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Redshift 日本版提携連載「ものづくりの未来」のストーリー

パワーのバランス: 分散型発電によりgridXがクリーンエネルギーを最大化

2016年9月27日の日没後、「Stop Tihange and Doel」と記された青色のレーザーが、ベルギーのユイ近郊にあるティアンジュ原子力発電所の原子炉へ派手にプロジェクションされた(ティアンジュとドエルは、いずれもベルギーの原子力発電所)。その後、当局によって追い出されたのは、ドイツのスタートアップgridXを設立した若者たちだった。

彼らが行ったこの離れ業は、真摯な抗議と抜け目ないマーケティング手法の巧みなバランスで成り立ったもので、gridXの大々的な宣伝という、リスク相応の報酬ももたらした。このgridXもやはり、シェアリングエコノミーという新たな仕組みと、風車同様に従来から存在する工業とのバランスを取ることでエネルギー分配を行っている。二十歳そこそこのgridX設立者兼CEOのダヴィッド・バーレンジーフェン氏とCTOのアンドレアス・ボーケ氏は、ソーラーパネルや電気自動車の利用者である彼らのカスタマーが、環境における利他主義と経済的なインセンティブの間でバランスを取っていることを理解している。そのgridXが先日発表したgridBoxは、貯蔵エネルギーと分散型発電のための「Wi-Fi ルーター」で、美しい形状と必須機能のバランスが取れた製品だ。

ベルギー・ティアンジュ原子力発電所におけるgridXの抗議/宣伝行動[提供: gridX] ベルギー・ティアンジュ原子力発電所におけるgridXの抗議/宣伝行動[提供: gridX]

こうしたバランス感覚全てがgridX本来の目標ともつながっている。それは1日を通して太陽エネルギーシステムのエネルギー容量のバランスを保ち、原子力発電と化石燃料への依存度を低下させるというものだ。このスタートアップは、170万カ所の太陽光発電システムと7万台を超える電気自動車をドイツ国内(およびヨーロッパ全土)で活用することを目指している。

「über」というドイツ語は「~を超えて」「~を上回る」を意味する単語だが、米国人は少し前まで、それを「超」という意味を持つクールな同義語として使っていた。だが、ライドシェアリングサービスを提供するUberの事業的かつ文化変容的な成功により、この語は今や、旧式システムの崩壊、リソースの分散化、シェアリングエコノミーに代わるものになっている。そして「クリーニング業界のUber」や「歯ブラシメーカーのUber」を目指そうと非常に多くのスタートアップが殺到した結果、この「~界のUber」という比喩は、まさに「超」使い古されたものになってしまった。

だがこの言葉は、gridXを形容するには適切だ。太陽電池アレイ(ソーラーパネル)、電池電力貯蔵システム(電気自動車を含む)、ヒートポンプの所有者は、それぞれをケーブル1本でgridBox(449ユーロ=約6万円)に接続することで、余剰エネルギーを電力供給業者に売却でき、また必要に応じて送電網からエネルギーを受け取ることも可能。Uber同様、gridXはリソースを分散化して、参加する各世帯を、利益を上げられる可能性を持ったミニ発電所にする。gridXのハードウェアとソフトウェアは、こうした個々のリソース全てを集約するシステムを提供するものだ。

このgridXとUberに共通するプラスの面が「打開の精神」だ。彼らには、考案したアイデアを実現するための許可が与えられなかったので、それを自分たちの手で実現させた。

電気技師であるバーレンジーフェン氏は、大学卒業後に電力会社で働いていたが、なぜソーラーパネルやバッテリー、ヒートポンプなどの小規模エネルギー資源を構造化して送電網に統合しないのか不思議に思っていた。何しろドイツは、国際エネルギー機関によると、2016年末には既に41.2GWの太陽光発電の設備容量を所有しているのだ。これは太陽光発電設備容量としては世界最大だが、バーレンジーフェン氏の推測では、設備容量の約半分が全く使用されていない。

「私たちはドイツのエンジニアですから、デザインにエンジニアリングを組み込むことにしました」gridX CEO ダヴィッド・バーレンジーフェン氏[提供: gridX] 「私たちはドイツのエンジニアですから、デザインにエンジニアリングを組み込むことにしました」gridX CEO ダヴィッド・バーレンジーフェン氏[提供: gridX]
アンドレアス・ボーケ氏はAutodesk Fusion 360とEagleを使用してgridboxをデザイン[提供: gridX] アンドレアス・ボーケ氏はAutodesk Fusion 360とEagleを使用してgridboxをデザイン[提供: gridX]

「快晴や風の強い日は、グリッドにエネルギーが余剰します」と、バーレンジーフェン氏。「石炭やガスとは異なり、このエネルギーは即座にどこかへ送電する必要があります。しかし発電所の間がスマートに接続されていないため、例えばハンガリーで生産されたエネルギーを、ドイツにある分散化されたバッテリーに貯蔵して夜間に使用する、という手段は無いのです。」

さらに重要なことに、ドイツでは現存する原子力発電所8基の閉鎖期限である2022年が迫っている。世界原子力協会によれば、これらの原子力発電所の総稼働能力は10.7GW。ドイツの太陽光発電を効率良く管理できれば、理論上では原子力発電の稼働能力を置き換えることができ、さらにそれ以上のエネルギーを提供できるだろう。だが、バーレンジーフェン氏が家庭用太陽エネルギーを送電網に分配する手段の開発を提案した際には、上司から採算が取れないと告げられたという。

バーレンジーフェン氏は後に、メカトロニクス(機械工学、電気工学、電子工学、情報工学を融合させた学問分野)エンジニアのボーケ氏と共に、数週間にわたる海外調査の旅に出た。2人とも小規模エネルギーシステムの市場投入に興味を持っており、知識を蓄積すると、エクアドルのどこかでナプキンにgridBoxのアイデアを書き留めた。

その後間もなく、2015年に2名の若い起業家はドイツの小さなビジネスプランコンテストを勝ち抜き、UnternehmerTUM(ミュンヘン工科大学イノベーションビジネス創造センター)TechFoundersのアクセラレータープログラムへの参加を認めらる。これによって、大学が所有するMakerSpaceをプロトタイプ開発に利用できるようになった。それでもゼロから起業したこの会社には利用できるリソースが不足していたが、gridBoxの設計にAutodeskソフトウェアを用いたことがハードウェアプロトタイプの作成コスト節約に役立ったと、バーレンジーフェン氏は話す。

gridX設立者たちはミュンヘン工科大学イノベーションビジネス創造センター(UnternehmerTUM)のMakerSpaceを活用した[提供: UnternehmerTUM/Bert Willer] gridX設立者たちはミュンヘン工科大学イノベーションビジネス創造センター(UnternehmerTUM)のMakerSpaceを活用した[提供: UnternehmerTUM/Bert Willer]

ボーケ氏が大部分を設計したgridBoxは、Autodesk Eagle PCB(プリント基板)デザインソフトウェアとFusion 360の両方が使用された製品だ。「電子機器/PCBデザインを機械CADプロセスへ統合するのは、常に悩みの種でした」と、ボーケ氏。「このソフトウェアは全体的にシンプルだし、自動バージョン管理システムが搭載されているので、反復作業がとても簡単になります。さまざまなデザインをとても迅速に検証できることは、スタートアップには特に重要です。クラウドベースで同期されるので、新製品の機能をマーケティングや事業開発の部門に提示するのも簡単でした。」

gridBoxはガレージや地下室の隅に設置される目立たない存在だが、gridXはその外観にもこだわっている。「デザインより機能が重要なのでしょうが、カスタマーにはパッケージを手にしたときの体験も提供したいと考えました」と、バーレンジーフェン氏。「私たちはドイツのエンジニアですから、デザインにエンジニアリングを組み込むことにしました。人間は重さに価値を感じるので、重量を少し重めにしました。素材にはアルミを使用しましたが、それはアルミが与える少し冷たい印象がテクノロジーを強く意識させるからです。」

ボーケ氏がgridBoxハードウェアに取り組むのと同時に、gridXソフトウェアのデザインも進められた。「本当のマジックはソフトウェアで起きています」と、バーレンジーフェン氏。gridBoxは、メーカーを問わず、あらゆるソーラーパネル、ヒートポンプ、バッテリーシステムとプラグ&プレイで接続できなくてはならない。

gridX gridBoxはWi-Fi ルーター同様にプラグ&プレイで機能[提供: gridX] gridX gridBoxはWi-Fi ルーター同様にプラグ&プレイで機能[提供: gridX]

「それが難関のひとつでした」と、バーレンジーフェン氏。「gridBoxは、接続するだけであらゆる種類の設備と通信をできるようにしなければなりませんでした。Wi-Fiルーターと同じように、インバーターと接続して壁コンセントに差し込むだけで、自動設定が行われる仕様にする必要があったのです。」

家庭内でどのデバイスが最も電力を消費するのかなど、gridBoxのデータはWebアプリがモニター。エネルギーをグリッドへ売却することで生じる余剰キャッシュは、自動的に銀行口座へと振り込まれる。バーレンジーフェン氏によると、各家庭の設備によっても異なるが、平均的なカスタマーであれば年間電気料金を30%ほど節約できる。

「ドイツの文化では、あらゆるコストを計算した上で“よし、バッテリー貯蔵システムを購入しよう。10年後には元が取れる”と決断するのが一般的だと思います」と、バーレンジーフェン氏。「最近は、環境保護について考える人も増えています。再生可能エネルギーへの転換は、特に今後の世代のことを考えると非常に重要なことですが、同時に経済的に意味を成すものでなければなりません。」

ベルギーの原子炉抗議行動で知名度が高まったこともあり、発売を控えたgridBoxの予約注文数は順調な伸びを見せていると、ボーケ氏は笑顔を見せる。gridBoxを先行導入した約150人のカスタマーは既にエネルギーの販売を行っており、このシステムの規模拡張には上限はない、とバーレンジーフェン氏。欧州連合はエネルギーの越境取引を行っているため、gridXはネットワークを2018年フランスやイタリアへと広げ、その後スペインその他の地域にも拡大させたいと考えている。また、バッテリー貯蔵システムはgridBoxを使用する上で必須要件ではないが、バッテリー価格の低下はgridXにとっても幸先の良い出来事だ。

「ネットワークの拡大は、私たちにとっても、エネルギーの移動にも、環境にとってもプラスになります」と、バーレンジーフェン氏。「私たちは発電所へは全くアクセスしない、最大のデジタルエネルギー供給者となりつつあります」。

(Redshift by Autodeskより転載)
『パワーのバランス: 分散型発電により gridX がクリーン エネルギーを最大化』
https://www.autodesk.co.jp/redshift/distributed-generation/

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