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3Dプリンタ 未来と現実が錯綜する「ものづくりの革命」(下)

「ものづくりに革命をもたらす3Dプリンタ」。このような形で、にわかに注目を集めるようになった3Dプリンタは、製造業における製品開発の現場をはじめ、個人によるものづくりに取り組む人たちの間にも着実に広がりつつあります。この一方で、3Dプリンタをめぐる、最近のやや極端な論調の報道をいさめる人たちが出てきました。その中心となっているのが、現状の3Dプリンタが備える機能や性能の限界を知っている人たちです。

前編はこちらから

“魔法の箱”ではない?3Dプリンタ

実は、現状の3Dプリンタは、何でも作れる“魔法の箱”というわけではありません。例えば、出力する立体の材料が特定の樹脂材などに限られています。このため出力した立体で対応できる用途は、必ずしも広くはありません。このような課題を現状の3Dプリンタが抱えている理由は、3Dプリンタの仕組みが分かると見えてきます。

ほとんどの3Dプリンタは、「3次元積層造形」と呼ばれる手法を採用しています。様々な形の薄い板を積層することで立体物を造形する手法です。つまり、造形する立体物を水平に薄く輪切りにしたものを、下から上に順番に重ねることで立体物を再生します。一つの層の厚さは、十数ミクロン・メートルから数百ミクロン・メートルと極めて薄いものです。

立体物を構成する層を造形する方式はいくつかあり、それぞれ使用できる材料や造形プロセスが異なります。具体的には、「熱溶解積層方式」「インクジェット方式」「粉末焼結造形」「光造形」「シート積層方式」などが主な方式です。

様々な方式の製品が市場に

様々な方式の中で、低価格品の多くで採用されているのが、熱溶解積層方式です。この方式では、熱で溶かした材料を先端から吐出する可動式ノズルで平面上を走査して様々な形の層を生成します。造形材料として使えるのは熱可塑性樹脂で、プラスチック製品に広く使われているABS樹脂も使用できるのが特長です。

図1 3Dプリンタの造形の仕組み

 インクジェット方式は、2次元のプリンタを同じように、微小なノズルが1列に並んだインクジェットノズルを水平に移動させながら、ノズルの先端から材料を吐出することで、様々な形の層を造形する方式です(図1)。インクジェット方式には、さらに使用する材料やプロセスが異なるいくつかの方式があります。紫外(UV)光を照射すると硬化する光硬化性樹脂を使う方式、アクリル系樹脂など熱可塑性樹脂やワックスを使う方式などです。

このほか、作業台の上に薄く敷き詰めた粉末状の材料に、インクジェットノズルからバインダ(接着剤)を吹き付けて固めることで層を形成する方式もあります。

金属の造形が可能な方式も

平面上に敷き詰めた粉末材料をレーザー光線で焼結させるのが、粉末焼結造形です。この方式を採用した3Dプリンタの中には、金属粉末を材料にして金属製の造形物を作れる製品もあります。

図2 光造形の仕組み

光造形は、3Dプリンタの黎明期から採用されている方式です(図2)。液状樹脂を満たした槽の中に、上下に移動する可動テーブルを設けて、可動テーブル表面の液状樹脂にレ-ザー光線を照射して硬化させることで一つの層を形成します。1層作るたびにテーブルを下げて、その上からレーザーを照射すると、前に生成した層の上に新しい層を形成できます。これを繰り返すことで立体を作ります。シート積層方式では、薄い樹脂シートを所望の形状にカットしながら重ねることで造形します。 

個人用の普及で進化が加速

以上のように3Dプリンタには、様々な方式がありますが、それぞれ使える材料が限られていることなどから必ずしも“魔法の箱”ではないことが分かると思います。各方式の技術は、まだ進化の余地はかなりありそうです。

ただし、個人用の普及が始まったことで、3Dプリンタをめぐる技術開発が加速する機運は着実に高まっています。3Dプリンタ市場に新たに参入する企業も増えてきました。日本でも約10社が製品を提供しており、その数は、まだ増える見込みです。今後、技術の進歩や製品の増加とともに、3Dプリンタを活用する動きは様々な分野に広がると同時に、革新的なサービスが登場することでしょう。 

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