トラブルをアイデアに変え、新製品を生み出す企業の力
きっかけはトラブルだった——旅館の食事に欠かせない「例の青い固形燃料」が生まれた理由
よく目にする日常品にも、企業が初めて製品化あるいは量産化するときにはさまざまなアイデアが必要だったはず。そんな開発時のアイデアに注目することは、Makerにも役に立つのではないだろうか?
1963年創業のニイタカは本社を大阪に置く化学製品の会社だ。主に業務用の洗剤や除菌剤などを製造販売している。レストランや居酒屋の厨房で活躍する製品なので一般にあまり目にすることはないが、業界ではトップシェアを争う会社だ。1981年、同社品を扱う販売店のふとしたアイデアから誰もが知る画期的な商品が生まれた。ハードウェアの企画開発とはまた一味違う、化学製品の誕生とその製造についてレポートする。
必要が生んだ新製品
旅館の料理は旅のメインイベントのひとつ。ひとりひとりお膳に据えられたコンロの上で、その土地ならではの食材を使い、網焼きや鍋を楽しむ。そんなとき、アルミ箔に包まれた青い円柱状の燃料にライターで火を付けた経験をお持ちの方も多いだろう。一度は目にしたことがあるのではないだろうか?
30年以上前は、チェックインが遅れてすでに夕食の時間が過ぎ、旅館の食事がすっかり冷めてしまった、などということは珍しくなかった。「温め直してください」ともいえず、しかたなく冷たい料理を口に運んだひともいるだろう。
当時「旅館での食事の際に固形燃料のようなもので料理を温めている」との情報をキャッチしたニイタカは、さっそく新商品開発に取り組み今では業界シェアナンバー1を誇る「カエン」を生み出した。
製品にするために考えなければならないこと
カエンの原料はメタノール。これを固めて円柱状にしたものを、フィルムでシュリンクの個包装にしてアルミ箔を巻いた。一見、簡単に製造できそうに思えるが、ここに至るまでの商品開発の苦労は並大抵ではなかった。クリアしなければならない条件は思った以上に多かった。
何より顧客が自ら使うものなので、安全でなければならない。それでいて確実に着火する必要がある。当然、調理のため火力を保ちつつ一定時間燃焼しなければならない。燃焼時、消火時のにおいも大敵だ。できるだけ抑えたい。飲食店での保管も考えなければならない。原料がアルコールなので放っておけば気化してしまう。これらの条件をクリアすべく、原料を調合して固形燃料のもとになる液体状の燃料を作り、冷却すれば固化する燃料を開発。燃焼すれば理想のカロリーが得られる配合を目指した。
これに消臭剤を加え、燃焼時、消火時の臭いを極力抑えた。顧客が扱いやすく、かつ製造しやすい形状の研究もなされた。結局、現在の円柱状にたどりついた。円柱の大きさを変えれば量が変わり、量が変われば燃焼時間が変わるので、調理別の燃焼時間に応じた製品が容易に製造できる。製造工程上も円柱は有利だ。液体を固体にする丸い冷却パイプを通す中でその固化が進むので必然的に円柱になる。これを輪切りにする。輪切りのピッチを変えれば円柱の高さが変わる。
安全性への配慮
燃焼してもにおいが出ず材料の火力に影響しないフィルムでシュリンク包装することで、アルコールの蒸発を防ぎ長期の保存を可能にした。問題はまだあった。円柱状だと子どもの目にはお菓子のように見えてしまう。そこで個包装のシュリンクフィルムには「たべられません」の文字を印刷した。
市場では、燃料容器は種々雑多であったので、同じサイズの固形燃料でも燃焼時間に差がでてしまうし、燃えすぎによる酸素不足で不完全燃焼を起こしホルマリンガスが出て臭いの発生にもつながることが起こった。そこで安定して必要な時間燃えるように、また、臭いの発生を防ぐためにアルミ箔で包んだ。そのことによって燃焼容器が要らなくなる(使用時の部品が一つ削減できる)と同時に残ったカスはそのまま捨てられるようにもなり、廃棄もずいぶん楽になった。