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スイッチサイエンスのバイヤーが語る、トラブルに負けない正しい電子部品の仕入れ方

電子部品を扱う通販ショップ、スイッチサイエンス。電子工作ファンなら一度や二度は購入の経験があるだろう。
2008年の創業時、まだあまり知られていなかった「Arduino」を輸入し、以後「Raspberry Pi」、「micro:bit」、「M5Stack」などさまざまなシングルボードコンピューターや関連商品を扱ってきた。今や扱うアイテムは3000種以上。電子工作ファンを満足させる多くの商品を国内外から仕入れ、供給し続けた陰には、腕利きバイヤーの活躍がある。新型コロナウイルスで騒然となる中、仕入れ担当の安井良允氏と牧井佑樹氏に話を聞いた。
※このインタビューは2020年3月10日に行いました。

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの影響で工場の稼働率は20~50%

——新型コロナウイルス騒ぎでお忙しい中、取材をお受けいただき、ありがとうございます。影響はどんなものでしょうか?

牧井:中国関連の商品については、例年春節(中国の旧正月。2020年は1月24日~30日)前に大量に発注します。1~2月はそれでしのげますね。ただ、発注したものがすべて入ってくるわけではなく、一部は春節明けになります。その分がやっと今週入ってきた感じです。しかしそれでもすべてではないですし、春節明けに行った発注についても不安が残ります。

安井:物流は先週ぐらいから一斉に動き出した感じですね。ただ生産面での回復は遅いです。工場の稼働率は例年の今頃の20~50%ぐらいと現地関係者から聞いています。労働者が戻ってきていないのと、部品のサプライヤーが完全には機能していないのが要因だそうです。まだ予断を許さないですね。

牧井:中国から部材を仕入れて、自社商品として組み立てる日本やアメリカの会社などは、部品が入って来なくて困っているようです。そういった会社からも製品を仕入れているので、そこでも影響はありますね。

新型コロナウイルスの影響について語る牧井氏。 新型コロナウイルスの影響について語る牧井氏。

予期せぬトラブルになんとか対処

——今回のような未曾有の災難でなくとも、仕入れに関してのトラブルはありますか?

牧井:大小いろいろですね。中でもお金を支払ったのに品物が届かない、なんていうのが一番痛いです。ある海外の会社との取引で、それまで順調だったメールのやり取りが、あるときを境に急にレスポンスが遅くなりました。あぶない兆候です。結果、支払いは済ませたのに品物は届かず、ということになってしまいました。

安井:主力商品の仕入先が変わってしまうというのも大きなトラブルですね。2015年のArduinoの分裂騒ぎ*なんかのときがそうです。仕入先の会社が2つに分かれてしまい、一時完全に供給がストップしました。主力商品でしたので、会社の存続に関わる非常事態でしたね。その後分裂していた会社が再度合併することになって事なきを得ましたが……。

※Arduinoの分裂騒ぎ:2014年ごろにArduino関連の2つの組織が互いに自分が正統であると主張し訴訟合戦に至った。2016年に和解した。

牧井:騒動の最中は、こちらとしては「現在品切れ」とアナウンスするしかない。お客さんを待たせてしまい、本当に申し訳ない気持ちでした。

安井:2016年の再合併後は、新しくできた会社から仕入れたのですが、ビジネスとしては仕切り直しになってしまい、支払い条件だとか、物流をどうするかなどは、再交渉になりました。あのときは新会社の担当者が以前のことをまったく知らず、とんでもない輸送会社を使い、桁違いの送料を乗せてきたので慌てました。しかたなくこちらで別の輸送会社を手配しましたが……。

「Arduinoの分裂騒ぎのときは大変でした」と語る安井氏。 「Arduinoの分裂騒ぎのときは大変でした」と語る安井氏。

牧井:大きなトラブルではないですが、以前、中国の工場で生産したUSBケーブルの長さが発注時の想定と違ったことがありました。
スイッチサイエンスでは50cmが通常サイズで、自社製のキット品にも多く同梱しています。そのため生産するときは数千の単位で作ります。あるとき長いのも試してみようと1.8mのものを作ってトライアルで売ってみました。でもキット品にも使っていないですし、あまり数はいらなかったので数量は少なかった。その後、50cmに戻して通常発注したのですが、彼らからの請求書に1.8mとあったのを見逃して、支払いを済ませてしまった。届いた多くの1.8mのUSBケーブルを見てあ然としました。仕入れ担当者としては痛恨のミスですね。こうなったら長い目で売っていくしかない。実は今でも在庫があります。

左がスイッチサイエンスで扱う通常の50cm USBケーブル。右が1.8mバージョン。 左がスイッチサイエンスで扱う通常の50cm USBケーブル。右が1.8mバージョン。

悔しい売り逃し

——「新商品の発売日に品物がなかった」なんてことはありますか?

安井:新商品はどうしても供給が足りない。予測できない不備もあり得るため、製造側が初期ロットを抑えるからです。発注するこちら側も最初は様子をみたいのでためらいがち。発注のタイミングが遅くなる。製造側は一番早く注文をした会社から優先的に出荷していくので、発注側では、発売日に品物がない、ということが起こり得ます。Raspberry Piのときにありました。我々の力不足といってしまえばそれまでですか、売り逃しは本当に悔しいですね。

牧井:Raspberry Pi 4のときは、Raspberry Pi 3や3B+などの実績があったので、予測は立てやすかったですね。

安井:でも初動に関していえば、思ったほどはRaspberry Pi 3や3B+から乗り換える人が多くなかった。電源とHDMIのコネクターが変わって、置き換えが簡単じゃないことなどが影響してますね。それもあって、Raspberry Pi 4発売直後は、かえってRaspberry Pi 3とか3B+が品薄になる、という現象も起きました。

2019年12月に発売されたRaspberry Pi 4 Model B。 2019年12月に発売されたRaspberry Pi 4 Model B。

確度の高い情報が仕入れの決め手

——仕入れ商品はどうやって選んでいるのでしょうか?

安井:まずはお客さんのニーズを探ることから始めます。TwitterやFacebookなどのSNSやニュースサイトなどの情報、Maker Faire等の展示会や交流会などから得られる情報をチェックしています。

牧井:社内のエンジニアからの技術情報なども参考になりますね。新製品について感度の高いメンバーが多いので、情報源として頼りにしています。

安井:人づてに直接入ってくる情報も意外に確度が高いんですよ。たとえば、知り合いからの「海外で買ったんだけど、これいいんだよ」といった類い。人が実際に使ったことがある商品なので、品質についてはある程度信用できます。

こんなケースもあります。学校の先生からある商品について「Amazonで売っていて授業で使いたいんだけど、信用できるメーカーの製品かどうか分からない。調べてくれないか?」といわれました。当該企業とコンタクトをとると、面白い商品だということがわ分かってきました。仕入れ条件もよかったので、個別案件ではなく、スイッチサイエンスの商品として仕入れることにしました。

主力商品のArduinoを持つ牧井氏(左)とRaspberry Piを持つ安井氏(右)。 主力商品のArduinoを持つ牧井氏(左)とRaspberry Piを持つ安井氏(右)。

試しで仕入れたM5Stack

——最近話題の商品となるとM5Stackだと思いますが、どうしてこれを仕入れようと思ったのでしょうか?

安井:初めて商品を見たのは2017年のMaker Faire 深センの会場です。「『液晶が付いて筐体に入ったArduino』を売っている」という情報を得て、彼らのブースに行きました。それほど強烈な印象があったわけではないのですが、試しに仕入れてみようかと。

牧井:ただ、会場で見たデモの画面にはマリオが映っていたので、「デフォルトで入れるのはやめてくれ」と頼みました。版権侵害になるので。

安井:最初の発注数は確か100ぐらいだったかと。その後、200、300と雪だるま式に増えていって、1年後には1000以上になりました。

牧井:発注数は増えたのですが、種類も急に多くなった。なにせ週に1度、何かしら関連商品がリリースされたのですから。「2019年は商品を多く出しすぎた」と彼ら自身が反省しているぐらいです。

安井:僕らから見れば、プロトタイプレベルの商品まで、彼らはアリババで出してました。ただそれはアーリーアダプター*に買ってもらい、評価してもらおうという、彼らのマーケティング戦略の一環。それを見た日本のお客さんから「スイッチサイエンスでも扱ってほしい」と言われたこともあります。ドキュメントさえ整備されていませんから、一般のお客さんが扱うには相当難しいと思いますが……。

※アーリーアダプター:比較的早く新商品や新サービスを受け入れ、まだ知らない消費者に影響を与える利用者層。流行に敏感で、自発的に情報を獲得し、対象を評価する。

M5Stack Basic。M5Stack関連商品の勢いは2020年も止まらないだろう。 M5Stack Basic。M5Stack関連商品の勢いは2020年も止まらないだろう。

バイヤーおすすめの新商品

——今後話題になりそうなおすすめの商品ってありますか?

牧井:「YDLIDAR」ですね。距離計です。製品としてはLIDAR(LIght Detection And Ranging:ライダー)と呼ばれているものです。

安井:距離センサーがクルクル回って周囲の距離を測定してくれます。ドローンに載せたりして壁との距離を測るとか。

牧井:あるいはロボット掃除機に載せて使うとか。障害物との距離とか正確に分かるので。

安井:レスキューロボットもいいですね。人がいないところでしかも視界がない場所でマッピングが必要な場合に便利ですから。

牧井:最初は「100ドルLIDAR」みたいな感じで価格が話題だったんですけど、安い割に精度も良くて。この前、当該メーカーが直接日本の展示会に出展して、好評だったそうです。「どこで買えるの?」と。

安井:他社製のLIDARだと普通は20万~30万円はします。それが1万円ですからそれなりではあるけれど、ちょっとした実験ならこれで十分。

牧井:安価で性能もそこそこ。コストパフォーマンスのいい商品です。

360度の2次元レーザー距離計「YDLIDAR」。今後期待の商品のひとつ。 360度の2次元レーザー距離計「YDLIDAR」。今後期待の商品のひとつ。

最後にバイヤーとしての心得を2人に聞いたところ、同じ答えが返ってきた。「とにかくスピード」。いかに早く情報を得て、いかに早く仕入れるか。これからもさまざまなトラブルに対処しながらスピード重視で多彩な商品を仕入れ続け、電子工作ファンの期待に応えてくれるはずだ。

「これからも面白い商品を仕入れていきたいです」意欲を語る2人。 「これからも面白い商品を仕入れていきたいです」意欲を語る2人。

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