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fabなび

FUSE(静岡県浜松市)

日本全国のfabスペースを紹介する「fabなび」。今回紹介するのは静岡県浜松市、JR浜松駅から徒歩5分ほどの場所にある「FUSE(フューズ)」だ。

FUSEを運営するのは「浜松いわた信用金庫」。浜松市と連携しながら、事業主として駅近くの複合商業施設(ザザシティ浜松中央館)の地下フロアを丸ごと借り上げ、2000平米ほどの大規模なスペースを活用して2020年6月にプレオープンした。1年ほどの無料期間を経て、2021年7月からは会費制での運営に切り替わっている。

地下にFUSEが入居するザザシティ浜松中央館。 地下にFUSEが入居するザザシティ浜松中央館。
エントランスをくぐると奥行きのある開放的なラウンジが広がっている。 エントランスをくぐると奥行きのある開放的なラウンジが広がっている。

金融機関が主体となって運営するシェアスペースは国内でも珍しい。その狙いは創業支援や新規事業開発を通じた地域の活性化にあると語るのは、浜松いわた信用金庫ソリューション支援部の神村明洋さんだ。

「浜松は輸送機器を中心に第二次産業が栄えてきた地域ですが、電動化や自動化による産業構造の変化は、我々の取引先にも影響を与えています。今後10年20年といったスパンで考えたときに、新たに上場できるような企業を生み、育てていきたいという思いがありました」(神村さん)

公式サイトで「Co-startup Space & Community Space」と紹介されるFUSEは、交流や勉強会が盛んなコワーキングスペースとしての利用をメインとして、その中にファブ機材を使える区画があるという構成だ。過去10年にわたって浜松の大学でプロダクトデザインを教え、今ではFUSEのアドバイザーとして関わる谷川憲司さんは、創業支援施設にファブ機材を導入した理由をこう語る。

「ベースにあるのは信用金庫の職員がシリコンバレー視察で学んだデザイン思考の考え方です。ユーザーに着目してコンセプトを考え、評価を受けながら修正していく過程では、具体的なプロトタイプが必要になります。さらに浜松はものづくりの街ですから、利用者層を考えてもファブ機材の利用は欠かせないものだろうと想定していました」(谷川さん)

左から金原聖子さん(浜松いわた信用金庫ソリューション支援部)、谷川憲司さん、神村明洋さん。 左から金原聖子さん(浜松いわた信用金庫ソリューション支援部)、谷川憲司さん、神村明洋さん。
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Fab Spaceと名付けられたエリアには、地元企業であるローランドディー.ジー.のUVプリンターや大型ミリングマシンを筆頭に、3Dプリンターや木工用CNCのShopbotまで一通りの機材が揃う。プレオープン以降、新型コロナウイルスの感染状況に即して慎重に運用してきたが、現在では常連のように機材を使う個人会員も増えてきたという。

取材時にFab Spaceを利用していた大原久史さんは、ほぼ毎日通うヘビーユーザー。2021年4月にメーカーを退職して起業したのち、現在はFUSEを拠点に食用コオロギの自動飼育装置を開発している。「自宅でものづくりをするスペースが足りず困っていた時にこの場所を知りました。浜松いわた信用金庫の方に相談すると、個人では門前払いされてしまうような相手にも繋いでもらえるので助かっています」と語り、設備面とビジネス面の両方でFUSEの環境をフル活用している様子がうかがえた。

開発中の飼育装置の制御部。レーザーカッター製のコオロギマークは、大原さんのラフなスケッチ(本人曰く「落書き」)をスタッフと清書してデータ化したもの。 開発中の飼育装置の制御部。レーザーカッター製のコオロギマークは、大原さんのラフなスケッチ(本人曰く「落書き」)をスタッフと清書してデータ化したもの。
写真提供:坂田吉章 写真提供:坂田吉章
作家の坂田吉章さんは3Dプリンターで張子の原型を印刷し、オリジナルブランド「遠州天狗張子」の制作に活用している。(写真提供:坂田吉章) 作家の坂田吉章さんは3Dプリンターで張子の原型を印刷し、オリジナルブランド「遠州天狗張子」の制作に活用している。(写真提供:坂田吉章)
利用率の高いレーザーカッターとUVプリンターで作られたサンプル品。個人ブランドのアクセサリーやノベルティ制作によく活用されるとのこと。 利用率の高いレーザーカッターとUVプリンターで作られたサンプル品。個人ブランドのアクセサリーやノベルティ制作によく活用されるとのこと。

地元らしいベンチャー企業や個人作家によるファブ機材の利用が増えているが、それでも全体の利用者に対するFab Spaceユーザーの比率は1割程度だという。これは、FUSEがものづくり以外の機能を多く持ち合わせていることの裏返しと言える。

数十人が余裕を持って入れる大きなイベントスペースでは週に2〜3件のペースで創業やビジネスに関するセミナーが行われており、毎回多くの参加者が集まる。企業の新規開発部門がわざわざFUSEに出向いて会議をしたり、一般の方を対象にした新商品のモニターテストを行ったりと、駅から近い商業施設のワンフロアという好立地が最大限に活用されているのだ。

FUSEの全体図CG。イベントスペースや個別の会議室に加え、飲食店レベルのグレードのキッチンや、ダンススタジオのような広い空間も利用できる。(提供:FUSE) FUSEの全体図CG。イベントスペースや個別の会議室に加え、飲食店レベルのグレードのキッチンや、ダンススタジオのような広い空間も利用できる。(提供:FUSE)

企業家や経営者、新規事業開発チーム、企業内起業家や第二創業者など、事業を立ち上げようとする様々な人々に利用されているFUSE。ロケーションの良さや信用金庫が運営している珍しさもあり、緊急事態宣言が明けた今、各地から自治体職員など多くの見学者が足を運んでくるという。最後に、次に目指していることについて伺った。

「信用金庫としてはコロナ関連の融資がひと段落し、需要が落ち着いている状況で、経営者からは次に何をすれば良いかわからないという声も聞こえてきます。そういった方々にFUSEに来ていただき、何かのヒントを掴んでいただきたい。信用金庫としてできることはお金の融通だけではないので、成長支援をするための場所としてのFUSEを金庫全体としてアピールしていきたいです」(神村さん)

「FUSE」は「導火線」や「融合」という意味を持つ英単語。神村さんいわく「運命共同体」である信用金庫と地元産業、あるいは利用者同士の繋がりによって、新たな試みが着火する場所として機能し始めている。ファブ機材をひとつのツールとして扱いながら、信用金庫ならではの手厚いサポートによって、浜松から勢いのある企業が生まれてくる予感に満ちた場所だった。

概要

所在地 〒430-0933 静岡県浜松市中区鍛冶町100-1 ザザシティ浜松中央館 B1F
営業時間 月〜金:9:00〜21:00、土曜日:9:00〜17:00
定休日:日曜、祝日
URL https://hamamatsu-iwata.jp/business/sogyo/fusehamamatsu/
料金 以下のメンバーシップ料金でFab Spaceを含む全ての設備を利用可能。
機材の利用については事前にトレーニングが必要。
・一般会員:1万1000円/月
・法人会員(1法人あたり3名まで):3万3000円/月
・学生会員:2200円/月

 

機材

3Dプリンター:「Raise3D Pro2 Plus」 3Dプリンター:「Raise3D Pro2 Plus」
3Dプリンター:「Formlabs Form 3」 3Dプリンター:「Formlabs Form 3」
大判インクジェットプリンター:「EPSON SC-P6050」 大判インクジェットプリンター:「EPSON SC-P6050」
木材用CNCミリングマシン:「ShopBot」 木材用CNCミリングマシン:「ShopBot」
ミリングマシン:「Roland MODELA PROⅡ MDX-540」 ミリングマシン:「Roland MODELA PROⅡ MDX-540」
レーザーカッター:「trotec Speedy 300」 レーザーカッター:「trotec Speedy 300」
UVプリンター:「Roland VersaUV LEF2-200」 UVプリンター:「Roland VersaUV LEF2-200」
カッティングマシン:「Roland CAMM-1 GS-24」 カッティングマシン:「Roland CAMM-1 GS-24」
木材加工用スペース 木材加工用スペース

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