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鳳龍四号開発チームインタビュー

世界中の誰もが人工衛星を作れる時代へ——多国籍学生チームで開発した「鳳龍四号」

多国籍チームでの開発ということで、技術面以上にコミュニケーション面の問題が大きかったと放熱処理を担当した山崎貴史さんは話す。

「やはり言語の壁はあって、宇宙開発関係の言葉には苦労しました。最初は英語が全然できなくて、変なことを言ってないかなという気持ちが先行して、話すことに抵抗がありましたが、しゃべらないとどうしようもない環境なので、留学生が使う言い回しや言葉を盗んで学んでいった感じです」(山崎さん)

「最初は本当に単語しか話せない状況でしたが、今では互いに日本語と英語で意思疎通ができるようになったと思います。学生は他の授業や生活と折り合いをつけながら、このプロジェクトに関わっているので本当に大変だったんじゃないでしょうか」(プロジェクトマネージャーのファール・ポリンさん)

相乗りの人工衛星にも厳しい安全基準や技術は要求される。事故が起きてしまえば、日本国内の人工衛星開発が止まりかねないプレッシャーは学生にもかかる。プロジェクトの終盤は毎日遅くまで作業が続き、主要なメンバーは年末年始返上で開発室に詰め、JAXAに衛星を引き渡す直前まで改善の手が止むことは無かった。

「自分たちのチームで開発した電源システムを他のシステムと連動させるのは大変でした。開発スケジュールのかなり後のほうになっても解決しない問題もあり、元々の設計から大幅に見直したためテストもやり直しになり、夜通し作業することになりましたが、打ち上げ前に分かって本当に良かったです」(エドリエスさん)

「私はプロジェクトの途中から入ったので、キャッチアップするのが大変でした。私自身、通信関係を専攻して鳳龍四号でも通信システムにアサインされましたが、衛星の開発に関わるのは初めてで、一から勉強する事が多くて大変でした」(ラーミさん)

「私も途中からの参加で、基本的な部分は出来上がっていて、チームのメンバーも留学生が中心なので、プロジェクトの最初からおさらいしながら関わっていくのは大変でした。言葉の問題もありましたが、最後には無事完成させることが出来ましたし、その過程の中で留学生も日本語も話せる人が増えて、ラーミとはよく日本語でやりとりしています」(開発メンバーの岡田優美子さん)

「大学のプロジェクトですので教育の観点からトライ&エラーを繰り返して学生自身が成長していくと同時に、決められたスケジュールの中で確実に作り上げることが求められます。プロジェクトの最後の方は毎日が月曜日みたいな感覚でしたね(笑)」(ポリンさん) 

プロジェクトマネージャーを務めるファール・ポリンさん(写真右)は、フランスから九工大に留学したのをきっかけに職員としてプロジェクトに参画している。 プロジェクトマネージャーを務めるファール・ポリンさん(写真右)は、フランスから九工大に留学したのをきっかけに職員としてプロジェクトに参画している。

年々成長する人工衛星市場は学生のメンタリティにも影響

宇宙環境技術ラボラトリー施設長の趙孟佑教授は、人工衛星開発の裾野の広がりに期待を寄せている。

「私が学生の頃の宇宙工学は、いつ実用化されるのかわからない技術であり、とにかく実験してレポート書いてといった感じで、自分で人工衛星を作るなんて考えもしませんでした。それが今や大学でも人工衛星を打ち上げることが可能になり、宇宙開発関連のベンチャー企業も出てきたことで、学生のメンタリティも随分と良い方向に変わりました」 

九工大宇宙環境技術ラボラトリー施設長の趙孟佑教授 九工大宇宙環境技術ラボラトリー施設長の趙孟佑教授

米国のスペース財団のデータ※1によれば、世界の宇宙産業の売上は年平均で5%ずつ伸び、2013年時点では3140億ドル(約35兆円)の市場規模にまで成長している。途上国が宇宙開発に進出する中で日本の技術者や企業も海外を意識した取り組みを行うことが重要だと趙教授は説く。

「日本国内でロケットを打ち上げることができ、産業基盤が整っていることは世界から見れば大きなアドバンテージです。ただし、ここでも言語の壁というのがあって多くの(国内の)業者が日本語にしか対応できていない問題があります。部品だけであればスペックを見てなんとなく選べますが、機械加工を頼もうとすると、CADファイルを送ればやってくれるような会社はほとんど無いので、間に日本人学生が入らないといけません。帰国した留学生が母国で衛星開発する際も日本の企業やメーカーを使ってくれることが理想的ですが、携帯電話で言われたガラパゴス化の問題は人工衛星の分野でも起きているのが現状です」 

自作PC並みに簡単に人工衛星を作れる時代へ

趙教授が多くの留学生を受け入れ、多国籍チームで人工衛星を開発している背景には、宇宙開発の裾野を広げたいという強い思いがある。

「誰でも人工衛星作って、宇宙に参入できる時代にすることが最終的なゴールです。宇宙開発の業界をより良くしたいなら裾野を広げ、宇宙に関わる人を増やすべきです。超小型衛星はそれに適していて、大型の衛星よりも少ない予算でスタートでき、開発サイクルも短いので、多くの人が関われます。そうやって新しく出たアイデアを大型の衛星にも取り入れることで衛星自体の可能性が広がっていきます。

次のプロジェクトで言えばシンガポールと共同で月面探査機の開発をしたり、とにかく簡単に作れる人工衛星の開発、留学生だけで衛星を作らせるといったことを考えています。日本の学生にとっては異文化の人間と関わりながら、数年かかるプロジェクトの中で、自分はチームが機能するために何をしないといけないのかを学んでほしい。留学生には技術だけでなく日本のものづくりの文化を持ち帰ってほしいです。ひと言で言うと根性を持って取り組んでほしい。はやぶさの川口淳一郎先生が九工大に来られた際に書いていただいた色紙にも『技術よりも根性』とありました。諦めず、言い訳せずにやれと(笑) 

なぜ根性を持ち帰ってほしいかというと、国に帰ったら日本よりも厳しい環境で開発しないといけないからです。予算が潤沢にある訳ではない自分たちの国に帰ってプロジェクトを始めると、いきなりいろいろな問題に直面するのです。そういったときでも、何とか乗り越えるだけの根性を持ってほしいのです」

趙教授によれば宇宙開発を志す学生の数は年々増え、狭い門をくぐってJAXAなどの宇宙開発に携わる仕事に携わる卒業生を毎年輩出している。また、九工大を巣立った留学生ともfacebook等でネットワークを作り、現在でも交流が続いているという。

日本が培った小型人工衛星の技術が海外にひろがることで、人工衛星を使ったベンチャーが新興国や発展途上国からも誕生する可能性が見えてきている。

 

※1 経済産業省 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業通信放送衛星の市場動向調査 P10より 
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2015fy/000658.pdf

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