イベントレポート
富士通で見たリーンスタートアップなものづくりへのチャレンジ
2015年10月25日、東京・蒲田にある富士通ソリューションスクエアにて、地域貢献活動を目的としたイベント「くすのき祭」が開催された。
イベントではさまざまなショーや展示が催されたが、その中に同社の若手社員が中心となって開発しているプロダクトの展示があった。事業部横断で開発され、外部からのフィードバックを基に実用化に向けて進められているという取組みについて話を伺った。
屋内のスペースに展示されていたのは、彼らの手によって開発された、保育園向けの児童の健康管理システム「おばけかがみ」。「のってごらん」と表示された鏡の前にあるパネルの上に乗ると、顔の写真と一緒に、身長、体重、体温などのデータが記録される。
鏡にはアニメーションが表示される他、紙で作ったおもちゃが左右から出てくるなど、データを測定する際に子供を飽きさせない工夫も凝らされている。
記録されたデータはサーバに保存され、スマートフォンから確認できる。撮影した写真をアルバム形式で閲覧できる機能や、成長の記録をタイムラプス動画で確認できる機能もあるという。
おばけかがみを開発したチームの1人、富士通総研の佐々木哲也さんにお話を伺った。
「保育園の方から話を伺う機会があった際、毎日登園する園児の体調管理やデータ共有が保育園と保護者間で十分にできていないという課題がありました」
とはいえ、限られた予算で実現しないことには実際の普及はあり得ない。
「大きなディスプレイを使うにしてもデジタルサイネージを1枚買うなんて保育園の予算ではありあえないので、いかに低コストで導入できるかを工夫しました」
センサやカメラは市販品で構成し、アクリルの上にマジックミラーフィルムを張ることで、ハード部分の原価はディスプレイを除けば3万円程度まで抑えることができたそうだ。設計などの情報をすべてオープン化することで、保育園側でも季節にあわせてハロウィン仕様や夏休み仕様にカスタマイズできるようにしたいと考えている。
プロダクトを開発したFUJITSU UX CLUBは、富士通グループの社員が有志で集まり、さまざまな製品のプロトタイプを開発しているサークル。メンバー自らがフィールドワークを実施して、作りたいものや世の中が必要としているものの課題を抽出し製品開発を行っている。社内サークルとはいえ、活動内容は本格的だ。
おばけかがみの事業化は未定だが、既に複数の企業から共同開発や実証実験などのオファーが来ているそうで、特許も出願中。
「作ってはテストしてフィードバックを受けるの繰り返しで、事業計画書などのペーパーワークは一切やっていません。唯一のペーパーは回路図ぐらいです(笑) ビジネスプランを基にサービスや製品を考えて、その後にUX(ユーザーエクスペリエンス)を考えるのではなく、ユーザーにとって本当に新しい体験を考え、それがビジネスになるかどうかはいろんな人に使ってもらってから考えようという形で取り組んでいます」
素早く試作品を作って検証を繰り返すことで、必要としている人に必要とされるものを提示し、無駄の無いビジネスモデルを後付けで作るという試みは、大手企業の中では難しいアプローチである。だが、おばけかがみは事業ではないところから開発を始めたことで、リーンスタートアップなものづくりが実現できているようだ。
来年のくすのき祭ではおばけかがみ以外にも、社会課題を解決するさまざまなプロダクトが展示されているかもしれない。開発者とも直に話ができるので、興味のある方は来年秋に是非蒲田まで足を運んでほしい。