イベントレポート
世の中の偏差値を下げろ!「頭の悪いメカ発表会」
日進月歩で進化していくテクノロジー。発展のスピードが加速していく一方で、その波に乗れず、こぼれ落ちてしまう人たちもいる。技術をまっとうに使うことができない悲しい性質を持った彼らは、「頭の悪い工作」に全力を注ぎ始めた。インターネットを舞台に活躍してきた猛者たちが、現実世界で一同に会したイベントの様子をお届けしよう。
2016年6月25日、fabcrossとデイリーポータルZが主催するイベント「頭の悪いメカ発表会」が、お台場のイベントスペース「東京カルチャーカルチャー」で開催された。頭の悪い役に立たないマシンを作るメンバーが集まり、お互いの活動を発表し合うという、生産性のないイベントだ。「頭の悪い」と言いつつも、チケットは完売し、開演前から列ができるという異様な盛り上がりを見せていた。日本はこれから大丈夫なのだろうか。
さて、今回の登壇者は「バカ工作界のアベンジャーズ」とも呼ばれる、以下の面々。
- 司会:越智岳人(fabcrossウェブマスター)
- 石川大樹(ヘボコン主催・デイリーポータルZ編集)
- 爲房新太朗(デイリーポータルZライター)
- てらおか現象(マンガ家、fabcrossライター)
- 藤原麻里菜(Youtuber)
- マンスーン(ハイエナズクラブ、オモコロ等ライター)
- 森翔太(パフォーマー、映像作家)
まずは自己紹介がてら、それぞれが今までに作ってきた作品が紹介された。
石川大樹(ヘボコン主催・デイリーポータルZ編集)
トップバッターは、技術力の低い人のためのロボットコンテスト「ヘボコン」を主催し、世界中に旋風を巻き起こしている石川大樹さん。ヘボ界のパイオニアである石川さんは、このイベントを企画した一人でもある。
何の価値もない、頭の悪いものを作っている人がこんなにいる。そんな社会の足かせになるような人間を、埋め立て地(会場はお台場の埋め立て地にある)に集めておいたという社会貢献イベントです
そうイベントの趣旨を説明した後、代表作の一つである醤油かけすぎ機の実演に移る。
これは醤油をかけ過ぎるためのデバイス。最近はリモコンで遠隔からもかけ過ぎることができるようになりました
デバイスっていう響きがかっこいい
電気が通っていれば、まぁデバイスですよね
これなんかは人間の仕事を機械が奪ったという例です
いらな~い!
「いらなさ」という新しい評価軸が生まれる中、
- 「Windowsマシンにつなぐと、電卓アプリが起動する(だけの)電卓」
- 「めんつゆを醤油に入れ替える装置」
- 「リステリンに砂糖を入れて無効にする装置」
など、その後も本気で意味のない装置が山ほど現れ、トップバッターにふさわしい無駄さを披露した。
爲房新太朗(デイリーポータルZライター)
続いては、デイリーポータルZで工作系の記事を書いている爲房さん。代表作である「黒ひげを危機一髪から救ってみた」をひっさげて登場した。
飛び出したらかわいそうだなーと思って、危機一髪から救ってみました
剣が刺さって飛び出した黒ひげを、優しくスポンジがキャッチ。何度も見ていたい光景だ。
他にも、Facebookで勝手に友達申請を送るマシンや、「いっせーのせ!」で指を上げて数を当てるゲームの相手してくれるロボットなど、高性能だが哀愁を帯びた作品が続く。
いっせーのせ!ロボットとは50戦して大敗しました。AIが人間を超えたという意味では、ほとんどAlphaGoと同じレベルのものができたと言えます
てらおか現象(マンガ家、fabcrossライター)
3番手は、fabcrossでもおなじみのてらおか現象さん。機構設計/3Dプリンタとマンガの重なる新しい領域を見つけ、「プリンをぷるぷるさせるマシン」や「自転する回転ずし」などをWebマンガ形式で発表してきた。
近作「機械要素になるお菓子を探す!」では、なじみのお菓子で機構を作ることにチャレンジ。前職の、過酷なおもちゃ設計会社に勤めていた頃からのアイディアだったという。
記事を公開すると、読者から「このお菓子も機械になる!」という声が届き、現在次回作に向けて準備を進めている最中とのことだ。
そして、本編とは全く関係ないながらも、ライフワークとして紹介されたのが、「ラッセンの絵からイルカを消す」作品集。無駄の極みともいえるやたら高いクオリティに、会場は今日一番の盛り上がりを見せた。
藤原麻里菜(Youtuber)
紅一点のプレゼンター、Youtuberの藤原麻里菜さんは「無駄づくり」というYoutubeチャンネルを3年間にわたり運営しており、そこで作った作品の数は180を超えるという。
なんでこんなに作ってるんだろう?と考えたんですけど、結論は『さみしい』から。さみしさを紛らわすために作っているだけで、ゴミを溜め込んじゃうおじさんと一緒なんですよね
超わかります。すごいシンパシーを感じる
さみしさを紛らわすべく作った「一人で「だ〜れだ?」ができるマシン」や「勝手におっぱいが大きくなるマシン」に続いて紹介されたのは、パピコを一人で食べるためのマウント。
パピコって、誰か一緒に食べる人がいる前提で作られているじゃないですか。それが容認されているこの社会が本当に許せなくて
3Dプリント製のこの哀しいマウントは、現在販売に向けて準備中だという。これで笑顔になる人が増えるとよいが果たして。
マンスーン(ハイエナズクラブ、オモコロ等ライター)
オモコロやハイエナズクラブで活躍するマンスーンさん。かわいらしいからあげクンロボから、ここには載せられない下ネタド直球まで作品の幅が広い。
かわいいキャラを見たら、画面を舐めたくなるじゃないですか。でも実際に舐めると画面は汚いので、なんとか安全にペロペロできないかと思って作ったのがこちらです
ボタンを押すと画面のキャラクターをペロペロしてくれるこのマシンは、海外メディアで大反響を呼び、以下のように取り上げられたそうだ。
気持ち悪い。でもフェティッシュを包み隠さず、知識と技術を惜しみなく最新テクノロジーに応用した堂々たるマンスーンさんの姿は「賞賛に値するはずだ」
いつの時代も日本は革新的な技術で我々の先を言っている。
これらのプロダクトが実売されていないことが「残念」。
もうKickstarterで売るしかないですね
森翔太(パフォーマー、映像作家)
トリを務める森翔太さんが紹介したのは、文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品にもなった「仕込みiPhone」。
いくらiPhoneが最先端ですばらしくても、通話に出る速度が遅かったら意味がないじゃないですか。モタモタしてたらだめなんです、僕を見ていてください
登壇者や会場からのコールに合わせて秒速で反応する森さん。見事なiPhoneさばきだ。本革製やiPad対応型など、さまざまな派生系も紹介されたが、すべてアナログな仕組みで動くものであった。
電気を使わないスタンスでいたら、映像の編集ばっかりうまくなりました