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ジモトをつくる

ゆるくつながって、作っていく、仙台のメイカーたち #ジモトをつくる

各地のMakerコミュニティの今を、その地域に住むMakerがレポートする連載企画「ジモトをつくる」。第5回は東北の玄関口である宮城県仙台市を紹介します。

2020年には東北地方初のMaker Faire「Sendai Micro Maker Faire 2020」が開催され、東北各地からユニークなMakerが参加——。東北地方のMakerコミュニティの豊かさあふれる会場の様子はfabcrossでもレポート記事として紹介しました。

本記事では、そのSendai Micro Maker Faireの共催者であり、ファブラボ仙台の運営に携わる大網拓真(おおあみ たくま)さんがレポートします。(編集担当:越智岳人)

こんにちは!仙台宮城エリアを担当します、大網拓真です。普段は仙台駅前のメイカースペースFabLab SEDNAI – FLAT(ファブラボ仙台 フラット、以下FLAT)を運営しております。

こちら、現在のレイアウトと若干変わるもののFabLab SENDAI - FLATの様子です。 こちら、現在のレイアウトと若干変わるもののFabLab SENDAI - FLATの様子です。

今回は、自分の工房であるFLAT周りのことももちろんなのですが、仙台〜宮城圏内のメイカー事情を紹介します。

趣味と仕事を軽やかに行き来するメイカーたち

メイカースペースを運営していると、「どんな人たちが来ますか?」と聞かれることがよくあります。しかしながら、中学生から社会人まで老若男女、作るもののジャンルもレベルもさまざまなので「いろんな人が来ます」としか返答できないのが正直なところ。そんな中、最近増えてきたタイプである、“試しに作ってみたら自身の仕事になった系”のプロジェクトを2つ紹介します。

宮城県西部の川崎町は、緑豊かな土地ゆえにイノシシ被害も多いところです。その川崎町に工場を構え、射出成形を得意とする会社エリオスさんに、地元の猟師さんからイノシシを捕まえるわなを作ってほしいという相談が飛び込みました。ただ、工場にある本格的な射出成形機を動かすとなると試作でも100万円弱の予算が必要になります。また、うまく獲物を捕まえられるか分からないわなに、それだけのお金を費やす余裕はありません。

そこで、わなの試作を3Dプリンターでしてみようと思い立ち、3D CADソフトの使い方から学んで、自分でプリントを行いました。完成した試作品を持ち帰り、テストや修正を繰り返して、射出成形版まで作り、現在ではイノシシ捕獲わな「ししえもん」として販売しています。

「3Dプリンターで実際に形にすることで、より大きな予算や設備を動かすための根拠を確認できた」と、ししえもん開発担当の方がおっしゃってくれて、メイカスペース運営側としても感無量。さらに猟師さんが捕まえたイノシシの肉をプロジェクト関係者に配ってくれるそうで、「デジファブで作ったものがダイレクトにゴハンに変わることもあるんだなぁ」としみじみ感じ入りました。

最新版のししえもん、最近はセンサーを仕込んで、作動通知が送られてくるIoTバージョンも発売中です。 最新版のししえもん、最近はセンサーを仕込んで、作動通知が送られてくるIoTバージョンも発売中です。

先述したようにFLATはノージャンルで作りたい人を受け入れており、共通の趣味を持つユーザーさんたちが勉強or研究グループを自主的に立ち上げることも度々あります。

そんなグループの1つ、IoT現場メン(以下、IGM)は、宮城県内の町工場で働いている方々がメインとなって活動しています。彼らの共通点は、電子工作やプログラミングを覚えることで、自分の工場にある古いマシンや自社製品の改良に役立てる、というガッチガチのエンジニアリング寄りの目標を持っていること。ですが、Arduinoやいろいろなパーツの使い方を学んでいくうちに、「コーヒーロースターを自動化したい」とか「息子のミニ四駆にスピーカーを搭載したい」など、次第に個人的な興味にもテクノロジーを応用しはじめるという大らかさも持ち合わせています。

個人的な興味と、会社のための業務をミックスしながら新技能を学んでいくスタイルで、自社への設備導入や新商品の提案など、精力的に動き続けています。2020年はコロナ禍の影響でオンラインでの活動が多めでしたが、2021年は再度同じ場所に集まって手を動かせるとよいですね。

自作Arduinoに電子パーツをはんだ付け中のIoT現場メンたち。 自作Arduinoに電子パーツをはんだ付け中のIoT現場メンたち。

地下鉄でつながる仙台のメイカースペース

仙台のメイカーシーンの特徴を語る上で外せないのは、町に点在するメイカースペースの多さ、そしてそれぞれのスペ-スの個性の豊かさだと思います。仙台には、仙台駅を中心として十字に地下鉄(南北線/東西線)が走っているのですが、そのうちの東西線沿線だけで6カ所のメイカースペースが営業しています。

各スペースのロゴを東西線路線図に合わせて並べてみました。こうして見ると壮観ですねぇ。 各スペースのロゴを東西線路線図に合わせて並べてみました。こうして見ると壮観ですねぇ。

<仙台地下鉄東西線沿線のメイカースペースリスト>(西から順に)

・宮城県美術館オープンアトリエ「創作室」
県立の美術館の中にある、市民のための工房。扱える工法は幅広く、木、金属、土、絵画、版画などなど基本的な美術表現に必要なハンドツールが揃っている。

・FabLabSENDAI – FLAT
レーザーカッター、3Dプリンター、そしてUVプリンターなど、デジタル工作機器とハンドツールを兼ね備えた市民工房。3D CADなどの形状設計はもちろん、電子工作やプログラミングなどの回路やソフトウェアのデザインについても相談できる。とにかく作って試してみるがモットー。

・スタジオ開墾
アーティスト、デザイナー向けのシェアアトリエ。倉庫を改装した広い空間が特徴的で、大物の制作にも対応。地元ギャラリー、美術館で活躍するアート関係のスタッフが多く、豊富な現場経験に裏打ちされたアドバイスやサポートが魅力。

・東北インキュベーションセンター INTILAQ
ファブスペースが併設されたシェアオフィス。起業家支援事業など、ビジネスパーソンに向けたイベントや企画を定期的に開催しており、簡単な試作開発に加えてビジネスの相談もここ1カ所で行える。

・Press & Bookbinding Studio analog
印刷、製本、シルクスクリーンの道具を備えた、本や冊子、Tシャツなどへのプリントに特化したメイカースペース。印刷技術だけでなく、ストリートカルチャーや音楽シーンの知識も豊富な工房長が運営していて、スペース内にかざってあるグラフィックを見るだけでも楽しくなる。

・DIY STUDIO
東北で唯一、4×8サイズの合板をカットできる大型CNC「ShopBot(ショップボット)」が使えるメイカースペース。溶接スペースなどもあり、大型の木工制作が得意。建材販売を行う和以美株式会社が運営しているため、素材の取り寄せなども相談も可能。

さらに、オープンに向けて準備中のもの、東西線沿線ではないものを含めると、全部で10拠点にまでなります! また、上記のメイカースペースは、直径8km圏内に集まっていて、地下鉄で一番遠いメイカースペース間(宮城県美術館~DIY STUDIO)を移動しても40分程度。キャラクターが豊富なメイカースペースがこれだけ多くコンパクトにまとまっている町ってあまりないんじゃないでしょうか? 大資本による超大型のメイカースペースはないものの、1つ1つが持続できるスケールで、自分たちのやりたいことを素直にやっている工房が集まったこの状況が愛おしくなってきました。

ゆるくつながる、ゆるく補う

「これだけ、メイカースペースが集まってくると、お客さんの取り合いになっちゃうんじゃないの?」という意地悪な質問を受けることがありますが、実態はむしろその逆です。それぞれのスペースの得意分野がうまくバラけている(みんな、他の人がやっていないからその分野の工房を作っている)ので、自分のスペースでできないことを他の工房でやってもらったり、逆によそでできないことでも自分のスペースでできたりという状況になっているんです。

これは、専門店が集まった商店街みたいな状況だと思います。互いに行き来しやすい距離にあることで、仙台在住のメイカーたちが何かものを作る時、作り方の選択肢が十分にあり、それぞれにとって心地よい作り方を見つけやすい環境が出来上がった、といったところでしょうか。

それぞれのメイカースペースの運営者は個別に運営を続けているのではなく、2020年から月に1回オンラインミーティングを行うようになりました。何を話しているかというと、参加している全てのスペースが機材貸しをするだけでなく、運営者側も作り手として受注制作やデザインの仕事を行っているので、新しいマシンやツールの情報交換をしたり、その時に作っている物を紹介したりするなど、技術面の話が多いです。また、あるスペースで困っているユーザーさんがいて、他の工房の道具やマシンで困り事が解決できるのであれば紹介するよう話をつけたりすることもあります。

仙台メイカースペース運営者の集い、技術的な相談もですが、DIY文化について熱く語らう時もあります。 仙台メイカースペース運営者の集い、技術的な相談もですが、DIY文化について熱く語らう時もあります。

別に他のスペースがなくても、依存せず自立して営業していけるようにそれぞれに技術を磨いている人たち。でも、それは決して断絶しているわけではない。ゆるくつながることで可能になることが増えたり、町のメイカーカルチャーを広くサポートできるような体制ができたりするとよいなぁ、と思いながら、今月も皆で話し合いをしています。

工房間を回遊するメイカーたち

そんな運営側の思いを知ってか知らずか、メイカースペース間を行ったり来たりしながら、趣味を楽しんだり、仕事をしたりする人たちが最近になって増えてきているように感じます。これは、他のスペースの方が紹介してくれて、新しいユーザーとして来てくれたというケースもありますし、ユーザーさん自身が各スペースを巡って特徴を知り、使い分けを始めている場合もあります。

例えば、FLATとanalogはどちらもレーザーカッターを持っているのですが、機種が違います。FLATのレーザーカッターよりもanalogに置いてあるレーザーカッターのほうが加工範囲が大きく、大物を作るのには向いています。その一方で、レンズの違いによってFLATのレーザーカッターのほうがシャープに切れるので、細かく複雑なパーツを作るのに向いています。こういった設備の細かなスペックの違いを知り始めたユーザーさんは、作る物によって作る場所を変えています。これは月1回のミーティングでスペース運営者が情報交換をしている影響もありますが、運営者自身がそれぞれのスペースを利用し合っている、運営者仲間でもあるが互いのスペースのユーザーでもある場合によく見られます。相手のスペースのマシンを使うことで細かなスペックの違いを知り、こだわりのあるヘビーユーザーさんたちに教えるといった流れが生まれやすいのでしょう。もちろん、自力で研究し、各スペースのマシンスペックを調べ上げる、猛者メイカーさんもたまに出現します!

マシンのスペックでスペースを使い分ける方もいれば、スペースのスタッフの専門性で行き来する人もいます。仙台在住のグラフィックデザイナー、伊藤裕さんは書籍の表紙を切り抜いて“窓”を作り、内側にポケットを付けることで、ポケットに挿入した写真が表紙の “窓”から見えるデザインを構想していました。しかし、製本された書籍の表紙をくり抜く加工は、通常の製本工程だと難しいことが分かり、製本に詳しいanalogへ相談に行きました。そこでスタッフから素材の選定、仕上げの方法などのアドバイスをもらい、レーザーカットと作業を効率化するための治具制作はFLATが担いました。

レーザーカットの様子、切り抜いたパーツを外すときが気持ちよい。

「餅は餅屋」ではないですが、伊藤さんのこの作り方は各メイカースペースにいるメンバーの得意分野をよく把握しているなと感心しました。完成版の書籍の様子はコチラ。これは、一般社団法人みなとラボさんのプロジェクトによって作成されました。

完成した書籍。しっかりとした印刷技術とこだわり抜いた“窓”の配置が美しいです。 完成した書籍。しっかりとした印刷技術とこだわり抜いた“窓”の配置が美しいです。

まとめ

この記事では、仙台近郊を取り上げましたが、さらに宮城県内、東北全域とフォーカスを広げていくと、まだまだ面白いメイカーが見つかったり、スペース同士の交流が行われたりしています。新しい道具の使い方を覚えることで、新たなアイデアが生まれるように、新しいメイカースペースに行ってみたり、使い始めたりすることで生まれるものもあると思います。そういう意味では、仙台の地下鉄一本で少なくとも6カ所は巡れるというロケーションは、東北地区でのメイカースペース巡りがしたい方には第一歩としてオススメです。そこで暮らしている僕も、仙台内で2カ所のメイカースペースを行き来して作っている人にはお会いすることがあるのですが、全て巡って作っている人にはまだ遭遇したことがないので、第1号になれるよう精進したいと思います。それでは、東北でお待ちしております。

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