——持続可能な高性能ビットスイッチとして機能

Credit: A*STAR and NUS

商用メモリ技術に比べ消費電力が1000分の1という、革新的なマイクロエレクトロニクスデバイスが開発された。これは、将来の演算技術が、非常に少ないエネルギーでより高速にデータを処理できるようにする道を開くものだという。シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)がシンガポール国立大学(NUS)と共同で行なったこの研究は、2024年3月20日付で『Nature』に掲載された。

ChatGPTのような新しいAIテクノロジーは、大量のデータを超高速で処理する必要があり、莫大な演算能力が求められる。情報通信技術はすでに世界の電力の20%近くを消費しており、大規模AIモデルの成長により電力消費はさらに急増すると見込まれている。急速な需要増加に対応するため、演算の基本である記憶ビットはかなり小さなサイズまで縮小されているが、物理的限界に近づいてきている。

特にモビリティ、ヘルスケア、製造分野でこのエネルギー危機を緩和する有力なアプローチは、エッジコンピューティングだ。エッジコンピューティングでは、大量の電力を必要とする大規模データセンターではなく、携帯電話、スマート家電、自動車など個々のデバイス内でデータを処理する。しかし、演算能力不足と電力制限が原因で、エッジデバイスは複雑な演算タスクを実行できないという問題があった。

今回、研究チームは、持続可能で高性能なビットスイッチとして機能する可能性のある、マイクロエレクトロニクスデバイスを開発した。

このデバイスでは、極めて小さな高速の磁気渦である「スキルミオン(Skyrmion)」を利用して、ビットスイッチを形成した。

スキルミオンは1960年代に理論モデルが考案されていたが、21世紀になって初めて実際に観測された。極めて薄くした特定の磁性層の内部で発生し、超小型で極めて安定しており、磁性領域間を効率的に移動できる。このようなスキルミオンは、AI技術にとって効率的に大規模データ処理をするための理想的なスイッチを形成する。

スキルミオンの膨大な潜在能力を活用するには、コンピューターで採用されているような電気経路を使ってアクセスすることが重要だ。スキルミオンは特殊な顕微鏡で見ることができ、10年以上にわたって分厚くかさばる磁石を使って操作されてきたが、電気的制御ができないことが決定的な妨げとなり、技術的に適用できなかった。

今回、研究チームは、トンネル接合として知られるデバイスを採用し、スキルミオンを電気的に読み出して識別し、0と1のビット値を電気的に変更することを初めて実現した。トンネル接合は環境条件下で動作可能であり、商用メモリやハードディスクで広く使われている。

研究チームは、スキルミオンの特殊な特性により、市販デバイスの1000分の1の消費電力でビット値変更が可能であることを発見した。また、1つのデバイスで2つ以上の状態を実現できるため、性能向上のためにデバイスのサイズを縮小する必要がないことも分かった。

このデバイスは、世界中のマイクロエレクトロニクスファウンドリーで採用されている材料と方法を用いて、200mmシリコンウエハー上に製造される。研究チームは、エレクトロニクス産業に特化した企業や機関が相互に連携するエコシステムと協力して、既存のエッジコンピューティング技術との実用的な統合を加速したいとしている。

また、電気的性能をさらに向上させることで、強化された演算スイッチを既存の手法でマイクロプロセッサーへ組み込みできるようになることを期待しているという。

fabcross for エンジニアより転載)

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