【寄稿】台湾の高級中学にファブ施設が続々オープン
「受験勉強だけが教育ではない」学校内ファブラボを進める台湾の今
台湾の学校教育制度
台湾の学校教育制度は、日本と同様の6・3・3・4制であり、国民小学教育6年、国民中学教育3年、高級中等学校教育3 年、大学/専科学校4年からなる。ここで、国民小学教育6年、国民中学教育3年は、全員入学で学費免除が原則の9年国民教育だが、2014年より12年国民基本教育が完全実施され、義務教育は高級中等学校教育3 年を含めた12年となった。国民中学卒業後の後期中等教育は、普通科高校にあたる高級中学と職業学校にあたる高級職業学校に分かれる。ここでどちらに進学するかで、進学できる大学の種類も異なる複線教育である。天然資源に乏しい台湾では、教育によって人的資源を拡充することの必要性が常に強く意識されており、職業教育が重視されてきた。1971年以降、高級職業学校の学生数は高級中学の学生数を上回り続け、前者がピークに達した1994年には2倍以上の開きがあった。その後、高級中学の学校数/学生数が増え続ける一方、高級職業学校の学校数/学生数が減少したため、2002年度に両者の学生数は逆転したが、現在でも多くの生徒が高級職業学校に就学している。
なお、台湾の学校は2学期制で、9月から旧正月(2月上旬)までが1学期、旧正月の休暇明けから6月末までが2学期であり、7月と8月は夏休みとなる。大学入試は高校を6月に卒業した後、7月上旬に実施されている。
著者は2014年の訪問で台北市立松山高級工農職業学校、新北市立新北高級工業職業学校、2015年の訪問で国立台南高級工業職業学校を訪問しており、これらの職業学校においても、従来の工作機械に加えて、3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションの充実ぶりに驚いた。今回訪問した2校の高級中学は普通科の高校であり、いずれもかなりの進学校だという。どうしてそのような学校にファブ施設ができたのだろうか。
新北市立中和高級中学
最初に訪問した新北市立中和高級中学は台北市郊外の新北市にある。地下鉄で台北駅から景安駅まで乗車し、そこからからタクシーに乗り、1時間弱で到着した。1990年に開校した比較的新しい学校であり、男女共学で全校生徒は約2100人。2015年にオープンしたファブ施設は創客中和(生活科技教室)と名付けられている。ちなみに創客とは英語でMakerを意味する言葉である。教室は2つあり、一つは2台のレーザーカッターとNC機械などが置かれおり、数名で作業ができるスペース。もう一つは4台ほどの作業台がある広いスペースであり、複数の3Dプリンタや電子ミシン、マグカップに写真印刷ができる装置、Tシャツへの印刷機、そして電子工作機材などが数多く並んでいた。これらを生活科技の授業のほか、放課後の時間などに自由に使うことができるという。しかも、材料費はここにあるものならば自由に使ってよいとのこと。
私が見学した日は試験期間中であったため生徒たちが活動している様子は見ることができなかったが、普段は8:00~21:00(曜日によって若干異なる)にオープンしているとのこと。並んでいる作品事例を見るだけでも活発に活動している様子が伝わってきた。どうしてこのようなスペースを作ったのかということを伺うと、「多くの生徒たちは受験勉強に取り組むだけで、創造性を育むことなどがない。この施設では創客になることを目指している」とのことだった。また、生活科技の教員だけでなく、他教科の教員もこのファブ施設を活用しており、物理の教員がレーザーカッターなどで製作した振り子の模型の教材や、数学の女性教員がせっけんを作った事例などにも感心させられた。
来客がその場でワークショップを体験できるように、レーザーカッターで製作されたアルファベットの文字が用意されており、これらを組み合わせてキーホルダーを作らせていただいた。この他にも手作りのせっけんやマグカップなどをおみやげにいただいた。この施設では、生徒だけでなく、他校の教員の研修施設の役割もあり、この日も私の訪問前に電子工作の講習会が実施されていた。
また、台湾には3Dプリンタやレーザーカッターなどのファブ設備をトラックに載せて各学校を巡回するファブトラックが数台あるという。