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短期連載:スタートアップの古都、京都を訪ねる

スタートアップを支える理由は金もうけのためじゃない——「京都試作ネット」キーパーソン竹田正俊氏(クロスエフェクト)に聞く

クロスエフェクトが独自技術を持つ、手術シミュレーション用の臓器模型

ハードウェアスタートアップ特化型のVC「Makers Boot Camp(以下MBC)」の共同創設者にして、京都南部の試作/加工企業32社を束ねる「京都試作ネット」の中心人物の一人がクロスエフェクト代表取締役の竹田正俊氏だ。

クロスエフェクトは3Dスキャンやモデリングなどのデータ作成から、3Dプリンターによる試作造形や真空注型品の制作を生業とし、中でも外科手術のシミュレーションに用いる臓器模型は形状だけでなく手触りまで本物そっくりに再現する技術力の高さを有する。

多くの中小企業がスタートアップとの試作開発や量産を通じて、新しい市場を開拓したい一方で資金面や知識面の隔たりから継続的に対応できず頓挫する例が後を絶たない。スタートアップの試作開発は利益のためではないと言い切る竹田氏が、あえてハードルの高いスタートアップの試作/開発を支援する理由とは何なのか。町工場とスタートアップの両面を知る竹田氏にお話を伺った。

問い合わせから2時間以内に回答する京都試作ネット

京都試作ネットのウェブサイト。オンラインで問い合わせると関係する企業に情報が共有され、一番早く手を挙げた企業が対応する仕組みになっている 京都試作ネットのウェブサイト。オンラインで問い合わせると関係する企業に情報が共有され、一番早く手を挙げた企業が対応する仕組みになっている

京都試作ネットは、製造業における下請け依存経営から脱却を目指す京都府の中小企業経営者らが集まって2001年に立ち上げた一般社団法人だ。試作開発に特化することで参画する各社の強みが発揮しやすく、ウェブからの問い合わせに対して平日の日中であれば2時間以内に対応するスピーディーさも強みだ。

クロスエフェクト代表取締役の竹田正俊氏。京都試作ネットの代表理事を務めていた際に、Makers Boot Campの牧野成将氏から試作に特化したファンドとアクセラレーションプログラムの構想の説明を受け参画することを決める。Makers Boot Campの共同創設者でもある。 クロスエフェクト代表取締役の竹田正俊氏。京都試作ネットの代表理事を務めていた際に、Makers Boot Campの牧野成将氏から試作に特化したファンドとアクセラレーションプログラムの構想の説明を受け参画することを決める。Makers Boot Campの共同創設者でもある。

京都試作ネットはマネジメントの神様と称されるピーター・ドラッカーの哲学の勉強会から始まった。大企業の下請けからの脱却を目的に経営者が集まり、ドラッカーの書籍をもとに議論した結果、顧客を創造することが重要であるという結論に至った。彼らはこれまで対応していなかったオンラインでの受注に特化した企業連携プロジェクトを2001年に開始した。現在では京都府の中小企業32社が参加している。顧客の中心は国内製造業の企業で、スタートアップとの取引は信用面の問題から断っていたという。

竹田氏が京都試作ネットの代表理事在任中だった2014年、MBC立ち上げを計画していた牧野成将氏から「単にお金の工面をするだけではなく、ものづくりでのサポートもできるアクセラレーターを作りたい」と、京都試作ネットをスタートアップ向けに活用したいという提案を受けた。
世界中のハードウェアスタートアップを京都に集め、量産における死の谷を乗り越えるような支援をしてほしいという提案に当初は難色を示していた竹田氏だったが、何度も交渉に訪れ、本気で立ち上げようとしている牧野氏に引かれるようになったという。竹田氏が最終的にスタートアップへの門戸を開こうと決めた最大の要因は、ファンドから試作開発費用を捻出するというアイデアだった。

「お互いにハッピーになる仕組みでした。スタートアップは費用が工面できるし、支援する側もしっかり予算を確保できる。なによりファンドに出資してくれた地元の金融機関が、ファンドを通じて地元の企業にお金が落ちるということで非常に良い仕組みだと評価してくれました」

スタートアップとの開発に必要なのは先回り

これまで京都試作ネットが取引してきた製造業の企業と違い、スタートアップとの取引はあらゆる面で勝手が違ったという。

クロスエフェクト社内にある光造形機。MBCと組む前はメーカー企業との取引のみだった。現在では大企業との取引で鍛えた開発力でスタートアップの試作開発もサポートしている。(写真提供:クロスエフェクト) クロスエフェクト社内にある光造形機。MBCと組む前はメーカー企業との取引のみだった。現在では大企業との取引で鍛えた開発力でスタートアップの試作開発もサポートしている。(写真提供:クロスエフェクト)

「お互いにものづくりの基礎知識がある企業とのやりとりに比べて、スタートアップと話すときには、知識にものすごくギャップを感じます。一方で完成度に対するギャップも大きい。よくCESやCEATECに出すための試作品を大手メーカーから受託するのですが、最終製品ぐらいのレベルを試作でも要求されます。それだけでなく、仕様書があり、注文書や注文請書という『関所』があります。取引先の設計メンバーだけ会うのではなく、購買の人にも声をかけなきゃいけないといった段取りを経て、厳しい寸法精度にも対応するというのが大手のものづくり。一方でスタートアップの場合は資金調達するためのピッチに使うモデルであれば、少々の不具合は削って入れ込んで、その場で収めるような進め方。『見えないところなんかどうでもいいんでなんとかしてください』って言われ、大手とやっている身からすれば『そんなわけにはいかない』と、きっちり仕上げるようなやりとりが当初は続きました」

スタートアップとの試作開発を繰り返すうちに竹田氏は、顧客が変われば自分たちも顧客に合わせなければいけないことに気付いたという。スタートアップとの案件に必要なのはスピードと、大手企業との取引で培った技術を先回りして盛り込むことだった。

「『図面だとここにスイッチが付いてたけど触りにくいから、ここに付けておいたよ』とか、『いちいちネジ留めせずパチンとはめられるようにしといたで』という先回りが喜ばれるんですよね。大手だったら絶対に許されないことです。だから、相手が変わると我々も戸惑います。言われてないことまでやるのはご法度ですが、暴走気味に先回りして気を利かせるほうがいいことに途中から気が付きました。少なくとも指示待ちでは全然進まないし、スタートアップは開発と並行していろんなタスクに追われていますから、指示も『ここ、いい感じにやっといてください』みたいな雑な指示が来ることもある。それに対して、『そんな指示では動けない』というのではなく、それなら『自分たちなりにかっこよくしといたろ』と動かないとだめだし、そうすることで顧客の満足度が上がったのは確かです」

スタートアップが押さえるべきハードウェアの勘所

外科手術シミュレーション用の模型の説明をする竹田氏(左)。最初に製造した心臓のモデルは竹田氏自身の心臓をCTスキャンしたものがベースになったという。 外科手術シミュレーション用の模型の説明をする竹田氏(左)。最初に製造した心臓のモデルは竹田氏自身の心臓をCTスキャンしたものがベースになったという。

「暴走気味に先回りする」ことがスタートアップにとって喜ばれることはあっても、安全性やリスク、サプライチェーンのノウハウをしっかりと教えることは欠かさない。ハードウェアを市場に出すにあたってのルールはMBCとも連携してレクチャーしているという。

「ハードウェアに対する知識が全くないソフトウェア出身のスタートアップにいろいろと提案すると拒否反応を起こされることもありました。ソフトウェアであれば市場投入した後でもバグの修正はオンラインでアップデートできるが、ハードウェアは一度市場に出すと回収するだけ億単位のコストが発生することもある。もし、自分たちの製品でけがや事故が起きたら損害賠償に発展する場合もある。量産についても金型だけで数千万かかるとか、基板一つでも長期的に安定供給してもらおうと思ったら、中国からインターネットで買うのではなく、きちんとしたルートで買わなければならない。そういったことを一つ一つ理解しないと、話が前に進みません」

京都試作ネットが試作開発を支援したスマートショッピングが提供する「スマートマット」(スマートショッピングのウェブサイトより) 京都試作ネットが試作開発を支援したスマートショッピングが提供する「スマートマット」(スマートショッピングのウェブサイトより)

既にMBCと京都試作ネットとの連携で、試作開発を成功させて中国での1万台の量産にこぎつけたスマートショッピングのような成功事例も生まれている。国内だけでなく、海外との競争力も維持しながら京都をスタートアップの集積地にするためには、これまで培った技術力を惜しみなく投入しながら、顧客に合わせた支援を継続していく必要がある。

「京都に来たらアイデア段階からでも量産フェーズに移れる、量産前に横たわる死の谷をなるべく渡りやすくしてあげたい。ものづくりにおいてQCD(品質、コスト、納期)が大事だと言いますが、最も大事なのはD。いかに早く仕上げるか、そして『fail first(早めに失敗しておく)』、早めに失敗したら絶対に取り返しがきく。試作開発の工程で最も重要なのは早さなんです。京都に来たら早く開発ができる、バグ出しが早くできることを売りにしていきたい。特にスタートアップは時間もお金も限られているから早くしないと意味がない」

中小企業の連携が失敗に終わるのは“金のため”だから

社員のアイデアでオフィスに取り付けられた滑り台。製造業にありがちな3Kのイメージを覆すオフィス作りを進めた結果、新卒社員も安定的に採用できるようになったという。 社員のアイデアでオフィスに取り付けられた滑り台。製造業にありがちな3Kのイメージを覆すオフィス作りを進めた結果、新卒社員も安定的に採用できるようになったという。

京都試作ネットのように企業同士が連携して共同受注する仕組みは日本全国にあるが、ほとんどが失敗に終わっているという。竹田氏が京都試作ネットの代表をしていた5年間、最も多い年で100件近く講演をしたというが、失敗する最大の要因は利益追求にあるという。

「金もうけのために企業連携しているところは例外なく失敗しています。日本中の企業連携のほとんどは目先の仕事のためにする。最初の1年目は地元メディアから取材が来て盛り上がり、問い合わせもたくさん来る。でも2年、3年たつと風化してきて問い合わせも減り、『会費を出しあって、月に何度も集まっているのに時間の無駄じゃないか』と1社、また1社と抜けていき、気がついたら飲み会だけになっている。目先の利益を追うから金の切れ目が縁の切れ目になってしまう。

京都試作ネットは、ドラッカーが提唱するマネジメントを具現化するために『試作』を通じて活動しています。10年後、20年後の京都を考えてあるべき姿を考えたときに、日本全国から開発案件が集まり京都からスタートアップがどんどん生まれるためには何をすべきかを考えてきたから、17年も続いているのだと思います」

MBCとの協業も彼らの視野を広げることに寄与したという。

「大手企業とだけお付き合いするよりも、さまざまな企業との開発に携わることで技術の引き出しも増えたように思いますし、多種多様なものづくりをしないと、本質的に技術の集積は生まれないことに気付かされました」

スタートアップを美味しくするぬか床は二度と作れない

コンパクトな土地に売上高1兆円規模の企業から技術力の高い中小企業まで集積しているだけでなく、大学や金融機関、民間企業の取り組みに理解を示す行政が集まっていることが京都の強みだと竹田氏は力説する。 コンパクトな土地に売上高1兆円規模の企業から技術力の高い中小企業まで集積しているだけでなく、大学や金融機関、民間企業の取り組みに理解を示す行政が集まっていることが京都の強みだと竹田氏は力説する。

京都試作ネットもMBCとのプロジェクトも思想の根底には、京都全体の持続的な発展があると竹田氏は語る。

「私が師と仰ぐ最上インクスの鈴木三朗(京都試作ネットの初代代表で現在は最上インクスの相談役)が“ぬか床理論”というものを提唱しています。代々受け継いだぬか床には乳酸菌やりんごやら二度と再現できない調合になっていてレシピがない。けれども、そこに野菜を漬けると数日後には美味しくなっている。京都もまさにぬか床のような存在でいろいろなプレーヤーが作り上げた絶妙な組み合わせで成り立っています。

二度と作れないなら何をすべきか——それは京都というぬか床を守れ、ぬか床を絶やしてしまったらスタートアップを中に入れても美味しくならないぞ、だからぬか床を守るような活動をしなさいと言われてきました。だからこそ自社だけの発展ではなく、ものづくりのエコシステムを京都で作り、次の世代へ受け継いでいきたいと思います」

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