fabなび
even|巨大アート制作から日曜大工までカバーする、仙台のものづくり交差点(宮城県仙台市)
日本全国のfabスペースを紹介するfabなび。今回紹介するのは宮城県仙台市にあるeven(イーブン)だ。中心街の商業施設内にありながら、大型のCNCも利用できる全国でも珍しいfabスペースを取材した。
運営元は仙台のアートシーンを支えるギャラリー
仙台市青葉区一番町の商業施設「仙台フォーラス」の7階にevenはある。運営するのは仙台市内で現代美術ギャラリーや美術教室、カフェなどを営む関本欣哉さんだ。
宮城県内には美術大学がなく、若者がアートを学んだり制作したりする環境が不足していると感じた関本さんは、建築業界から転身。2010年にギャラリー「TURNAROUND」(ターンアラウンド)をオープンした。以降、カフェや美術を学べる私塾の開設など、仙台のアートコミュニティづくりに携わってきた。
アートにまつわる事業を多数手掛ける中で、アーティスト向けのシェア工房「スタジオ開墾」を2019年に立ち上げた。倉庫を改装した広いスペースで、大型の作品制作にも対応するなど、現代アートの作家にとって利便性の高い施設として、地元のアーティストやデザイナーが利用していた。しかし、建物の耐震性の問題から移転を余儀なくされてしまう。
その際、仙台フォーラスから移転の提案を受け、2021年から現在の場所で運営を再開した。その際に施設名を「even」と改めた。
「仙台フォーラスはアパレルの店舗が多く入居する商業施設ですが、ファッションにこだわらずに若者に新しいライフスタイルを提供し続けたいという思いがあり、文化/芸術を通じてライフスタイルを提案できる場所を作りませんか、というお話をフォーラス側から頂き、移転を決意しました」
ファッション以外の情報発信を模索していたフォーラスと、移転を検討していた関本さんの思惑が一致し、「ファッションではなく、アクションのブランド」というコンセプトとして再スタートを切った。
アートから日曜大工まで対応する「道具の図書館」
現在は約200坪のスペースに工房やギャラリー、配信スタジオ、地元作家の作品販売コーナー、アートスクールなどを併設する。工房の特徴としては、木材用大型CNC機「ShopBot」が利用できる点が第一に挙げられる。evenではデジタルファブリケーションに強いスタッフも在籍しているので、初心者でも気兼ねなく相談できるのは利用者にとって心強い。木材を持ち込んでShopBotでの加工や、レーザーカッターや3Dプリント用のデータ作成の相談に訪れる利用者も多いという。
また、ギャラリー運営と並行してアートイベントの企画/実施に携わってきた経緯から、音響機材や会場設営用の工具や備品、ワークショップ用の工作道具まで約600点のアイテムを取りそろえる。関本さん自身も、週末はイベント機材の貸出先で現場設営や音響/映像機器のオペレーションをサポートする。
「もともと、実家の家業が建築業だったこともあり、床材をはがす機械や発電機もあります。グルーガンやカッターマットも数十単位でストックしていますので、ワークショップを主催する方にまとめてレンタルすることもあります」(関本さん)
evenに相談に来るのはアーティストやイベント主催者にとどまらない。家具の補修など日曜大工やDIY用途で訪れる人も多いという。
「インパクトドライバーや脚立、切りばさみを借りたいという相談もあります。マンションに住んでいて、1年に1回程度使う道具を保管する場所がなくて困っているという方も多いので、この場所を『道具の図書館』として利用して、自分で気軽に直せるようにできたらと思い、自分たちの道具を貸し出ししています」(関本さん)
レンタル費用は道具によって変わるがおおむね数百円以内と良心的な価格設定だ。その理由はevenという施設名にもつながる。
「evenという施設名には、英語の対等(even)という意味だけでなく、日本語の異文や異聞が由来にもなっています。つまり、アーティストやエンジニアから一般の方に至るまで、幅広い層の人々が集まり、ここでいろんな人の意見を聞いたり、物事を新しく知ったりする場所でありたいという思いを込めています」(関本さん)
道具や環境がそろっていないために諦めるぐらいなら、自分たちの道具を解放するのでものづくりにチャレンジしてほしいと関本さんは考える。その根底には自分や社会の課題をアートで解決するという、現代美術の文脈が息づいているという。
対等な関係で、さまざまな人が関わり合う空間を目指す
仙台市の中心街にありながら、大型のアート作品制作まで対応するevenだが、2024年2月末をもって移転する予定がある。というのは、仙台フォーラスが長期間の全館改装工事を行うからだ。工事期間中は仮店舗での営業となるが、evenのスタンスは変わらない。
「私は現代美術が中心ですが、ほかのジャンルのアーティストやクリエイター、一般の方が同じ空間で対等にものを作っている雰囲気が好きです。さまざまな人が自分の表現を生み出すためのメディアとして、evenが利用できるよう、今後も開かれた場所として運営していきたいと思います」(関本さん)
概要
所在地 | 宮城県仙台市青葉区一番町3丁目11-15 仙台フォーラス7F |
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営業時間 | 10:00〜20:00 ※定休日要確認 |
URL | https://www.even-sendai.com/ |
料金 | 年会費 5000円(個人)、3万円(法人) 機材を利用する際は会費とは別に利用料が発生 |
機材
※このほかにも約600点近い機材/工具が利用可能。詳細はevenまで直接お問い合わせください。