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青山で新たな“軸”を体感——大型3Dプリントの表現を探る「SOKEI」プロジェクトの成果が展示中

大型3Dプリンターの造形表現を探索するプロジェクト「SOKEI」の展示が東京都港区青山の「Gallery 5610」で2024年10月20日まで開催中だ。主催の光伸プランニングは、サインやディスプレイの企画制作を行う企業。大型3Dプリンターを活用した空間演出にも取り組み、過去5年以上にわたりその特性と向き合ってきた。「SOKEI」は3Dプリンターを「複雑な立体を正確に出力する装置」ではなく、シンプルに「樹脂を任意に吐出する道具」と捉え直すことで、新たな造形表現を探索するプロジェクト。今回の展示ではこれまでの成果や製作中のプロトタイプを見ることができる。

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大型の熱溶解積層方式3Dプリンターは素材として糸状のフィラメントではなく、米粒大のプラスチックの塊であるペレットを用いることが多い。素材の選択肢が増え、材料の補充も容易になる一方で、サポート材のついた形状は造形しづらいといった欠点も抱えていた。光伸プランニングはこの欠点を真正面から克服するのでなく、太いノズルの利用や吐出量のコントロール、造形後の手仕上げや異素材との組み合わせといった新たな技法に着目し、その長所を伸ばすために社内で150種類を超えるスタディを行ってきたという。

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規則的に太さが変わり重なる線や、造形後にひねりを加えたもの、輪ゴムの束のように見えるもの……。精密なコントロールやランダム性に委ねて作られたものなど、約1年間のリサーチで発見された60点以上の出力スタディが「SOKEIプロジェクト フェーズ1」の成果として展示されている。一般的な3Dプリントからは想像できない形状が、透明度の高い素材と組み合わさり複雑な表情を見せ、鑑賞者の想像力を刺激してくれる。

5組の作家とコラボレーション

さらに「SOKEI」プロジェクトでは2025年秋ごろを目標として「フェーズ2」が進行中だ。「フェーズ1」のスタディをもとに、イラストレーターや建築家など5チームの作家とコラボレーションし、さまざまなジャンルで造形表現を深めていく。3Dプリントのプロである光伸プランニングと、技術への先入観を持たない作家らとの反応によって生まれつつある、可能性に満ちたプロトタイプも本展示の見どころだ。

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ここからは5組の作家たちの作品を紹介しよう。unpis氏は自身のイラストを3Dプリントで立体化することにチャレンジ。線同士の重なりが最小限となるような造形経路の調整や、後加工を前提とした形状での印刷といった工夫により、フラットな印象と立体感が共存するテストピースが生み出された。吐出量の調整によって、インクがにじんだような印象が生まれることにも発展の可能性を感じられる。

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東京を拠点に活動するデザイナーのSiin Siin氏はマテリアルを横断した実験を重ねている。石や金属板の上にプリントしてみたり、造形の途中で鏡を挟んで固定してみたり。樹脂の塊と金属を熱で組み合わせるなど、幅広いアイデアが綿密な記録とともに試行され、そのバリエーションを作家本人も楽しんでいるという。

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3Dプリンターユーザーであれば、DOMINO ARCHITECTSの作品を見て、どのように造形したのか疑問に思うだろう。重なりのない螺旋(らせん)形状は、長い円筒を回転させながら、その側面に樹脂をゆっくりと吐出することで実現したものだ。吐出量をそろえれば均等な、量を変えれば太さや厚さの異なる螺旋ができあがる。重力に負けて乱れた形状もまた、この技法でしかなしえない魅力を放っている。

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中村竜治建築設計事務所が制作したのは、ボリューム感のあるこちらの作品。3Dプリントによる積層の痕を美しく見せるため、大型造形でも印刷中にゆがむことがなく、最小の接点で丈夫に固定される形状を探索した。シンプルながら考え抜かれた形状は、椅子として利用できるほどの強度と、素材の質感が際立つ美しさを両立している。造形時に含まれてしまった気泡も、表現のアクセントとしてポジティブに捉えているという。

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最後に紹介するのは、DOMINO ARCHITECTSの大野友資氏とともに、「SOKEI」プロジェクト全体のディレクターも務める熊谷彰博氏の作品だ。3Dプリントした板や格子に熱をかけ箱や丸太に押し当てると、果物を包むネットや抜け殻を彷彿(ほうふつ)とさせる柔らかな形状へと変貌。キャンディの包装紙のようにねじるなど、3Dプリンターの常識からはかけ離れた発想が、遊び心ある作品群としてアウトプットされている。

フェーズ1におけるスタディの映像 フェーズ1におけるスタディの映像

3Dプリンターの造形技術は成熟してきたが、「正しく作る」ことにこだわる必要はないのかもしれない。さまざまな素材を扱い、プログラムによる制御やランダムな周辺環境、他のオブジェクトとの相互作用によって新たな形を生み出していく——そんな自由な表現の手段としての3Dプリンターの可能性を「SOKEI」プロジェクトは教えてくれる。整然としたXYZ軸だけにとらわれない、新たな表現の軸が詰まった作品たちを、ぜひ間近で鑑賞してほしい。

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イベント情報

展示名称:SOKEI プロジェクト / フェーズ1
会期:2024年10月16日(水)~10月20日(日)
時間:11:00~18:00 ※最終日は17:00まで
場所:Gallery 5610(東京都港区南青山5-6-10 5610 番館)
主催:光伸プランニング
イベントページURL:https://www.instagram.com/p/C_xhHWzB76b/

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