fabなび
analog|印刷と製本のプロが運営する、自由でクリエイティブな工房(宮城県仙台市)
日本全国のfabスペースを紹介するfabなび。今回紹介するのは宮城県仙台市にある「analog」(アナログ)だ。
工業団地内の一角にある秘密基地のような建物——。小さな扉をくぐると、プロフェッショナルな機材と気さくなオーナーが出迎えてくれる。
活版にシルクスクリーン、版画印刷から特殊製本までカバー
仙台市地下鉄東西線六丁の目駅から5分程度歩くと、印刷工場が集まる工場団地エリアがある。analogがオープンしたのは2016年。製本業の菊信紙工所の一角を改装したスペースは、周囲の工場とは異なる雰囲気だ。施設の中に入ると、analogの機材で印刷した作品が展示されていて、奥にはカウンターテーブルがある。ギャラリーのようなスペースの奥へと進むと工房があり、使い込まれた機材が並ぶ。
「印刷で困った事があればanalogへ」は、仙台市内のfabスペース運営者の合い言葉だ。
施設内にはシルクスクリーン印刷、箔押しや活版印刷など一般的なfabスペースにはない機材が充実している。1100×800mmまで対応できるレーザーカッターも利用でき、本業である製本も依頼できるとあって、特殊な印刷物を作りたい利用者からの相談もあるという。
オーナーの菊地充洋さんは、菊信紙工所の取締役。曾祖父の代から続く製本業を実兄と受け継ぐ傍ら、新規事業として立ち上げたのがanalogだ。
analogが最も力を注いでいるのがシルクスクリーン印刷。プロの版画アーティストの印刷にも対応し、海外からの依頼にも対応するなど高い技術力で創作活動をサポートしている。利用者の中心は版画印刷や手製本、プレゼンテーション用のサンプル制作で利用するプロユースが中心で、大半がリピーターだという。版画の面白さを若い世代にも広めたいと語る菊地さんは、訪れる人へ惜しみなくノウハウを提供している。アナログな印刷技術に対する高い専門性と気さくな菊地さんの人柄が、市内のfabスペース運営者らからも信頼を集める理由だろう。
音楽活動からシルクスクリーン印刷を経て、工房を立ち上げる
菊地さんは家業を手伝う傍ら、30歳までハードコアパンクバンドの活動に勤しんだ。ライブツアーで海外に遠征し、地元の音楽仲間の家に泊まった際、バンドTシャツを手作りする際に使用していたシルクスクリーン印刷に興味を持つ。
「ハードコアパンクはDIYカルチャーが根付いていて、なるべく自分で何でもやる発想です。自分の手の届く範囲でTシャツやポスターを作っている海外の仲間を見て、自分でもやりたいと思い立ったのが20代の中ごろでした」(菊地さん)
帰国後、中国のネット通販からシルクスクリーン印刷に必要な機材を取り寄せ、倉庫の一角でシルクスクリーン印刷の研究を始めた。家業が製本だったこともあり印刷は身近なものだったが、大量製造を前提とした印刷機器はオーソドックスな規格の出版物しか対応できず、個性的な商品を製造できない。インターネットの台頭と共に出版業界も足踏みする中で、製本業に危機感を抱いていた菊地さんにとって、手触り感のあるシルクスクリーン印刷は魅力的だった。
当初は自分のバンドのTシャツ製作と並行して、友人のバンドからのノベルティ製作依頼も請け負った。その当時、シルクスクリーンによるTシャツ印刷が珍しかったこともあり、受注は徐々に増え、音楽以外のクリエイターにも認知されるようになった。転機となったのは2010年ごろ。シルクスクリーン印刷も扱う製本工場の存在を聞きつけた仙台のクリエイターが、菊地さんのもとを訪れる。
東北大学の社会人ゼミの課題制作として、ユニークなデザインの書籍を作りたいという相談に対して、菊地さんは本を開く向きでページの内容が変わる仕掛けを提案。製本業だからこそ知るトリッキーな仕掛けはSNSで話題を呼び、配布用の冊子は瞬く間に配りきった。
これがきっかけとなり、菊地さんは東北大学と仙台市による教育プログラムに参画。5年10期にわたって、クリエイティブな制作をサポートした。家業の製本工場は研究室の外部ラボとして機能するようになり、自然と受講生とのネットワークも広がった。特殊印刷/加工に対する潜在的な需要を感じた菊地さんは、一般層に開かれたラボを作りたいと一念発起。仙台市のバックアップも受けて、家業である工場の一角を改装しanalogをオープンさせた。
その後、仙台市内のfabスペース運営者との交流もあり、工業団地の中に尖った工房があるといううわさを聞きつけたクリエイターが頼る工房として知られるようになった。
日本とタイの版画シーンが交流するスペースへ
菊地さんは現在、タイの版画アーティストや版画スタジオとのコラボレーションを進めている。
「仙台でのトークイベントで知り合ったアーティストとの縁で、タイに渡航した際に地元の版画スタジオと仲良くなり、それが縁で両国間の職人やアーティストとの交流を深めています。次の世代に向けて版画芸術を認知してもらうべく、新しい取り組みも進めています。例えばNFT証明付きの版画作品を企画してみたり、新しいことへのチャレンジは常に続けています」
現在では東北だけでなく、日本全国からの版画作家の印刷にも対応する。その一方で、地元のアーティストやクリエイターの相談にも乗り、仙台市内のfabスペースとも連携している。東北在住に限らず、こだわった印刷物を作りたい場合には、analogの扉を叩いてみてはいかがだろうか。
概要
所在地 | 宮城県仙台市若林区六丁の目西町2-26 |
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営業時間 | 10:00〜19:00 ※土日定休 |
URL | https://www.analogpress.net/ |
料金 | 2時間3960円 ※機器ごとに有料の初回講習(2時間5500円)の受講が必須。 ※シルクスクリーン印刷のみ、初心者向けの体験講習あり(30分2970円より) |