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ジモトをつくる

観光だけじゃない!FabとTechでコミュニティを育む函館 #ジモトをつくる

各地のMakerコミュニティの今を、その地域に住むMakerがレポートする連載企画「ジモトをつくる」。第2回は北海道函館市。海外からの旅行客にも人気の観光都市に根付くものづくりコミュニティやMaker向けのスポットを、地元在住の中村拓也さんがレポートします 。(担当編集:越智岳人)

「函館にファブ施設ってないんですかね?」

そういう話を内地の人たちと話す際に耳にします。(※北海道では本州を「内地」と呼ぶ人が結構います)

函館市は「住みたい街ランキング」でも常に上位にランクインする、北海道でも人気の都市・観光地です。市内にものづくりに関する教育機関もいくつかあるため、ファブ施設があってもおかしくなさそうです。

そういった情報も含め、普段あまり触れられない函館市とその周辺のMakerやものづくり界隈を紹介します。

函館の距離感

まずは函館市の紹介から。
函館市は、北海道庁の所在地である札幌市から道のりで250km、高速道路や列車で4~5時間の距離にあります。札幌市よりも、津軽海峡を渡った先にある青森県庁のある青森市の方がむしろ近いくらいです。

レンガ造りの倉庫や建築物などが点在し 、幕末から昭和中期まで青函連絡船が行き交う北海道の玄関口として、また北洋漁業の一大基地として栄えた歴史のある街並みが形成されています。函館山を要とする扇形の地形に沿った夜景は、観光客にも人気です。隣接する七飯町には、大正時代に「日本新三景」に選ばれた大沼があり、別荘地としても知られています 。

金森倉庫群と函館山(左)、西部地区の建築物群(中央)、大沼(右) 金森倉庫群と函館山(左)、西部地区の建築物群(中央)、大沼(右)

もともと函館市は、函館山から見える範囲で収まっていました。しかしその後、周辺の自治体との合併によってその範囲を広げていき、平成には函館山の反対側に位置する山々のさらに裏側である「下海岸」の4町村(戸井町、恵山町、椴法華村、南茅部町)が合併しました。函館山から市全体を見渡すことができなくなるほど大きくなった市域は、1周するのに自動車で2~3時間かかる規模になりました。

函館山からの風景。合併した下海岸の大部分は写真奥の山々のさらに奥にある。 函館山からの風景。合併した下海岸の大部分は写真奥の山々のさらに奥にある。

そんな函館市には「1つだけの中心市街地」というものは存在せず、ある程度の規模を持った複数の市街地で構成されています 。

さらに、函館湾の沿岸には造船業や水産加工業、エネルギー産業の施設が集積した工業地区が隣の北斗市まで並んでいます。この並びの端、北斗市にある東日本最大のセメント工場は見ていて飽きません。

中心市街地が無く、市街地がバラけている函館はコミュニティがなかなか育ちにくい街だと感じています。しかし、そのような中でも熱意を持って粛々とものづくりのコミュニティを育てている人たちがいます。

インタラクティブ作品×Fab施設「はこだてみらい館」

写真左がキラリス函館(筆者撮影) 写真左がキラリス函館(筆者撮影)

函館駅の目の前にあるビル「キラリス函館」には函館市が運営する2つの施設が入っています。
その1つが、3階にある「はこだてみらい館」です。

はこだてみらい館 内部(写真提供:はこだてみらい館) はこだてみらい館 内部(写真提供:はこだてみらい館)
はこだてみらい館 内部(写真提供:はこだてみらい館) はこだてみらい館 内部(写真提供:はこだてみらい館)

函館といえば駅周辺が観光客にはおなじみですが、地元の人は函館駅から離れたエリアで遊んだり、買い物をしたりすることが多いという実態があります。そこで、観光客も地元市民も集まる中心地を作ろうという試みから誕生した施策の1つが「はこだてみらい館」なのです。

そうした背景もあり、はこだてみらい館には老若男女問わず楽しめる作品が数多く展示されています。函館市にまつわるアニメーションや、ドローンで撮影したコンテンツ、全館に配置された16台のKinectを活用したインタラクティブなデジタル・コンテンツがあり、横14.4mの巨大高精細LEDディスプレイや360度スクリーンで楽しめます。

また、最新の機器や書籍、教育系ガジェットも利用でき、利用料は6カ月パスで1500円(税込/2021年2月現在)と安く、コワーキングスペースのように利用している人もいるとのことです。

メディアウォール(写真提供:はこだてみらい館) メディアウォール(写真提供:はこだてみらい館)
360度スクリーン(写真提供:はこだてみらい館) 360度スクリーン(写真提供:はこだてみらい館)
3階と4階をカメラとマイク、プロジェクターでつなぎ、映像を介してコミュニケーションができる作品「Sora」 (写真提供:はこだてみらい館) 3階と4階をカメラとマイク、プロジェクターでつなぎ、映像を介してコミュニケーションができる作品「Sora」 (写真提供:はこだてみらい館)

普段からイベントやアクティビティも活発で、後述するFab系設備を使ったものづくりワークショップのほか、ScratchやMESH、KOOVその他のプログラミング体験にも参加できます。最近はスタッフ自身がUnityのサークルを立ち上げるなど、積極的に活動しています。

ワークショップの様子(写真提供:はこだてみらい館) ワークショップの様子(写真提供:はこだてみらい館)
Unity制作発表会(写真提供:はこだてみらい館) Unity制作発表会(写真提供:はこだてみらい館)

館内には3Dプリンターやレーザーカッター、カッティングプロッターなどが揃っています。

はこだてみらい館にある機器類(写真提供:はこだてみらい館) はこだてみらい館にある機器類(写真提供:はこだてみらい館)
はこだてみらい館の依田さん(左)(写真提供:はこだてみらい館) はこだてみらい館の依田さん(左)(写真提供:はこだてみらい館)

スタッフで企画運営を担当する依田竣介さんは、「日々『スタッフが作り、お客さまに提供する』という観点だけでなく『お客さまと共に作り、”まち”を面白くする』という気持ちを大切にしています。函館駅からすぐですので、まずは一度足をお運びいただき、施設の可能性を感じてほしいです」と話しています。

函館のものづくりコミュニティという観点で見ると、はこだてみらい館は街の象徴かつ中心的な存在であり、Unityユーザーのようなソフトウェア畑の人から、3Dプリンターやレーザーカッターを使うFab畑の人、そして電子工作ユーザーも集う市内唯一の拠点です。

そのはこだてみらい館を支えるのは、依田さんをはじめとした地元および近隣出身の若いスタッフたちです。日々アイデアを出し合って、幅広いジャンルのユニークなイベントを実施しています。函館に来た際には、地元発信の企画で来場者を楽しませる「はこだてみらい館」を訪れてみてはいかがでしょうか。

幅広い年齢層が集まる市民サークル「科学楽しみ隊」

函館市や地元の大学・高専が中心となって開催する「はこだて国際科学祭」というイベントが毎年8月にあります。はこだて国際科学祭では、ワークショップや講演、展示会などが街の至るところで開催されます(2020年はオンラインで開催)。このイベントの企画や運営をサポートする函館市民有志団体が「科学楽しみ隊」です。

児童館でのサイエンスショーの様子(出典:科学楽しみ隊のウェブサイトより) 児童館でのサイエンスショーの様子(出典:科学楽しみ隊のウェブサイトより)

科学楽しみ隊は地元の児童館を巡回し、サイエンスショーやワークショップを企画・運営していて、地元の子どもたちに科学や工作の楽しさを伝える活動を続けています。
その科学楽しみ隊役員の片桐宗一さんが運営している「科学楽しみ隊Arduino部 」を紹介します。

2014年3月にスタートした Arduino部では、「互いに聞き合う、教え合う」をモットーにIT・ものづくりが好きな小学生から社会人まで幅広い年齢層の人たちが活動しています。

現在はUVレジン、アイロンビーズ、動物ぽんぽんなどの素材に、Arduino、Lilypad、micro:bit、M5Stack、Raspberry Piなどを組み合わせた「テクノ手芸」に挑戦しているそうです。活動は1回につき2時間ほど、当初は月に2回程度でしたが、近年はほぼ毎週活動しているということです。

使用するノートPCとArduinoや周辺機器、材料費などは自己負担ですが、会場利用料は無料で運営されています。
2020年に函館で開催した「未来の学びフェスin函館」ではArduino部を拡大し、電子工作に限らずさまざまな創作活動をしている人たちと協力して「Maker部」を発足させ、初めての展示を実施しました。

片桐さんによると「今までは作っては壊しの連続で、ノウハウの積み重ねに重きを置いて成果物をあまり残さなかったが、展示を意識して今後はできるだけ作品として残す方向で皆と話している」ということでした 。科学楽しみ隊のArduino部/Maker部は、函館唯一の地元発ものづくりコミュニティといっても過言ではありません。活動に興味を持たれた方は、ぜひコンタクトしてみてください。筆者も運営をお手伝いしています。

神山児童館でのクリスマスワークショップの様子(写真提供:科学楽しみ隊 Arduino部) 神山児童館でのクリスマスワークショップの様子(写真提供:科学楽しみ隊 Arduino部)
Arduino部、Maker部として、初めて一般向けに展示を行った。(写真提供:科学楽しみ隊 Arduino部) Arduino部、Maker部として、初めて一般向けに展示を行った。(写真提供:科学楽しみ隊 Arduino部)

さいごに

函館にはものづくりのイメージが無いかもしれません。しかし、今回ご紹介したように、函館でも地元住民を中心にものづくりの楽しさを共有する活動やイベントが活発に行われています。

一方で、函館市外の方だけでなく函館市民の間ですら認知度が決して高くないことは課題です。私自身、今回紹介した科学楽しみ隊を含め、ものづくり系のイベントやプログラミング教育の普及活動を地元で進めていますが、IoTやテクノロジーに対する理解度には、まだまだ課題を感じています。

現在は大人から子供までがテクノロジーを楽しむ機会を作ることで、IoTやロボット、xRといった概念を1人でも多くの市民に浸透させようと努力している段階にあり、地元の有志たちが主体的に取り組んでいる状況です。

この記事を通じて、函館の観光だけではない側面を知っていただけたら幸いです。

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