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うんこボタン製造の裏側

量産品は試作品を超えることはできない——スタートアップが中国で量産するときに起きること

「自分の作ったものを多くの人に使ってもらいたい」。

Makerとして話題になるような作品ができれば誰しも思うことだ。10個、20個なら試作(fabrication)の範疇を大きくは出ないが、数千、数万となると、量産(manufacturing)の世界へと踏み出さざるをえない。少ない資金での量産を考えたとき、中国は、依然有力な選択肢だろう。ただ、そこには心得ておくべきポイントがいくつかある。本稿では発注者側のテクニカルアドバイザーである筆者が、実際に体験したリアルな量産の現場をレポートする。

中国での量産を決断

今回対象となった商品のひとつは「うんこボタン」と命名された赤ちゃんの健康管理デバイス。排泄や授乳、睡眠などのデータを取得し、アプリで管理する。もうひとつは、筆者が関わるSTEM教育用マイクロコントローラー「micro:bit」のケースなどのアクセサリー。前者は144Lab、後者はスイッチエデュケーションの商品だ。両社はともにスイッチサイエンスのグループ会社でもある。

企画の発端は「うんこボタン」。子育て中のスタッフの発案で商品企画がスタート。概要が固まり、試作品の開発が進められた。筐体のデザインに入りだした頃、スイッチエデュケーションが開発に関わることになった。関連会社としてプラスチック製の筐体やパーツの量産を依頼されたのだ。

量産し、市場で売るとなると、デザインは重要だ。顧客にとって魅力的で使いやすいものでなければならない。同時に製作側にとっては、機能を満たし、かつ実際にコストの範囲で作れるものにしなければならない。デザインに関しては、両者の要望を満たす専門スタッフが必要となる。それが工業デザイナーだ。

在庫リスク回避のため、初期ロットは数千に抑えなければならない。金型を作り、プラスチックで成型する個数としてはコスト面でかなり苦しい。そのため、スイッチエデュケーションで企画していた商品も同じ1つの金型に掘ることにした。1つの金型に2つの製品を掘り、金型代をシェアすればそれぞれにかかるコストは安くなる。この時点で中国での量産を決定する。コストを考えれば、他に選択肢はなかった。

「うんこボタン」の量産を依頼されたスイッチエデュケーション側が最初に描いたラフスケッチ。おおよそ必要な部品も念頭においている。 「うんこボタン」の量産を依頼されたスイッチエデュケーション側が最初に描いたラフスケッチ。おおよそ必要な部品も念頭においている。

発注前の心得

発注前の時点で、関わる日本側のスタッフには3者が存在する。プランナー(企画者)、工業デザイナー、エンジニア(製作者)である。良いものを作ろう、売れるものを作ろうという方向性は一致しているものの、それぞれ微妙に立場を異にする。「ボタンの形状は◯◯で、筐体は全体に◯◯のイメージで」とプランナーから要望が出る。工業デザイナーはその要望に沿い、機能を考えながらデザイン性を加味していく。

ラフスケッチがあがる。関わるスタッフを招集してデザイン会議を開いた。みんなが改めて意見を出す。各意見に対して、機能、デザイン、製作工程、コスト、納期といった観点からその妥当性を子細に検討していき、落とし所を探す。意思統一を図り、大きくは揺らがない基本方針を固める。

中国での量産を前提にした場合、デザイン会議は非常に重要だ。なぜなら、ここで日本側の関係者の意思統一をしておかないと、その後、中国側が混乱する場面が生まれるからだ。もちろん現実には、微妙な齟齬は必ず出てくる。それでも、できるだけ発生リスクは回避していきたい。そのために、製作担当のエンジニアが考えなければならないのは、「今決めるべきこと」と「先送りできること」を明確にしておくことだ。発注後もこの区別をもとに決めていけば、多少現地が混乱しても大事に至らずに済む。

デザイン決定後に提出されたスケッチを基に、スイッチエデュケーションのエンジニアである宗村氏が、3Dプリントで試作品を作った。予定の電子基板も組み込んでみて、スイッチの位置や形状などさらに細部を詰める。実際に機能できるかも、しっかりチェック。一般に、同じものを作るのだから量産品は試作品と同じと思われがちだがそうではない。いかに金型の精度をあげ、成型条件をそろえても、わずかな寸法のばらつきは避けられないのだ。100%同じとはいかない。量産品は試作品より劣らざるを得ず、完璧に動く試作品を作らないと、それより劣る量産品はまず動かない。こうして量産試作が出来上がった。中国側との折衝はここから始まる。

ラフスケッチを前に、さらに詳細を詰める。プランナーとエンジニアなどの他のスタッフとの意思統一が重要だ。 ラフスケッチを前に、さらに詳細を詰める。プランナーとエンジニアなどの他のスタッフとの意思統一が重要だ。

発注前の心得

中国の工場へ発注する際にはさまざまな方法がある。量産の経験があればネット等を使い自分で相手先を探すのも一つの手だが、日本側と中国工場をつなぐコーディネート会社に頼む方法が一般的だろう。

今回は以前から筆者と付き合いがある「学研香港」という会社にコーディネートをお願いした。学研のグループ企業だが、他社の受託製造もしている。玩具製作の経験が豊富で、「うんこボタン」のような電子基板が組み込まれたガジェットの生産は得意だ。名前の通り本社は香港だが、現地の中国・東莞に支社がある。まずは量産試作を現地に送り、見積もりを取る。ポイントは、3つ。品質、コスト、納期(QCD)だ。品質をあげ、納期を早めればコストは上がる。ある程度不良率を許容し、納期に余裕を持たせればコストは下がる。それぞれは密接に関連している。

学研香港から提出された見積もりを上記3つのポイントから子細に検討する。納得がいけば発注契約を結ぶ。契約後、金型の製作依頼用の図面を作る。図面上での細かなやりとりの後、正式な金型図面が出来上がった。すでに144Labから量産の依頼を受けて2カ月が経過していた。2017年11月、金型製作がスタートした。

見積もりを取るときに使った部品のスケッチ。中国側がしっかり見積もれるよう、金型の構造に影響する細かい部分も指定する。 見積もりを取るときに使った部品のスケッチ。中国側がしっかり見積もれるよう、金型の構造に影響する細かい部分も指定する。

T1(トライワン)は試しの試し

12月初旬、金型が完成し、T1(トライワン)が上がってきた。日本に送ってもらう。「T」は「Try」つまり試し打ちを意味する。射出成型機に金型を固定し、予定の成型条件で樹脂を流し、成型する。射出成型機で成型することを「ショットを打つ」ともいう。

T1は「ファーストショット」とも呼ばれ、諸々問題があるのが普通。最終品には程遠い。これを見て、金型を徐々に修正していく。T1段階のものは、エンジニアがチェックする。今回は、スイッチエデュケーションのエンジニアである宗村氏と同社テクニカルアドバイザーの小美濃氏が2人でチェック。小美濃氏は学研で付録や教材などを20年以上製作してきたベテラン。細かい齟齬も見逃さない。

0.5mm以下の直しはあるものの、うんこボタン、micro:bitのアクセサリー、共にT1の割に問題は少なかった。それでも0ではない。うんこボタンに問題があった。ひとつは筐体の表面。白・ツヤありで注文を出していたが、若干くすんで見える。金型の磨きが足りないようだ。その旨をメールで伝えた。

色や質感の修正指示はできるだけ具体的に出すことが肝要だ。市販のサンプルプレートでやりとりする方法もあるが、確実なのは自分がイメージするものをどこかのプラスチック製品から切り取るなどして、サンプルとすること。これを見せて、できるだけ近づけるように指示するのが間違いない。

次にボタン部分のガタつき。ただ、T1はゆるめに作り、その後詰めていくので想定内ではあった。ボタンは左右に1つずつあるのだが、左側のガタつきが大きい。感覚的なものではあるが、自分も含め3人がチェックしてガタありと感じる。イメージするクリック感にどこまで近づけるか? 問題はボタンと基板をつなぐ部品の形状か、それとも穴の大きさか。いずれにしろ、寸法を変える必要がある。あまり詰めすぎると、周りの部材と干渉して押せなくなる可能性もある。

T1の割に完成度は高いが、量産に向けて詰めなければならないところはまだまだある。 T1の割に完成度は高いが、量産に向けて詰めなければならないところはまだまだある。

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