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ジモトをつくる

みんなで一緒につくる——ネクストメイカーたちによるコ・デザイン #ジモトをつくる

オンラインメイカソンの様子

日本各地のMakerコミュニティの今を、その地域に住むMakerがレポートする連載企画「ジモトをつくる」。第4回は東京都品川区です。品川駅周辺は大手企業の本社が集積するビジネス街ですが、西側はローカルな商店街や住宅街があります。その品川の西側にある中延駅近くにあるファブラボ品川は作業療法士のいるファブラボとして知られています。

今回はファブラボ品川が2021年に開催したメイカソンをレポートします。東京にありながらローカルかつターゲットを絞ったメイカースペース運営に秘められた思いについても執筆いただきました(編集担当:越智岳人)

2021年2月27日、1カ月以上にわたってオンラインで開催した「インクルーシブメイカソン(後述)」が幕を閉じた。ここでは、ここ数年私たちのコミュニティで進めてきた各地に広がる活動を紹介したい。

本稿をものしている2021年は、2011年の東日本大震災からちょうど10年目に当たる。個々人がさまざまな出来事を日々振り返り続けることの意味に勝るものはないだろうが、社会におけるひとつの節目であることは確かだ。2000年代の胎動を経て、デジタルファブリケーションによるものづくりの民主化が叫ばれ始め、国内で初めてのファブラボが鎌倉とつくばに誕生したのは2011年5月である。

2010年代はデジタルファブリケーション機材による急激な限界コストの低下により、文字通り「ものづくりの民主化」が社会のさまざまな場所で進んだ。それはファブスペースの増加やハードウェアスタートアップ企業の台頭といった形で表れている。当然、うまくいったものもあれば、そうでもないものもあり、改めてその総括を求められる時期にある。2020年代を迎えるに当たって TechShop は閉店し、ここにきて DMM.makeはコロナ禍での社会情勢の変化に対応したと思われる業態変換を発表した。しかし、これらは一概にメイカー文化の終焉と捉えるべきではなく、ありようが変わりつつあるのだと思う。ここ数年、デザインの職種でない人々を多く仲間として活動してきたが、一過性のブームではない、地に足のついた活動は目立たないながらもじわじわと広がっている。彼らの活動はオープンソースを手段とし、一緒に作ることが特徴だ。そうした人々を筆者らは「ネクストメイカー」と位置付け、活動を支援すべく伴走している。

「作業療法士がいるファブラボ」

私たちが運営するファブラボ品川は2018年4月、ディレクターに作業療法士を迎え、「作業療法士のいるファブラボ」として世界にも類をみない試みをスタートさせた(スペースの立ち上げは2014年11月にさかのぼる)。ここ数年にわたって、自助具と呼ばれる、困難を抱えた人々が持つ個別の課題を解決するための道具作りを続け、同時に「つくる人をつくり、つくる場をつくる」活動を続けている。その中心にあるのが廉価版 3D プリンターの活用である。3D プリンターは 2014年前後のブーム時から比べると機器、素材とも格段の進歩を遂げ、まさしく「道具をつくるための道具」として信頼に足るものとなった。かつて 3D プリンターユーザーといえば 、3D プリントしたい人よりも3D プリンターそのものをいじりたい人の方が多かったことを思えば隔世の感がある。さて、3D プリンターが叶えてくれる重要なことのひとつは、大量生産を前提とした工業化社会では叶えられない「一人一人に合わせた」「一つからの」ものづくりである。そのため、3D モデリング、素材であるフィラメントの活用、デザインを生み出すためのアイデアの醸成などに関して多くのワークショップを開催してきた。それらは、必要なものを自分自身の手でつくり出すことができることを実感してもらうための試みである。

ファブラボ品川 ファブラボ品川
ファブラボ品川で作製している自助具 ファブラボ品川で作製している自助具
ファブラボ品川の自助具3Dデータ共有プラットフォーム

困難を創造力に:「インクルーシブメイカソン」へ

私たちはそうした「ものづくりの民主化」をより実感できる場として、2018年秋から「Make-a-thon(メイカソン)」を開催してきた。「メイカソン」は、「メイク」と「マラソン」を掛け合わせた造語であり、テック業界でよく行われている「ハッカソン」の類語で、あらゆる人々を対象としてチームでのものづくりに取り組む場である。「その困難を創造力に」を合言葉に、一般社団法人ICTリハビリテーション研究会、ファブラボ品川などが中心となって数カ月に1回、全国各地から参加者を集め、開催を続けてきた。

<2020 TOM メイカソン TOKYO>への道のり

2018年9月 #1 ミニメイカソン(会場:おおたFab)
2018年12月 #2 ミニメイカソン(会場:おおたFab)
2019年3月 #3 ミニメイカソン(会場:ファブラボ関内)
2019年6月 #4 ミニメイカソン(会場:世田谷ものづくり学校・ファブラボ世田谷)
2019年9月 #5 2Days メイカソン(会場:Good Job! Center KASHIBA)
2019年10月 #6 ミニメイカソン(会場:SHIP 品川産業支援交流施設)
2019年12月 #7 ミニメイカソン(会場:東京工科大学)
2020年1月 ミニメイカソン(会場:会津大学)

私たちのメイカソンは、もともとイスラエルのNPO団体、Tikkun Olam Makers(TOM)が2014年頃から展開してきたものを範として、回を重ねながら独自のものにアレンジしてきた。特徴として、障害を持っていたり困難を抱えたりしている人々を「ニードノウア(need knower:ユーザーとして必要な要件を知る人)」という位置付けでチームのメンバーに迎え、そのニードを満たすためのものづくりに取り組む、ということがある。参加者は多様で、ニードノウアの支援者やセラピストはもちろんのこと、デザイナー、エンジニア、経営者、学生など職種や立場の多様さに加え、年代も多岐にわたり、対等な関係性でプロジェクトを進める。プロジェクトはその過程も含め、成果はすべて「『ものづくり』と『ものがたり』の統合プラットフォーム」であるFabble にオープンソースプロジェクトとして公開されていく。このイベントはリピーターの参加者が多いことが特徴で、そういった人々がそれぞれの地域の中心となって活動の輪が広がることを意図している。

メイカソンの様子、Good Job! Center KASHIBA メイカソンの様子、Good Job! Center KASHIBA

ここ数年、活動の目標としてきたのは、2020年5月に3日間にわたって開催する予定だった「2020 TOM メイカソン TOKYO」であった。開催に先立ち、実行委員会を組織した。委員には、それまでのメイカソンにニードノウアとして参加したのち、自分でもデジタルファブリケーションでのものづくりに取り組み始めたメンバーも名を連ね、文字通りインクルーシブな場になるよう計らった。資金の大半はクラウドファンディングで調達しており、ご支援いただいた皆様にはこの場を借りて改めて御礼申し上げたい。

準備は順調に整いつつあったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会情勢の変化により、たくさんの参加者が1カ所に集まるオンサイトでの開催は断念せざるを得ず、いったん延期する判断をした。幸い、従前からワークショップ、セミナー、定期的な成果報告会など、オンラインでの取り組みを進めてきており、オンラインでイベントを開催する目処はついていた。予定より少し遅れることになったが、2021年1月中旬から2月末にかけて、「インクルーシブメイカソン」をオンライン開催する運びとなった。「インクルーシブ」とは、「包み込むような/包摂する」を意味する言葉であり、「ソーシャルインクルージョン」という社会理念から派生した言葉で、「あらゆる人が孤立したり、排除されたりしないよう援護し、社会の構成員として包み、支え合う」ことを示している。

「インクルーシブメイカソン」はおおむね、以下のように構成している。

インクルーシブメイカソンのプロセス

  • ニードノウアからのヒアリング
  • チームビルディング
  • アイデアスケッチ
  • プロトタイピング
  • 最終成果発表

従来は、これらのプロセスを長くても3日間のスケジュールに落とし込んできた。今回はオンライン開催でもあり、イベントには主に週末を充てることとして、1カ月半ほどの期間にわたって行うことにした。この期間内には従来のプロセスのほかに、3D CAD、重要な支援ツールとなる各種スイッチ、電子工作やIoTに関するハンズオン(体験学習会)が催され、また複数の障害当事者の具体的な活動を伺う時間も設けた。こうした機会を設けることによって、さまざまなバックグラウンドを持つ参加者たちの理解を高めることを意図した。

今回、1カ月以上の期間にわたってオンライン開催したことは、想像以上に大きな意味を持っていたと捉え直している。まず、これまでにない期間の開催となったことで、以下の点が挙げられる。

  • 短期間ではあぶり出しきれなかったと思われるニードを掘り起こすことができた
  • プロトタイピングとフィードバックのサイクルをこれまでにないほど多く回すことができた

よく言われることでもあるが、「本当のニードは主体が気づいていないところにある」というのはいずれの場面でも起こりがちなことである。
また、オンライン開催したことによって、以下のことが可能になった。

  • 離れた場所のメンバーとチームを構成する
  • オンラインコミュニケーションツールの採用による、時間や場所に制限されない密度の高いコミュニケーション

これまでメイカソンを各地に根付かせる試みとして都度場所を変えて開催してきたが、今回はオンラインで開催したことにより、各地に育ちつつある拠点をつなぐ形でメイカソンを開催できたことは、非常に大きな意義を持つこととなった。

一方、オンライン開催での課題として、以下の問題点も浮き彫りになった。

  • ニードノウアへのプロトタイプのフィッティングに手間がかかり、機会が制限される
  • 対面でのコミュニケーションができないことによるストレス
  • 積極的に関与するメンバーとそうでないメンバーとのギャップが生じやすい

すべての問題を完全に解決できることはないだろうが、さまざまな試みを通してよりよい形を試していきたい。執筆時点でイベント終了後2カ月が経とうとしているこの時期にも引き続きプロトタイピングを進めているチームがあり、プロダクトの完成へと近づいている。

インクルーシブメイカソンの意義

インクルーシブメイカソンでは、言葉で表現する以上につくることによる表現が試されている。通常コミュニケーションといえば、言葉に頼りがちだが、スケッチで表現すること、さまざまな方法でプロトタイピングすることにより、言葉以上につくるものについて表現することができる。言葉と同様、プロトタイプといえども、ものに「らしさ」が表れることが多く、メンバー間で作者の意図を上回る深読みなどがされる様も興味深い。

先に記したように、メイカソンの参加者は特段ものづくりに精通した人々ばかりではない。そういった人々は、どのようにものづくりに取り組んでいるのだろうか。

一緒につくる

これは一言で表現すれば、「みんなで一緒につくる」に尽きる。ニードノウアへのヒアリングから最終成果発表まで役割分担はしながらも一貫してチームで進めることで、ある目的のためのプロトタイプをチームでつくる、という体験を得られる。もちろんプロトタイプのアイデアも「アイデアスケッチ」の手法を用いながら、チーム全員で取り組む。各人の頭の中にあるモヤモヤを決まったフォーマットで見える化することは、体験したことがない人々が想像する以上の効果がある。アイデアをプロトタイピングする過程ではよりデザインに慣れているメンバーが活躍することになるが、出来上がったプロトタイプの適合評価をそういった人々が担えることは稀で、そこは専門職のセラピストなど、別のメンバーの出番だ。

こうしてそれぞれの持ち味を活かしつつ一緒につくることで、仲間がいれば自分でもできるという実感につながっていく。昨今、このようなものづくりは「コ・デザイン」という言葉で捉えられ始めている。デザイナーに閉じていたものづくりのオルタナティブとしても価値がありそうだ。最近では、メイカソンに参加したニードノウア自身が3Dプリンターを購入し、自分でつくる活動を始めていたりもする。

「心構え」と「身構え」

こうした体験は、何気ない日常から急に環境が変わるような出来事が起きた場合にも対処できる準備となる。

昨今「フェイズフリー」という言葉をよく見かけるようになった。フェイズフリーとは、日常と非日常、平常時と災害時という社会のフェイズの垣根を取り払い、普段利用している商品やサービスを災害時にも適切に使えるようにする考え方のことだ。その意味で、日頃から「自分でできる」ことを実感できるように自ら動くことは「心のフェイズフリー」を支えることにもなる。そして、「自分でできる」が叶わなくても、できる人たちがいることを体験的に知っているだけで大きな違いとなるだろう。

これから確実にやってくる大災害時、「自分でやらざるを得ない」事態になったとき、どのように動けるかは、今準備することにかかっている。趣味の日曜大工を表すものとしてよく知られる「DIY(Do It Yourself)」というスローガンは元来、20世紀の2つの大戦から復興する過程で、英国で生まれたものだという。趣味・嗜好にかかわらず「自分でやらざるを得ない」事態に置かれたとき、どのように状況を受け入れつつ楽しむことができるのか、「心構え」と「身構え」はしておくにこしたことはない。「ネクストメイカー」の素質は誰でも持つものであり、より多くの人々が自分のものを自分でつくることを支援できるよう準備していきたい。

<参考リンク>

2020 TOMメイカソン TOKYO 成果一覧
・ポーション型容器を自分で開けれるようになりたい
https://fabble.cc/ictrehabilitaionresearchlabo/2020tmtxteam1
・戦うジョイスティックと守る傘
https://fabble.cc/ictrehabilitaionresearchlabo/2020tmtxteam2
・視線入力で機材を演奏したい~3Dプリンタ・ロボット化計画~
https://fabble.cc/ictrehabilitaionresearchlabo/2020tmtxteam3
・かめ吉さんのお出かけと仕事を快適にする【ミラー/タブレットスタンド】
https://fabble.cc/ictrehabilitaionresearchlabo/2020tmtxteam4
・2020tmt-teamたこ足とかかしとらっこ
https://fabble.cc/ictrehabilitaionresearchlabo/2020tmtxteam5
「もっとみんなと話したい!」 意思伝達支援ツール
https://fabble.cc/ictrehabilitaionresearchlabo/2020tmtxteam6

<参考文献>

林園子 (編・著)、濱中直樹 (著)、伊藤彰 (著)、鈴木一登 (著)、田中浩也 (監修):はじめてでも簡単!3Dプリンタで自助具を作ろう、三輪書店、2019/8/31

イヴァン イリイチ (著), Ivan Illich (原著), 渡辺 京二 (翻訳), 渡辺 梨佐 (翻訳):コンヴィヴィアリティのための道具、ちくま学芸文庫、2015/10/7

Elisabeth B.-N. Sanders & Pieter Jan Stappers:CONVIVIAL TOOLBOX - Generative Research for the Front End of Design、BIS Publishers、2012

上平崇仁:コ・デザイン —デザインすることをみんなの手に、NTT出版、2020/12/21

James Gibson、小林茂、鈴木宣也、赤羽亨:アイデアスケッチ—アイデアを〈醸成〉するためのワークショップ実践ガイド、株式会社ビー・エヌ・エヌ新社、2017/10/20

濱中直樹、林園子:オープンデザインが止揚する「ネクストメイカー」のコミットメントがもたらす社会、ヒューマンインターフェース学会誌 Vol.22 No.1 p.20-p.23、2020/2/25

Karen Wilkinson (著), Mike Petrich (著), 金井 哲夫 (翻訳):ティンカリングをはじめよう —アート、サイエンス、テクノロジーの交差点で作って遊ぶ、オライリージャパン、2015/6/24

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