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エネルギー・ハーベスティング 次世代のエレクトロニクスはノーパワー?(上)

「エネルギー・ハーベスティング」とは、振動、光、熱、周辺を飛び交う電波など身の回りに偏在しながら、利用されずに捨てられているエネルギーを電力に変換して活用する技術です。「環境発電」とも呼ばれています。エレクトロニクス機器の利便性が格段に向上することから、この技術の発展に期待する技術者は少なくありません。特に最近は、IoT(Internet of Things)に対する関心の高まりとともに、エネルギー・ハーベスティングはさまざまな分野で一段と注目を集めています。

エネルギー・ハーベスティングが注目される理由

電子部品メーカーなどの間で、エネルギー・ハーベスティングの技術開発がにわかに活発化したのは2000年代に入ってからです。国内では富士通、パナソニック、NTT、ルネサス エレクトロニクス、オムロンなどが本格参入。試作例を発表したり、エレクトロニクス関連の展示会に出展したりする動きが相次ぎました。

多くのメーカーが、この技術に注目するのはエネルギー・ハーベスティングの技術があれば、電子機器に外部から電源を供給したり、電池を組み込んだりする必要がなくなるからです。電池で動作している機器では、定期的に充電したり、電池を交換したりする必要がありますが、エネルギー・ハーベスティングの技術によって、個々の機器が周辺の環境から電力を得ることができるようになれば、こうしたメンテナンスの手間が省けるわけです(図1)。しかも、周囲にエネルギーが存在する限り、継続して電力が得られます。省エネを推進するうえでも有利です。 

図1 身の回りに存在するさまざまなエネルギーを活用(出典:日経エレクトロニクス) 図1 身の回りに存在するさまざまなエネルギーを活用(出典:日経エレクトロニクス)

低電力化とともに実用化が加速

最近になって話題が増えたエネルギー・ハーベスティングの技術ですが、概念自体はかなり古いものです。1900年代のはじめには、受信した電波のエネルギーだけで音声を再生する鉱石ラジオがありました。これもエネルギー・ハーベスティングの一種だといわれています。エネルギー・ハーベスティングに関する研究も、すでに長い歴史があります。最近になって、話題に上ることが増えてきた背景には、電子回路の低電力化が進んだことにあります。

実は、いつでも、どこでも電力が得られる便利なエネルギー・ハーベスティングの技術ですが、身の回りにあるエネルギーから得られるのは非常に小さい電力です。例えば、振動から得られる単位面積当たりのエネルギー量は10-3ワットから10-4ワット。光からでは10-4ワット程度です。かつては、この程度の電力で動かせる電子機器はほとんど見当たりませんでした。ところが電源回路の高効率化が進んだことや、電子機器の内部で電力を消費するマイコンやセンサなどの電子デバイスの低消費電力化が、近年急速に進みました。これによって、エネルギー・ハーベスティングによって得られるわずかな電力で動かせる電子機器が少しずつ出てきました。 

IoTが関心の高まりに拍車

これに加えてIoTの概念が登場したことで、長時間にわたって自律して動作できるシステムに対するニーズが高まってきたことが、エネルギー・ハーベスティングに対する関心の高まりに一段と拍車をかけました。IoTは、あらゆる「モノ」がインターネットにつながった環境を表現する言葉です。

従来、インターネットにつながる機器は、コンピュータやモバイル機器などネットワークに接続することを前提に設計された機器でした。しかし、通信回路やセンサなどを取り付けることで、石や植物など自然界に存在するあらゆるモノをインターネットに接続することが可能になります。ただし、あらゆるモノを有線で接続することは現実的ではありません。IoTの環境では多くのモノは、無線で通信することになります。そうなると、それぞれのモノは、独自に電力を確保する仕組みが必要です。ここでエネルギー・ハーベスティングの技術が役立ちます。では、エネルギー・ハーベスティングの具体的な技術をいくつか、紹介しましょう。

後編に続く

 

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