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エネルギー・ハーベスティング 次世代のエレクトロニクスはノーパワー?(下)

身の回りには、さまざまなエネルギーが存在しています。例えば、光、機械の振動や廃熱、人間や動物の動き、体温、川の流れや海の波などの自然の動き、橋やビルディングなど大型構造物の振動。テレビやラジオ、無線機などが発する電波(電磁波)もエネルギーになります。それぞれ電力に変換するための原理や仕組みが異なります。

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電力に変換するためのさまざまな方法

光を電力に変換する技術は、すでに多くの人が知っていると思います。太陽電池を使った発電システムが、家庭にも普及しているからです。ただし、こうしたシステムに使われている太陽電池の多くはシリコン(Si)を素材に使ったもので、エネルギーとして屋外の太陽光を利用することを前提としています。エネルギー密度が小さい室内光の下では、発電量が桁違いに小さくなってしまいます。このため、室内光に適した発電特性と、太陽光向けの太陽電池よりも高い発電効率を備えた太陽電池が必要です。こうした要求に対応する技術として、「色素増感型太陽電池」の開発が進んでいます。

振動などの力学的エネルギーを電力に変換する方法は、いくつかあります。例えば、振動や動きによって相対位置が変化する二つの物の一方に磁石、もう一方にコイルを取り付けて、磁石とコイルの位置が変化したときに発生する誘導電流によって電力を発生させる電磁誘導方式です。実際に、こうした装置を床に取り付けているダンス・クラブの例が海外にあります。この店では、客がダンスしたときに発生する床の振動によって電力を発生させ、その電力を店内で利用しています。

圧力を加えると電力を発生する圧電素子を利用する方法もあります。この仕組みを利用してイスラエルのInnowattech社は、道路を走行する自動車の重さで発電するシステムを業界でいち早く開発しました。圧電素子を道路に敷き詰めて、この上を自動車が通過すると発電します。 

電池不要の無線スイッチも登場

図1 日本電業工作のレクテナ 図1 日本電業工作のレクテナ

電波から電力を得る技術も実用化されています。整流回路(Rectifier)とアンテナを組み合わせた「レクテナ(Rectenna)」と呼ばれている装置です。この装置があれば、周囲を飛び交っているテレビの放送波や、携帯電話が発する電波などを直流電流に変換することができます。日本では日本電業工作が、レクテナの開発とその事業化に力を入れています(図1)。

エネルギー・ハーベスティングによって得られるわずかな電力で動作することを前提に開発した無線通信技術も登場しました。ドイツのEnOcean社が開発した「EnOcean」です。この技術を使うと、スイッチ・レバーの動きを利用して発電し、その微小な電力を利用してスイッチから制御対象へとオン/オフの情報を無線で送信するシステムが実現できます(図2)。無線のスイッチならば、配線工事が不要なので好きなところに手軽にスイッチを設置することができます。この無線通信技術を応用したシステムを複数の企業が製品化しており、欧州を中心にかなりの導入事例があります。日本では半導体メーカーのロームが、EnOceanの応用製品を積極的に展開しています。

このほかにも、半永久的な電荷を持つ絶縁材料「エレクトレット」を利用する方式や、熱を電気に変換する熱電変換デバイスを使う方式なども検討されています。 

図2 EnOceanの仕組み(出典:日経エレクトロニクス) 図2 EnOceanの仕組み(出典:日経エレクトロニクス)

コンソーシアムを設立して開発を加速

エネルギー・ハーベスティングに関連する技術開発は世界各地で進んでいますが、この中で日本企業の動きは、やや遅れていると言われています。日本国内では、周囲のエネルギーを電力に変換するデバイスを研究する企業や研究機関が多かったのですが、周辺回路も含めたシステム全体を開発する動きがなかなか進まなかったからです。このため、製品化については欧米の企業が先行しています。こうした状況を変えるために、2010年に国内13社が集まり「エネルギーハーベスティングコンソーシアム」が設立されました。このコンソーシアムは、エネルギー・ハーベスティング技術の国際競争力を高めて、この技術の事業化を促進することを目的としています。

エレクトロニクス機器の新たな可能性をもたらすエネルギー・ハーベスティングの技術。IoTの発展だけでなく、地球環境問題の解決に貢献する可能性もあります。今後の展開には、大いに注目すべきでしょう。 

 

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